第14話
ぎゅっ……ぎゅっ……
「えっと、味を表現するなら……ほんのり土っぽい感じで、噛むと繊維感が強くて……湿った木を噛んでるみたい。見た目ほど美味しくはないかも……」
私は目を閉じて、この赤いキノコの味を一生懸命言葉にした。
「味なんかどうでもいいだろ!? 今すぐ吐き出せ!! 死にたいのか!!?」
引率の先生が頭を抱えて、絶望の叫び声を上げる。
「あ、大丈夫ですよ。私には毒は効きませんから」
私は笑いながら後頭部をかいた。
「それに……さっき『君たちは絶対に食べない』って言ってましたよね? だから私が食べました」
「……『絶対に食べない』のは死ぬからだ!! 『いらないから好きにしていい』って意味じゃない!! 吐け!! 今すぐ吐けぇぇ!!」
先生は私の肩を掴んで、激しく揺さぶってくる。
「美味しくないのって、調理方法の問題じゃない? この毒キノコ、もしかしたら刺身向きじゃないのかも」
女剣士さんが歩み寄ってきて、真剣な顔で分析していた。
「……誰かこの話ちゃんと聞いてるのかぁぁぁ!! あと毒キノコの刺身ってなんだよ!! その単語どうやって成立してんだよぉぉ!!?」
私ははっとした顔で頷く。
「なるほど! じゃあ煮込んだ方がいいのかも。フグの肝とバターを少し加えて……」
「それ、魔女の釜でぐつぐつ煮えてる謎の液体みたいにならない?」
「実はああいうスープ、前から一度飲んでみたかったんだよね。すごく美味しそうだし。人をカエルに変えるって聞いたことあるけど、私が飲んだらどうなるんだろ……凛華さん、スープ売ってる魔女って知ってます?」
「知らない」
「……」
引率の先生は、もう完全にツッコミを放棄していた。
[筋力+2(永続)を獲得]
[草属性親和度+3(永続)を獲得]
[魔法詠唱速度+20%(永続)を獲得]
[精神攻撃耐性+100(24時間)を獲得]
あ、このキノコ、効き始めるのが結構早い。
しかも草属性親和度と詠唱速度が上がるの!?
やっぱりダンジョンの毒キノコって普通じゃない……!
もっと食べたほうがいいかも。
でも、この周囲には同じキノコは見当たらない。
うん、探しに行こう!
◇
修学旅行の隊列はそのまま前進を続け、いつものように先生が道中で出会った危険生物について解説を続けていた。
「全員注意! あそこの草むらに魔物の死体がある!」
「ああっ——」
気の弱い生徒が、すぐに悲鳴を上げた。
それは“牛”型の魔物の死体だった。
体はすでに完全に干からびている。
だが不気味なことに、まったく腐敗していなかった。
「近づくな! この死体だけじゃない、周囲にも多くの魔物の死体がある! 絶対に触れるな!」
懐中電灯の光が草むらをなぞる。
周囲の状況がはっきり見えた瞬間、
すべての生徒の背筋に冷たいものが走った。
死体。
どこを見ても、死体。
不穏な空気が広がっていく。
「ここで……一体、何が起きたんだ……」
引率の先生でさえ、思わず唾を飲み込んだ。
それでも、無理やり落ち着いた様子を装いながら、生徒たちに説明を続ける。
「これらの魔物の死体は腐敗していないし、野獣に引き裂かれた形跡もない。これは非常に典型的な“中毒死”の特徴だ」
「中毒?!」
生徒たちの顔がさらに強張る。
「でも、毒の発生源はどこに? これだけの数の魔物が同時に中毒になるなんて……まさか、空気そのものが……!?」
「もし毒ガスなら、我々もすでに中毒になっているはずだ。よく観察してみろ。これらの死体の分布に、どんな規則がある?」
「……あっ! 円になってる!」
引率の先生は満足そうに頷いた。
「その通りだ! これらの死体は完全に円形の範囲内に分布している。つまり毒の発生源はその中心にある——」
指し示された先には、
西へ傾いた一本の大樹が立っていた。
その木は一見、周囲の木と何も変わらない。
だがよく見ると、樹皮には淡い白色の結晶が付着している。
「これが魔物たちを死に至らしめた元凶だ! G172ダンジョン屈指の猛毒植物——砂糖箭毒木だ!」
「これが砂糖箭毒木……!」
「先月の植物図鑑の授業で習いました! この木は甘い香りのする劇毒の結晶を分泌して、周囲の魔物を誘い込むんですよね!」
「その通りだ! 魔物がその甘い“砂糖”に夢中になった瞬間、毒が体内に回り、急速に中毒死する——」
「正解だ! だから、どれだけ空腹でもこの木には絶対に近づくな!」
ごりっ——ごりっ——
「……」
いつの間にか、生徒たちは全員、議論を止めていた。
引率の先生は、生徒たちの視線を見て、
胸の奥に、妙に見覚えのある嫌な予感が浮かぶ。
ごりっ——ごりっ——
奇妙な音が、再び背後から響いた。
「……先生、その木って本当に砂糖箭毒木なんですよね?」
「間違いない」
「……」
「……」
「じゃあ……なんで、あの人、あの木を抱えてかじってるんですか?」
「……」
「魔物以外にも、変なのが引き寄せられてるんですけど……」
「……歯、強すぎないか?」
その頃の私はというと——
木に抱きついたまま、
すでに配信のコメント欄が大爆笑になってることなんて、完全にどうでもよくなっていた。
「甘い甘い甘い!! 美味しい美味しい美味しい!!」
やっと、本当に美味しいものに出会えた!
サトウキビみたい……いや、それ以上に美味しい!
[草属性親和度+10(永続)を獲得]
[魔法詠唱速度+70%(永続)を獲得]
[赤血球の酸素運搬能力+100%(永続)を獲得]
[「赤血球の酸素運搬能力」と「呼吸機能」が目標値に到達しました]
[スキル「無酸素生存Lv1」を獲得:無酸素環境で1時間の生存が可能]
無酸素生存能力?
……ステータスが一定値を超えると、こうやって新しいスキルが生成されるの!?
ってことは——
ダイビングするとき、酸素ボンベ買わなくていいんじゃない?
……これ、めちゃくちゃ便利じゃない?
ごりっ——ごりっ——
「んむ?」
……あれ?
周り、急に静かじゃない?
私は口いっぱいに木くずを詰めたまま、
砂糖箭毒木にしがみついた姿勢で、頬を膨らませながら周囲を見渡した。
「ぐぅぅぅ——」
突然、人混みの中から一斉に腹の鳴る音が響いた。
「先生……私たち、ここに入ってから何も食べてません……」
「もう少し我慢しろ。まだ仮設キャンプ地点に到着していないし、途中で食べられるものも見つかっていない」
「……じゃあ、あいつは何なんだよ!?!?」
無数の恨めしそうな視線が、私へと突き刺さる。
「めちゃくちゃ美味そうに食ってるんだけど!!」
「……」




