表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガラス細工を愛する少女は王妃様を輝かせたい  作者: 麻生あきら
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/32

22 父の憂鬱

『芸術』コルデラ侯爵領の中の西南の一地域にクローステール男爵領はある。


 当代領主はノア・アンバーブロウ。

 ガラス工芸を担当する地域の三つの小さな街を治めている。

 ガラス細工の街『ブジェフ』はお膝元である。


 彼にはかつて『内務』に妻キアラを連れ去られた。

 残された当時八歳の娘と六歳の息子の為に、傷心に囚われず必死に生きた。


 その二年後、ノアに娘のクリスは大きな瞳を向けて言った。


「王妃様のアクセサリーを作りたいです。そうすればお母様に会えるから」


 ノアは強い瞳に圧倒された。

 こんな思いをさせた自分が不甲斐なかった。

 全力でクリスの後押しをしようと心に誓った。


 


 クリスが学園に通う為に王都へ発った次の日、ノアはコルデラ侯爵邸に足を運んだ。

 作り直したネクタイピンをコルデラ侯爵ガブリエルへ手渡す。


「ノア、すまない。職人にも悪かった」

「言いたくはないが、ジュールはちょっとわがままが過ぎないか?」


 爵位に上下はあるものの二人は同い年の従兄弟同士、幼い頃から隔たりなく本音で語り合う。

 学園時代は女子生徒を二分する程の人気で、次世代の『芸術』を担う双翼として注目されていた。


 ガブリエルは、彼の妻ドロテはキアラと学園時代に仲が悪かったと言う。

 いまだに根に持っているのか双子達に「『内務』の鼻持ちならない男爵の娘」と、クリスを貶めているらしい。


「王都で王族と貴族相手のテキスタイル専門店の娘だからな、気位が高い」


『虹の蜘蛛』の一枚布を染色する技術を持つコルデラ侯爵家。

 デザイン力と織りの技術を持つドロテの実家、マルタン家。

 コルデラ領内の結び付きを強化する目的での縁組だ。


 

 学園時代にはすでにガブリエルとドロテは婚約を交わしていた。

 ドロテ自身は特に目立つことも無く、ガブリエルに集う女子生徒を牽制することなく傍観していた。


 キアラとも接点がある様に見えず、またキアラからもそんな話はされなかった。

 ノアは不仲である事に気づけなかった。


「不仲の理由は知っているのか?」

「なくもない。お前が気付かなかったのなら、それも不確かだ。まあ、お前は鈍感だからな」

「さっぱりわからない。だが、いつまでも同じような事を繰り返されては困る。これから子供たち三人は学園で顔を合わせる機会が増える。どうにか抑えるよう言ってくれないか?」


「出来る限り、そう努めよう」

「ああ、頼む。では、王都で」


 


 クリスに遅れること三日、ノアはタウンハウスに到着した。

 すでに帰宅していたクリスが出迎えた。


「ただいま、クリス。学園はどうだ?」

「驚くほど沢山の事がありました」


 そう言ってクリスは手短にあらましを語った。

 生徒会役員になった事。

 イブリンとジュールに絡まれた事。

 アルドーのブローチと、セーレナの房飾りを受注した事など。


「実は生徒会でエミリオ・ガルシア様と昨日初めてお会いしたのですが⋯⋯」


『内務』のマールム公爵家の令息とノアは気づく。

 ぐっと眉根に皺を寄せて、ためらうように口を開いた。


「キアラは実家に連れ戻された後、マールム閣下の弟の後妻として入っている」

「はい、聞きました。ガルシア様がお母様の事を悪しざまに語ったので、アルドー王子殿下とセーレナ様が咎めて下さったんです。それで私とガルシア様に、私の身辺調査の結果を見せて下さいました。生徒会に入るので調査されたそうです」


 何の関係もない令息が悪しざまに語るという事は、公爵家でのキアラの扱いが知れようものだ。

 キアラを思うと、ノアは痛い程に胸が苦しくなった。


 


「ガルシア様は先代侯爵閣下から、お母様が誑かしたって聞いたそうなの⋯⋯」

 見る間にクリスの目から涙が溢れた。

 ノアは立ち上がりクリスを抱きかかえると、ゆっくりとクリスの背中を撫で続けた。


「すまない、クリス。お前が明るく頑張っているから、それに甘えてしまった」

「お父様は悪くないわ。⋯⋯それにね、隣のクラスにダニエレ・フォンターナ様がね、いたの」

「うん?」

 クリスはノアの腕の中から顔を上げ、真っ赤な目をしながら微笑んだ。


「お母様、王妃陛下に匿われているんですって」


 ノアは王妃付きの書記官なのは知っていた。

 だがこちらから接触をすれば、すでにフォンターナ夫人となったキアラに悪評が立つ。

 どうにも動けずにいた。


「だからね、私、絶対に会いに行くの。いつか王妃陛下の為にガラス細工を持って。女の私なら咎められる事はないわ。お父様の代わりに絶対に会うから!」


 


 ──ああ、なんて強い娘なんだろう。

 ノアは子供に大人の都合を押し付けてた自分を、不甲斐なさで殴りたくなった。


「ありがとう、クリス。お前の夢の為に何でも力になるよ」

 クリスはただ頷く。


「⋯⋯ジュールとイブリンもだ。ドロテが、キアラと学園時代に不仲だったそうだ。それを双子に植え付けているとコルデラ卿から聞いた」

「ドロテ様と不仲だったんですか? それでなのかしら。私、ドロテ様とお話しした事がないのです」

「十五年の間ずっと? なんて事だ。私はキアラとの結婚を後悔していないが、結果的にお前とエリオットに迷惑をかけている。すまない」

「大丈夫です! お父様。全然気にしていないわ!」

 涙でグシャグシャの顔に笑みを浮かべた。


 ノアはもう一度クリスを抱きしめ、

「頼もしい限りだな。だが、無理はするな。何でもいい些細な事でも相談しなさい。それと、目元はちゃんと冷やすんだよ」

 背中を優しく叩いた。


「はい、お父様」

 ノアは目元を気にしながら部屋に戻るクリスの背を見守った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ