第31話
「おいおい嬢ちゃん、飲めねぇなら無理すんなよ! さっさと負け認めろって! たかがBランク任務だろ……ほら周り見てみろよ、こんな下品な連中に囲まれてさ。ここで潰れたら……無事に帰れる保証はねぇぞ?」
大男は身体をぐっと前に乗り出し、挑発するように神代の目を覗き込んだ。
周囲の野次はさらにヒートアップする。
神代はふらつく身体をどうにかテーブルに預け、必死に倒れまいと踏ん張っていた。
「ありえない……私は絶対に……負けない……! もう一杯!!」
空になったグラスを、神代は勢いよくテーブルに叩きつける。
次の一杯を取ろうとしたその瞬間、私は慌てて駆け寄り、その腕を掴んだ。
「もういい! これ以上飲まないで!」
「ん……? なんで、あんたたちが……ここに……?」
神代は私を一瞥し、呂律の回らない声でぼそりと呟きながら、また手を伸ばそうとする。
「やめて! こんなインチキ野郎と勝負しても、絶対に勝てない!」
「……インチキ?」
「……はぁ???」
一瞬で、場がざわついた。
そして大男の顔色が、すっと冷え切る。
次の瞬間、私は胸ぐらを乱暴に掴み上げられた。
「どこのガキだテメェ……俺をイカサマ呼ばわりだと? 死にてぇのか?」
私は一切目を逸らさず、まっすぐに見返す。
「あなた、魔法使いでしょ?」
「はぁ?? 笑わせんな。俺のどこが魔法使いに見える?」
大男は豪快に笑い、鍛え上げられた上腕二頭筋を誇示するように見せつけた。
鉄塔みたいな体格に、背には巨大な戦斧。
どう見ても魔法職とは無縁の見た目だ。
けれど私は、表情一つ変えずにその誘導を切り捨てる。
「見た目だけで、魔法が使えるかどうかは判断できない」
「証拠は!? 人を疑うなら、それなりの根拠があんだろうな!? どうやって俺がイカサマしたって証明する?」
「……証拠はない」
そう、証明はできない。
私の「元素視界」は他人に共有できない。
この目には、彼の足元で水元素が不自然に偏っているのがはっきり見えている。
だが、それをそのまま他人に見せることはできない。
――でも。
止めると決めた時点で、手は考えてある。
そのとき、大男が高笑いを上げた。
「ハハハハハ! いいか? イカサマだろうが何だろうが、その場で証拠を押さえなきゃ意味はねぇんだよ! ガキがイキってんじゃねぇ、ミルクでも飲んで帰れ!」
「その場で証拠を押さえられなきゃ意味ない、ってことね。分かった。じゃあ、勝負続行で」
私はそう言いながら、神代の前に置かれていた大きなグラスを掴み上げた。
ごく――ごく――ごく!
一気に、飲み干す。
ドンッ!
勢いよくグラスを叩きつけ、そのまま次の一杯を迷いなく手に取る。
「休憩していいよ。その間によく見てて。神代が飲んだ分、私が全部飲み直す。
それから続けよう――これで条件は同じ、公平でしょ?」
ごく――ごく――ごく――
……これが、お酒。
初めて飲む。
というか、そもそもまだ合法年齢ですらないんだけど……。
だからこそ、この味は――
妙に新鮮で。
そして。
とんでもなく――
まずい!!
だけど、舌を刺すような冷たさと辛さ、そして口の中で弾ける炭酸。
それは確かに、妙に癖になる刺激だった。
喉に引っかかっていた竹の繊維が、滝みたいな勢いで一気に流し込まれる。
あの感覚は――
正直、かなり気持ちいい。
[毒効果反転が発動しました!]
……そりゃそうだ。
アルコールなんて、立派な毒だし。
これからどんなに辛いことがあっても、酒で自分をごまかせないのか……そう考えると、ちょっとだけ切ない。
っていうか――
手術のとき、麻酔も効かないんじゃない!?
やだやだやだやだやだやだ!!
盲腸とか絶対なりたくない、絶対なりたくない、絶対なりたくない……!
私はそんなことを考えながら、大ジョッキを次々と飲み干しつつ、発動した効果に目を向ける。
……これが、“酒”。
――効果が多すぎて、目で追いきれない。
[神経反応速度+30%(8時間)]
[並列思考能力+1スレッド(8時間)]
[記憶力+20%(永続)]
[情緒安定度+100%(8時間)]
[酸素供給効率+30%(8時間)]
[消化器系健康度+10%(永続)]
[消化器系がん発症予測時期+5年(永続)]
[肝機能代謝効率+10%(永続)]
[細胞修復能力+30%(8時間)]
[温度適応性+50%(8時間)]
「……」
――人類ってさ。
毎日こんなもん、胃に流し込んでんの!?!!




