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私のスキルは【毒反転】。なので、劇毒しか食べない配信やってます  作者: 狐白
第二巻

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第54話

「おい、現実逃避しても無駄だぞ」


「……」


「このまま寝たフリを続けるつもりか? 生者よ」


「……」


「おーい! これ以上寝たフリしてたら、本当に帰れなくなるぞ〜?」


 とうとう私は泣きそうな顔のまま、観念して目を開けた。


 頭のすぐそばに立っていたのは、スーツ姿の公務員らしき二人組。


 ……ただし、どう見ても普通の人間じゃない。


 一人は牛の頭。


 もう一人は馬の頭。


 しかも、めちゃくちゃ機嫌が悪そうだった。


 馬頭の男が、心底疲れ切った声で口を開く。


「さっきのあいつの話、全部聞いてただろ? 『子供に核弾頭を供えさせる』とかいう発想まで出てきたんだぞ……お前、それがどれだけこっちの仕事を増やすか分かってるのか!?」


 私は慌てて地面から飛び起き、その場で勢いよく土下座した。


「ほ、本当に申し訳ありませんでした!! すみません!!」


「はぁ……まあ、お前もわざとじゃなかったみたいだしな……それに、配信を通して冥界の宣伝になるなら、別に悪いことばかりでもない」


「……え?」


 牛頭の男が、ぶもぉ、と鼻を鳴らす。


「二千年前に転送門が閉じて以来、生者が冥界へ来ることなんて、ほとんどなくなったからな。現世の奴ら、最近じゃ冥界に対するイメージがどんどんおかしくなってるんだ」


「魂が永遠に苦しめられるだの、三途の川が臭いだの、川に怨念まみれの死んだ赤ん坊が浮いてるだの……失礼にもほどがあるだろ!? こっちは環境衛生局だってちゃんと仕事してるんだぞ!?」


「……」


「最近なんか、『冥界の電車は永遠に目的地へ着かない』とかいう噂まで流れてるしな……」


「えっ? 違うんですか?」


「それは新宿線のラッシュ時だ!! なんでも冥界のせいにするな!!」


「…………」


「信仰も薄れてる上に、時代も変わって、人間どもが死者へ送ってくる供物も年々ショボくなってる。おかげでこっちも税が全然集まらなくなってな。俺たち、もう三ヶ月も給料出てないんだぞ!? 今じゃコンビニ入るのすら怖いわ!!」


「………………」


 な、なんというか……


 想像してた地獄と違いすぎる。


「そ、その……」


 私は恐る恐る顔を上げた。


「お二人は……私を罰しに来たわけじゃないんですか?」


「お前があの魂たちの未練を刺激したせいで、こっちは大騒ぎだ。かなり面倒を増やされたのは事実だが……まあ、転送門が開いた以上、今後こういう騒ぎも増えるだろうしな」


 牛頭はげっそりした顔で肩を落とす。


 馬頭のほうも、完全に魂が抜けた顔だった。


「どうせ数日後には、どっかの熱血主人公が『俺は彼女を連れて帰る!!』とか叫びながら冥界に殴り込んできて、事情も聞かずに俺たちをボコボコにして、そのまま魂を一人か一家まとめて連れて帰るんだろ……昔からそうだったしな……」


「…………」


 この仕事、地獄すぎない……?


「俺たちがここへ来たのは、お前に忠告するためだ」


 牛頭が指を立てる。


「お前、あの魂たちを呼び起こしたせいで、自分の“陽気”をほとんど使い果たしてる。このまま冥界に留まり続けたら、本当に帰れなくなるぞ」


「……陽気?」


「生者の持つ気配みたいなもんだ。もっと分かりやすく言えば、“生まれた時点で決まってる寿命の前借り”だな」


「お前は幽霊を見るたび、自分の寿命をそいつらへ流し込んで、一時的に目覚めさせてるんだ」


「なるほど! だから、私が見た瞬間にみんなこっちへ寄ってきたんですね!」


 ようやく、あの異常な状況の理由が分かった。


「ただ……」


 私は楽しそうにピクニックの準備をしている幽霊たちを見渡しながら、困ったように頬をかく。


「まだみんなとご飯食べてないんですよね……」


「まあ」


 牛頭がひらひらと手を振る。


「飯食うくらいの時間なら、たぶんまだ大丈夫だ。……ただ、その」


「……ただ?」


「俺たちの分も二人前、追加してもらえたりしないか?」


 ぐぅぅぅ〜……


 次の瞬間。


 牛頭と馬頭、二人の腹から同時に怪しげな音が鳴った。


 二人は気まずそうに頭をかく。


「俺たちも……ここ数日、まともに飯食ってなくてな……」


「…………も、もちろんです!! い、今すぐ準備します!!」


『ぶふっwwww なんだこの展開!?』


『なんだこの世界観!? 配信者!! これスタジオ撮影だって言ってくれ!!』


『この配信、ほんと“普通”以外なら何でも見られるな……』


「……私だって普通がよかったよぉ!!」


 今日だけで、私の常識が何回壊れたか分からない。


「誰が好き好んで、目覚めたら地獄に放り込まれて、幽霊たちと昼ご飯食べることになるの!? ……あっ、ご、ごめんなさい! 別にみなさんを差別してるわけじゃなくて!」


 私は慌てて幽霊たちへ向かって頭を下げる。


「……でもやっぱり状況がおかしいんだってば!!」


「ちなみに、彼岸花は魚を煮る時に一緒に入れると美味いぞ」


 牛頭が挙手しながら補足した。


「あと、その赤い魚は美味い。黄色い魚はちょっと生臭い上に骨が多いから、丸ごと揚げて骨までカリカリにしたほうがいいな……って、こ、これはワサビか!?!?」


 馬頭が突然、わなわな震え始める。


「俺……もう百年くらいワサビ食ってないんだが……うぅぅ……やっと会えた……ワサビ……」


 そのままワサビのチューブを抱きしめ、ぼろぼろ泣き始めた。


「……」


 せ、切なすぎる……


 私は思わず、感動の涙を流してしまった。


【彼らの勤勉さに感動したのですか?】


「うぅ……感動はしたけど、そういう意味じゃなくて……」


【では、なぜですか?】


「私……ついに……自分より不幸そうな人を見つけちゃった……」


【なお、彼らには両親と公務員の正規雇用があります。】


「……」


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― 新着の感想 ―
環境衛生局なんてあるのかい!しかもコンビニまでwwwww
今すぐあの世の事をアップデートしてコンビニ通いぐらいさせてあげよう(切実)
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