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ガラス細工を愛する少女は王妃様を輝かせたい  作者: 麻生あきら
第五章

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58 可不可

「ジュゼッペ氏は、マールム公爵邸から姿を消しました」

 

 王城からの使者の言葉に、生徒会室にいる全員が驚愕した。

 使者はその後、役員それぞれに今後の予定を告げた。

 

 ダニエレは自宅へ護送された後、軍の監視下に入る。

 エミリオはマールム公爵のタウンハウスで、公爵・公爵夫人と共に三人で聴取を受ける。

 アルドー、セーレナはこれから王城で聞き取り。

 その他の役員は、明日同様に行われる。

 

 兵士に促されダニエレは静かに退室した。

 エミリオはフリアとペールの怪我を心配し謝罪した後、もう一人の兵士と共にマールム公爵邸へと帰っていった。

 

 

 

 クリスはダニエレに横薙ぎにされて、机に打ち付けられたペールが心配だった。

 かなり顔を歪めていた。

 

 ペールは「ガルシア先輩が何だか泣きそうだったから⋯⋯」と痛いのを我慢していたらしい。

 フリアが進み出て、医療室へペールの手を引いて行った。

  

 使者と共にアルドーとセーレナは王城へ向かい、イシャーンとクリスは帰宅の途についた。

 アルドーが去り際に「クリス、先程は封筒をありがとう」と言った。

 優しい気遣いにクリスは微笑んだ。

 

 

 

 次の日の放課後、クリスの上位クラスに「いつもの先輩」はやって来なかった。

 クラスメイトは残念に思ったが、昨日の騒ぎで何かあったのだろうと推測した。

 名物の男子生徒は『内務』のマールム公爵の嫡子。

 フリアに無体を働いたのがその従弟である事を全員が知っていた。

 

「残念ね、アンバーブロウ様」

 口々に上位貴族の子女たちがからかう。

 

「皆様に話題を提供出来なくて残念に思いますわ」

 クリスは躱して、フリア、ペールと共に三人で生徒会室へ移動した。

 

 生徒会室にはイシャーン一人が机で会計作業をしているのみで、アルドーとセーレナの姿はなかった。

 アルドーの代わりにフラッハが生徒会長席に座っていた。

 

「やあ、ごきげんよう、御三方。殿下とラティオ嬢は王城で聞き取りを受けてるから、今日はお休み。私が代わりに鍵を開けに来たんだ」

 

「兄上ー。開けるだけなのに、何でそこに座ってるんですかー?」

 ペールが机に走り寄って、兄の頬をグリグリと突く。

 

「こんな時しか出来ないじゃないか」

 鬱陶しそうに手首を掴み、ペールの頬にそのまま押し付けた。

 

「この件はマグノリア王国正規軍の諜報部が動いてるんだ。それで君たちも今から移動して欲しい」

 その一言で学園の裏口に停められた馬車で、軍庁舎へ向かった。

 

 

 

 軍庁舎は王城の主城門の外にあり、王城よりは小ぶりだが充分に堅牢な造りだ。

 建物の真ん中に訓練場があり、兵士たちが剣や銃で非常時に対応すべく腕を磨いている。

 

 五人はフラッハを先頭にブリーフィングルームへ急いだ。

 まずは全員から一連の流れの聞き取りがあるらしい。

 その後は一人ずつ聴取が行われる。

 

 こんな事で王城へ赴きたくはなかったな、とクリスは思う。

 事件の解明は母の解放にも役立つだろう。

 そう思い直した。

 

 初めての軍庁舎にペールなどは辺りを興味深そうに視線を巡らせ、イシャーンは値踏みするように設備を見ている。

 クリスも窓に嵌められた耐火・耐衝撃ガラスに興味を奪われ、どことなく気もそぞろだ。

 そんな中、フリア一人が沈痛な面持ちで最後尾を歩いていた。

 

 

 

 ブリーフィングルームに通され、生徒会発足から昨日までの出来事を順を追って話し合った。

 一人が話し、誰かが補完する。

 そんな具合で行われた。

 その後、一人ひとりに兵士が割り当てられ個別の聴取となった。

 

 クリスにはあまり威圧感のない男性兵士が担当になった。

「クリス・アンバーブロウ? キアラ・フォンターナの娘か?」

 

 柔らかい調子で問われたが、クリスに緊張が走る。

「はい」と、探るように答えた。

 

「若い頃の彼女によく似ている。可愛い才女で一部で有名だったよ。まさか、ノア・アンバーブロウと結婚するとはなぁ。みんな驚いたよ、婚約が公表された時は」

「学園の頃をご存知なのですか?」

「ああ、私の方が年下だが。しかし、厄介な事に巻き込まれて大変だったね」

 

 学園時代を知る人物に会えるとは、クリスは思っていなかった。

 不思議な縁を感じた。

 

「お気遣い、ありがたく存じます」

 

 

 

「わかった。ありがとう。聞き取りはお終いです」

 幾つか質問の後、兵士は言った。

 

「あの、一つだけよろしいですか? 母は今、どうしているかご存知でしょうか」

「今朝、王城で元気な姿を見たよ」

 なんてことはない、そんな調子で兵士は言った。

 

「良かった。お母様」

 クリスはそれだけで嬉しくて、溢れる涙をこらえる事が出来なかった。

 

 聞き取りを終えたフリアがクリスに駆け寄った。

 クリスを労わるように、背中を撫でる。

 クリスが顔を上げると、何故かフリアの顔に乾いた涙の跡がある。

 

「フリア様、どうしたの? お顔が⋯⋯」

「あっ、昨日の事を思い出していたら、悲しくなってしまって。ガルシア先輩もフォンターナ様も、お二人ともお労しくて⋯⋯」

 

「優しいのね」

 クリスはフリアを抱きしめた。

 

「クリス様は?」

 フリアもクリスを抱きしめ返す。

 

「お母様がお元気なんですって」

「良い知らせね」

 ぎゅっと力が込められた。

 

「さ、君たち。他の子も終わったようだ。送りますよ」

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