73 エミリオの行方
緊張感に満ちた生徒会室から出たエミリオとフリア。
迎えの馬車が来る時間までゆったりと並んで停車場に向かった。
心地よい風がフリアの髪をすり抜けていく。
エミリオを見上げると、風に遊ばれた前髪を気にして手で邪魔そうに梳いていた。
「『内務』は『部門別発表会』で何を出すんですか? ガルシア先輩が中心になって行うのですよね?」
エミリオは主家の嫡男、一門の学生を牽引する立場にある。
「いつもと同じかな。前年度に決めた政策目標の結果と、来年度の目標をパネルにして展示するだけだよ。見栄えのする仕事じゃないからね⋯⋯」
「大切なお仕事ですよ。国の運営ですから」
フリアのまっすぐな瞳に、少し気後れするエミリオ。
少し自嘲のこもった笑みを浮かべた。
「でも、『内務』一門は祖父のやってきた事を知っているから、僕への風当たりが強い。纏められるかどうか⋯⋯」
視線を外し、エミリオは肩を竦めた。
「⋯⋯え? そんな」
フリアの中で『内務』の生徒たちへの憤りが湧き上がる。
「『医療』はどうなの? フィールドワークの結果とか出すの?」
「はい。まだまだ始めたばかりですけれど、少しずつ分析の結果が出て来ているんですよ」
二学年の生徒が中心とは言え、フリアは『医療』バストン侯爵の担い手だ。
今、活気に満ちた『医療』を取り纏めるのは、自然とフリアの役割となっていた。
「そうか。楽しみだな。⋯⋯僕は祖父の裁きが済んだら、きっと父は公爵家が持つ男爵位へ降格されるか、平民になって地方の役所で働く事になるだろう。だから今、中心に立っているのが辛い。なのに、みんながそれを許してくれないんだ」
「ガルシア先輩が平民に⋯⋯?」
停車場に着いたが、自分たちの家の馬車がまだ来ていない。
二人は、車寄せの脇にあるベンチに並んで座る。
「父は宰相職を解かれるだろう。祖父を止められなかったから。どうせ地方に行くなら、うんと遠い所がいいな。みんなに会わないで済む」
「そっ、そんな事を言わないで下さい! あっ、あの、なんでしたら、『医療』に来ませんか? フィールドワークの整理とかっ」
フリアは何とかエミリオが元気にならないかと必死に訴える。
エミリオには薬草の知識など無い事にも、まるで気付いていない。
「くくっ。何でロペス嬢がそんなに必死なの? でも、ありがとう。そういうのも面白そうだな。あー、ごめんな。泣き事言って」
「⋯⋯」
フリアは眉を下げ、エミリオの横顔を見上げた。
「でも、そんな道もあるのか⋯⋯」
赤く染まりだした空を見つめるエミリオの顔は、どこか吹っ切れたようだった。




