第28話
【まさか別れてすぐに頼み事をすることになるとはな……こっちでひとつ案件があってな。話を聞けば、お前とも関係がある。
手伝ってくれるなら、冒険者依頼の形式で報酬を支払うこともできる】
通信越しの警官のおじさんが、思わぬ“朗報”を持ってきた。
「いいですよ! ちょうど今夜、もやし買うお金なくて……」
【強盗にでも遭ったのか!? さっき報酬払ったばかりだろうが!?】
「ポチの嗅覚モジュール買いました〜」
【……はぁ。最近の若者は本当に分からん。まあいい、とにかく時間があるなら来てくれ。場所はお前の住んでるアパートだ】
「火事の件ですか?」
【そうだ。回帰魔法でいくつか重要な情報が出てきた。電話じゃ話せん、現場で説明する】
「分かりました! 今すぐ行きます!」
AIパーツ屋の店主に軽く手を振って別れ、そのまま帰りの地下鉄に乗り込んだ。
しかしその道中、ポチが珍しく真面目なトーンで警告を発する。
【あの警官は、冒険者犯罪を担当する警官です。彼が関わる案件は、高確率で危険度の高いものになります。
そしてあなたは、覚醒したばかりのGランク冒険者です。警告します——無計画な関与は、生命の危険を伴います】
「でも今夜もやし買えないし」
【不要な出費の削減を推奨します。現時点で返品を申請すれば、嗅覚モジュール費用の90%が返金されます。
その資金があれば、数ヶ月にわたり毎日卵を食べることも可能です】
「ねえねえ、顧問ってさ、どんな顔すればいいかな……ほら見て見て! シャーロック・ホームズっぽくない?」
【たとえ目を細め、視線を落とし、すべてを見通しているかのような表情を作ったとしても……
今夜もやしすら買えないという現実は隠せません……
やめてください……ヒゲを貼らないでください……カメラが塞がれています……】
「ワトソンくん、この事件について君はどう思う?」
【……】
大きなリュックを背負い、そのまま小走りで現場へ向かう。
数日前の私なら、この重さでここまで走れば、間違いなくへとへとになっていたはずだ。
けれど今は違う。
強化された「呼吸機能」と、各種毒由来の筋力強化によって——
疲労感、ゼロ。
身体がまるで野牛みたいに元気すぎる!
この肺活量なら、魔法を覚えたら詠唱もかなりの大声でいけるんじゃない?
詠唱で相手をうるささで倒す戦法とか、普通にアリかも……
「こっち! こっちー!」
遠くからでも分かるくらい、緑髪の錬金術師が大きく手を振っていた。
……そういえば、まだ名前知らない。
火災現場はすでに立入禁止線で完全封鎖されていて、白衣の検査員たちが次々と四階の出火元へ入っていく。
黒く焼け焦げた錬金瓶がひとつずつ証拠袋に収められ、警察車両へと運ばれていく。
そしてその近くには——
ぐったりとした様子のおばあさんが、車の横で水晶球を抱えて座っていた。
「お疲れさまでした。あとは我々に任せてください」
どうやら、あの人が回帰魔法の使用者らしい。
装甲警官がヘルメットを外し、疲れきったおじさんの顔を見せる。
「現場の回帰映像によると、火災発生時、仮面の人物が窓から侵入している。そいつは錬金術師の部屋から薬剤を一本持ち出し、そのまま保管室に火を放った」
「だから言ったじゃないですか、私無実なんですって!」
緑髪の錬金術師が涙目で叫ぶ。
「錬金術師という職業の特性上、自分でも薬剤の効果が把握できていないケースがある。だから——お前に鑑定を頼みたい」
警官のおじさんは証拠袋を開け、黒く焼けた小瓶を取り出した。
「私はすべての薬剤に予備サンプルを用意していて、効果確認のために自分で服用するんです」
錬金術師はそう説明しながら証拠を受け取り、ラベルを確認する。
「間違いありません……焼けて読みにくいけど分かる……これ、あの薬剤の予備です。もともと冷蔵庫で冷やして、少しでも飲みやすくしようと思っていたもので……結果的に助かりました」
そして——
その“唯一残った薬剤”が、私の手に渡された。
全員の視線が、一斉に私へ集まる。
空気が、わずかに張り詰める。
「……ちょっと待ってください」
まず、腰にロープを巻きつけ——
近くの電柱に自分の体をしっかり固定する。
そのあと、ポチの手書き入力モードを呼び出す。
準備完了。
ゆっくりと薬剤の瓶を持ち上げる。
口元へ。
深呼吸。
目を閉じる。
——ごくっ。
【毒効果反転が発動しました!】
【残機+1を獲得】




