幽邃閑雅
最近はね、3人。
1人目は絞殺、
2人目は刺殺、
3人目は…毒殺。
なんで、殺し方を変えたのかだって?
この世界が壊れる方法は多い。
だったら、沢山、経験しておかなきゃ、
つまんない。
恵まれた力に感謝した。
だって、抵抗を跳ね除けられる。
揺らがない信心を恐れた。
だって、血に濡れても快感に替えられる。
この毒は滲み出た心血か。
だって、簡単に死んでしまった。
だって、だって、だって、
イソヒヨドリはどこまでも飛んでいきます。
風と仲の良い羽は空気の波に乗り、
俯瞰風景へと向かわせます。
後ろからオオタカ、少し下がったときにカラス、
スピードを上げたときに燕。
次第に出来上がった多種多様な鳥の群れは
セコイアの森に到着します。
高く聳え立つ木々の元で、鳥の集会が始まります。
木漏れ日と言うには、高遠から薄く差し込む光が
秘匿の空間を生み出します。
エー・イナンは、まだ泣いておられるのか?
その割には、頻度が少ないですね。
鳥たちは空を見上げます。
いつ来るとも分からんものに怯えて暮らすのは
まっぴらだ。
他の神からは、何かお導きが?
蛇未が様子を見ているが、
閉じ籠もってらっしゃる。
理由を聞ければ、
対処法が分かるかも。
鳥たちは大災厄に備えるために、
今回の集会を開きました。
小さな蜘蛛が集まって巨大な化け物になる様な災厄。
皆が考えこみ、意見を出し合う中、
一羽が言いました。
俺みたいな大鳥は正直、困んねーよ。
皆、ハシブトガラスを見ます。
小鳥どもはともかく、
豪雨に恐怖するほど軟じゃない。
俺達は方舟に選ばれてんだよ。
小鳥たちは泣き、猛禽類は睨んでいます。
怒りに満ちたモズは言いました。
都会ぐされが。
…なんだと。
モズは涙目になっているスズメを抱きしめます。
イソヒヨドリも言います。
鳥の仲間たち全体を考えようよ。
せっかくの集会だ。
ハシブトガラスは目を細め、モズを睨むと
答えます。
カラスの仲間はカラスだけだ。
ピリついた空気の中、
モリフクロウが鳴き始め、周囲の視線は変わります。
エー・イナンは近い内に
消魂しい雨を降らす。
これは彼女が閉じ籠もることで確定した運命だ。
ありがたく受け取るように。
…、しかし、不安な鳥も出てくると思う。
みなで支え合うのだ。
モリフクロウは言の端でハシブトガラスを見ます。
程なくして、集会は終わり。
対策を固めた鳥たちもいた様です。
モズはスズメとともに飛び立ちます。
セコイアの森を抜け
その下の河川
それに沿った街
最下流の街を越えた頃
ヵァーヵー
カァー
カァーカァー
カァーカァーカァーカァーカァーカァーカァーカァーカァーカァーカァーカァーカァーカァーカァーカァーカァーカァーカァーカァーカァーカァーカァーカァーカァーカァ
カァ
カァ
カァ
黒い大群がモズとスズメの後ろにいます。
あいつ…!
仲間を呼んで報復しに来たな!
モズはスピードを上げるようスズメに言います。
スズメは怯えます。
スピードを上げます。上げます。上げます。
カラスの大群は疲れることを知らず、
距離を詰めていきます。
モズとスズメは長距離を飛んできました。
だから、もう…、
一匹のカラスが
モズに届いてしまいます。
カラスはモズをくわえると
急降下します。
黒い大群もそれに習って急降下。
スズメには目もくれません。
その迫力に唖然としたスズメは
我に返ると、モズが堕ちた木々の根を目指します。
今にも刺さりそうな枝葉の茨を抜け、
モズを探します。
そこは小さな湖のある場所。
その畔で、
大きな黒い塊が散り散りになっていきます。
完全に霧散した後、スズメは近寄ります。
飛んで走って
飛んで走って
黒い羽が大量に
茶色の小さな羽も
傷だらけのぐったりしたモズが寝ています。
スズメも傷だらけです。
嘴でつつきます。
…
コンコン
コンコン
…
身体を寄せてみると、
何だか、モズから体温がなくなってゆく。
モズは亡くなっています。
湖では雄同士のブラックスワンが踊り、
ハートマークを作っています。
別れは一瞬でした。
あんなに兄のように慕っていたモズはもういません。
スズメは理解し、涙を零します。
ずっとずっと
それに呼応するかのように、
久しぶりの雨が降ります。
しとしとと
それは小雨でした。
ーーーーーーーーーーーーーーー
俺は誰だ?
小さな湖の畔である男が目覚めました。
頭の中、もしくは腹の底から湧き上がる
オドロオドロしい感情が男の中に巡っています。
全く見覚えにない風景。
男は周囲を見渡します。
…、気分はどうだ?
気づくと、背後に長髪の男が腕を組み、立っていました。
その男は蛇未、夜を司る神です。
この世界が赤く見える。
俺の目は赤いのか?
蛇未は男の顔を見ます。
目は充血して赤く、茶と灰の混ざった髪。
蛇未は目の前に手を翳すと
男の充血を治してやります。
どうだ?
まだ赤い。
頭の中まで赤い。
男は怒りに震え、手を戦慄かせています。
蛇未に向かって、男の手が振りかざされます。
蛇未はそれを避けると、
男の身体は地面に押し付けられ、沈みます。
落ち着け。
お前は祟り神なのか?
!
俺は祟り神なんかではない!
全身の怒りが俺を這いずり回っている。
憎い、憎い、
…。
お前はエー・イナンを見たか?
エー・イナン?
何だそれは?
記憶を失ってるようだな。
お前に命ずる。
エー・イナンを探せ。
…何故、俺が。
お前は何なんだ。
私は、夜の神。
蛇山未、またの名を蛇未。
お前の崇拝すべき神の1人だ。
…か、み?
ならば、何故俺はこんなにも世界が憎いのだ。
…、わかった。
まず、セコイアの森へ行け。
そこにお前が大事にしていた存在がいる。
その憎き世界の一片が
男は腑に落ちたのか、伏目がちに湖を見ます。
湖は澄み渡っています。
エー・イナンを探せばいいんだな?
あぁ、お前なら辿りつくだろう。
蛇未はふっと姿を消し、
1人残された男は歩き出します。
何処へ向かうのか聞けばよかったと思い、後悔しました。
とりあえず、獣道に従ってこの森を抜けます。
地面から隆起する木の根、
身体に触れてくる名も知らぬ枝葉。
あぁ、なんて煩わしいんだろう。
それでも進みます。
自分が何者か知るために。
進み続けると、何やらヒソヒソと聞こえます。
雨の神、夜の神。
彼らは鳥なんぞ何故。
我らの方が長寿。
神々に近づける者。
鳥は煩い。
動けないことをいいことに、
やりたい放題。
まったく、まったく。
どうやら、周囲の木々の噂話のようです。
…貴様ら、セコイアの森を知っているか?
なんだ?
人間?
………おぉ、神ではないか。
?
俺は神なのか?
えぇ、この気。
貴方様は神に違いない。
私どもに話かけてくださるとは。
セコイアの森であれば、
私どもが案内いたします。
森のざわめきに沿ってお進みください。
ざああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ
ざわめきとともに、
狭い空間が2時の方向に開いていきます。
この先に…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
あれから長い長い時間、
スズメは泣いていました。
モズの身体に縋りながら、ずっと。
小雨が降り続く、暗い森の湖畔。
びちゃ
ぬちゃ
びちゃ
ぬちゃ
ゆっくりと、泥濘みを歩く音が聞こえます。
そして、それはスズメの前で止まります。
スズメはゆっくりと
顔を上げます。
……。
エー・イナン様。
その脚は泥に塗れていました。




