63 エリオットは察する
「お姉様。改めて、おかえりなさいませ。なんだかとてもお綺麗になられてびっくりしました!」
「会いたかったわ、エリオット⋯⋯」
ふいにクリスはエリオットを抱きしめた。
少しの間、クリスはうまく言葉が紡げなかった。
エリオットがクリスの背中を優しく撫でた。
「お母様、王妃様のもとでお元気でいらっしゃるそうよ⋯⋯。でもまだ、お会い出来ていないの」
「⋯⋯でもお元気なんですね? それがわかっただけでも嬉しいです」
エリオットも涙を滲ませる。
エリオットはまだ六歳だった。
大好きだった事くらいしか覚えていない。
それでもクリスが語る母の思い出はエリオットの中で溶けて混じり合い、大切なものになっている。
「あの、それで、第二王子殿下は何故? とても仲が良さそうだけど」
「ん、んんっ。わたくしはアルドー様からブローチの製作依頼を受けています。現物を見て決めたいと、ここまでいらしたのです」
顔を赤くして慌てるクリス。
完全に疑いの眼差しで見つめるエリオット。
「そういう事にしておきますね」
にこにこ笑うエリオット。
「あ、そうだ。昨日フォンス侯爵令嬢マイヤ様の使者から言付かりました。二・三日中にはいらっしゃるかも知れません」
「マイヤ様が? わかったわ、ありがとう」
「エリオットにまで言われてしまったわ」
クリスは項垂れながら、自室でロミに手伝われ旅装を解く。
「だって、王都を出てからずっと浮かれてますよ。特に殿下が」
ロミが呆れたように言う。
「そ、それは、否定できないわ。わたくしも嬉しくて。ご一緒したくても学園ではそうもいかないから」
「なんにしてもお嬢様がお幸せそうで、ロミは嬉しいです」
「ありがとう」
クリスとエリオットはアルドーを迎え、食堂で昼食を囲んだ。
ブジェフでは朝食、夕食は軽めにとり、昼食を重めにいただく。
シチューにサラダ、茹でたパン、最後にデザートで締める。
「パンを茹でるのは面白いね。シチューを絡めていただくの?」
アルドーが興味深げに問う。
「はい。遠い先祖の故郷の料理だそうですわ。グラスビーズも彼らの産業なのだとか。贅沢品に近いものは早いうちに廃れてしまったそうです。その中の一つが、わたくしがコサージュで使った、あの小さいビーズなのです」
「小さい方が派手?」
不思議そうに首を傾げる。
「大ぶりな色ガラスは鉱石の代わりに貴族が使いますが、小さいものは織ったりと加工に時間が掛かりますので、お値段も上がりますし⋯⋯。人手も足りなかったのかも知れません。開拓優先ですもの」
「なるほどね」
「でも、折角あった物を捨ててしまうのって残念ではありませんか? 派手すぎないデザインでペンダントトップですとか、ネクタイピンにしても良いのではないかと思いまして」
「お姉様、食事の手が止まってますよ。相変わらずですね。⋯⋯殿下、こんな姉ですけれどよろしくお願いします」
エリオットがペコリとお辞儀をした。
「えっ。ああ、勿論だとも」
アルドーがぐるんと勢いよく首を巡らせ、驚愕した表情でクリスの方を向いた。
クリスはただただ苦笑いするだけだった。
翌日、クリスとアルドーはロミの案内でガラス工房の組合を訪れた。
ロミの父である組合長は突然の第二王子の来訪に動転したものの、アルドーが身に着けるに値する彫金師がいるガラス工房へ案内した。
工房ではクリスのラフ画を元に、彫金師とガラス職人が話を詰めていった。
一週間程クローステール男爵邸に滞在する旨を伝え、工房を出た。
その時、邸の使用人がフォンス侯爵令嬢マイヤの到着を伝えに来た。
アルドーと共にクリスは邸へと戻って行った。




