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ガラス細工を愛する少女は王妃様を輝かせたい  作者: 麻生あきら
第六章

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70 『内務』一門

 生徒会室から走り去っていくクリスを、アルドーはただ呆然と見送った。

 のろのろと足を動かし、ソファに腰を下ろす。

 まだ役員たちは誰もおらず、秋口の少し乾いた空気だけがアルドーの周りに漂っている。

 

 もう少し他に言いようがあったのに、どうしてあんな風に言ってしまったのだろう。

 素直に口に出せば伝わるのだろうが、理屈が先になってしまう。

 

 ジュールの事もあれが最善だと思っていた。

 誘拐されたのなら首謀者と居場所を特定するのが先で、保護はそれからでも充分だ、と。

 目の前で拐われた訳でも、部隊の指揮権が自分にあった訳でも無い。

 

「責任転嫁は駄目だな⋯⋯」

 ボソリと呟く。

 

 

 

「クリス様が走って走っていかれましたけれど⋯⋯」

 

 ドアが開き、セーレナがツカツカとアルドーに歩み寄って来た。

「何があったんですか?」

 扇でピシャリとアルドーの肩を叩く。

 アルドーは顔を上げ、虚ろな目をセーレナに向けた。

 

「価値観の違い⋯⋯なのかな?」

 先程のやり取りを話す。

 

「捜索する上で軍が取った行動は仕方が無いと思いますわ。貴方も王族ならそうするでしょう? おそらく私もそうしますわ。ただクリス様にとっては嫌いでもお身内ですしね。助けたかった気持ちが沸くかも知れませんわね」

 

「もう戻ってこないかも知れない」

 

「⋯⋯不甲斐ないですわね。これを埋められないとしたら、生涯を共にする相手では無かったという事ですわ。それが嫌なら埋める努力をなさいませ」

 

「⋯⋯そうだね」

 膝を抱え顔を埋めるアルドー。

 

「ところで、ギルランド様はどこに連れて行かれたんですの?」

 再びセーレナに肩を扇で叩かれた。

 

「ああ、あまり気分の良いものじゃないが⋯⋯。実は⋯⋯」

 アルドーはセーレナに軍から受けた報告内容を話す。

 セーレナの顔から表情が抜けていく。

 

「⋯⋯そうですか。それなら尚更、クリス様とお話し合いになった方が宜しいわ」

「ああ、必ず。⋯⋯失いたくないから」

 

 

 

 アルドーはソファから身を起こし、机に移動する。

 その時、エミリオが沈痛な面持ちでドアを開けて入室した。

 

「あの、殿下。『部門別発表会』の科目の時に気になる事があって⋯⋯」

 口籠りながらも話す。

 アルドーが促すとエミリオは語りだした。

 

 

 

「ねえ、坊っちゃん。何、うつつを抜かしてるんですか?」

 

 エミリオは一門の生徒たちに囲まれた。

 

「生徒会にどっぷり嵌って、すっかり第二王子の子飼いじゃないか」

「ラマート子爵家はことごとく失敗して」

「尻拭いさせられて迷惑」

「そもそも先代を何とかしろよ」

 

 生徒たちは口々にエミリオを詰る(なじる)。

 一人の男子学生が進み出て、前屈みにエミリオを覗き込む。釣り上がった眉、細い眼鏡の奥には抜け目無い瞳。

 口元は薄笑いを浮かべている。

 

「ブルーノ・モレッティ」

 エミリオが呟く。

 

「おや、よく私の名前が解りましたね」

 フォルフェクス男爵モレッティ家の嫡男。

 マールム公爵家の家令の実家だ。

 幼い頃からダニエレより余程会う機会が多かった。

 

「ダニエレ・フォンターナの一件で貴方に自由がなくなったのはわかるんですが、こっちはいい迷惑ですよ。酒のせいか老人のせいなのか、大旦那様は最近言う事が支離滅裂で。まあ、最近はいいおもちゃを手に入れたようで、そっちに興味が向いてますがね」

 

「なっ、どういう事だ? 僕はあれ以来、学園以外に出る事を許されていない。情報が遮断されてる。⋯⋯祖父の理由のわからなさは、僕も気付いていたが」

 エミリオは唇を噛み締めた。

 

「貴方がアンバーブロウ嬢を取り込めないでいる間に、大旦那様に注進したのですよ。あの娘を何とかしたいなら『芸術』の主家の息子を使うといいってね」

 

「⋯⋯!」

 

「それと、第二王子はあの娘が気に入っているようですよって」

 ブルーノは口の端を吊り上げて笑った。周りの生徒たちも同様だった。

 

 

 

 アルドーとセーレナに緊張が走る。

「話してくれてありがとう。あとはこちらに任せなさい」

 アルドーの言葉に、エミリオは弱く頷いた。

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