43 リカルドの告白 2
レオナルドとリカルド兄弟は幼い頃から、ジュゼッペの体罰と口撃で萎縮して育った。
『公爵家の者ならばこうあるべき』の重圧が二人にのしかかった。
失敗すれば鞭打たれ、地下室に放り込まれた。
二人の心は閉ざされ、特にリカルドは元々臆病であった為にますます疲弊した。
レオナルドは何とか綱渡りな状態ながらもジュゼッペについて行く事ができた。
それでもリカルドがどうにかやってこられたのは、兄レオナルドと励まし合っていたからだ。
しかし、レオナルドがサラと結婚した事で、リカルドから離れてしまった。
リカルドは見てしまった。
レオナルドがサラに救いを求めて縋り付いているのを。
今まで自分は兄に縋って来たけれど、兄自身誰かに縋りつきたくても出来なかったのだと心が痛んだ。
リカルドは墜ちた。
何も出来なくなった。何もしたくなかった。
その時初めて薬を飲まされた。
無理やり立たされ、ジュゼッペから結婚を強要された。
何も出来ないのなら、せめてただのコマになれと。
その頃のジュゼッペはとにかく王妃の存在が疎ましかった。
王妃を男で誑かすのが駄目なら、女を近くに入れて王と王妃もろとも何とかしようと考えた。
ジュゼッペは『内務』内で、文官向きの成績優秀な下位貴族の女子生徒を選定し始めた。
幾人かの候補者の中にアンナとキアラの名があった。
とりわけアンナは学業が優秀であり、ジュゼッペの目を引いたのは地味で病弱な事だった。
目立たない容姿は油断を招く。
治療費の工面をちらつかせ、子爵を言いなりにした。
ジュゼッペはリカルドに命じた。
「ラマート子爵令嬢 アンナ・フォンターナと婚約しろ」
アンナに初めて会ったのは、婚約式の数日前の夜会だ。
お互いが招待された夜会が初めての対面だった。
リカルドは気分が優れず、エスコートせず会場で待ち合わせた。
主催者の使用人の案内でアンナの待つベランダへ通された。
使用人は「あちらでございます」とそれだけ告げてホールへ行ってしまった。
ベランダにはラマート子爵の姿はなく、二人の女性がいた。
リカルドはアンナの容姿を聞いていなかった。
奥にいるほっそりと影の薄い女性が侍女で、手前の薄くピンクがかった金髪の女性が婚約者のアンナだと思ってしまった。
ふんわりと可愛らしい女性だった。
何となく自分を受け止めてくれそうな気がしてしまった。
そんな思いで彼女に近づき、手首を掴んでしまった。
女性は自分はキアラ・マリーノだと名乗り、隣にいるのがアンナ・フォンターナだと言ってその場を離れようとした。
リカルドはその手首を掴んで離さなかった。
いや、離せなかった。
離せば二度と会えない気がしたからだ。
夜会で挨拶回りを終えて戻ったラマート子爵が「どういう事か」とキアラに詰め寄った。
リカルドは手を離せず、キアラは子爵に罵倒される羽目になった。
罵倒する声はどんどん大きくなり、リカルドは観念して手を離した。
キアラはすぐさま逃げるように会場から去っていった。
「それがずっと尾を引いてる。見られてたんだ。父上に」
「⋯⋯」
「アンナが病死した後、アンナの代わりにキアラを選んだのは父上だ。僕にキアラをあてがえば少しはマシになると思ったんだろう。ははは、無理だよ。キアラの泣き顔ばかり見てて、僕が嬉しい訳ないじゃないか」
語り終えるとリカルドはぐったりとソファに体を沈めた。
ジュゼッペは女性ばかりでは無く、息子をも犠牲にしていたのだ。
少し意識が朦朧としているようで、何か言おうとしては口を開いては閉じるを繰り返し始めた。
迎えの馬車が着き、リカルドは担架で運ばれた。
エミリオは一緒に馬車に同乗し、サラの侍女が見送る中、馬車は走り出した。
御者台側の小窓が開き「王城へお連れします」そう言って、小窓は閉められた。
流れる街灯の光に、これからの自分に不安が広がる。
エミリオの唇から言葉が漏れた。
「証言者が増えたな。公爵家はどうなるんだろう⋯⋯」




