四つの影、一つの火
焚き火のぱちぱちという音が、星の瞬く夜空に溶けていく。草原の真ん中に小さな野営地。簡素な布のテントが張られている。風が静かに流れ、遠くの虫の音さえも聞こえるような静けさだった。
その焚き火を囲むように、四人の姿があった。ディラン、サリウス、バルク、そしてユリオ。
「……あっつ!」
ユリオが串焼きの肉にかぶりつこうとして舌を引っ込めた。
「焦るなって、まだ火が強いんだよ」
バルクが笑いながら別の串を手に取る。大柄な彼は焚き火の世話が得意で、こうした場ではもっぱら料理担当だ。
ディランは黙って炎を見つめていた。風に揺れる炎は、どこか落ち着く。昔は、焚き火のそばでセインと剣の手入れをしたものだった。今はその隣に、ユリオがいる。彼の手元には、バルクが削った木のスプーンと、焦げかけのパン。
「それ、焦げすぎ」
サリウスが指摘する。
「えっ!? あ、ほんとだ!」
慌ててパンを火から外すユリオに、ディランが微笑みかける。「まあ、こういうのも経験だ」
「うん……。でも、火加減ってむずかしいな。ディラン、なんでいつも黙ってるの? こういうとき」
唐突な問いに、ディランは目を細めた。「……昔、いろんなことをしゃべりすぎて、大事なものを守れなかった気がしてな」
ユリオは言葉を失った。サリウスとバルクも焚き火を見つめる。
「でもな、ユリオ」
ディランが言葉を続ける。「言葉ってのは、自分のためじゃなく、誰かに残すものだ。……そう気づいたのは、けっこう最近だ」
ユリオはこくりと頷いた。まだうまく答えられなかったが、彼の中に何かが残るような気がした。
「ところでさ」バルクが口を開いた。「サリウスって昔、どんな人間だったんだ?」
「俺が?」サリウスが苦笑する。癖で包帯でぐるぐる巻きにされた右手を顎に当てようとし、走った痛みに顔をしかめながら答えた。
「あの国にいた頃か……まあ、シェイドと無茶ばかりしていたな」
「今と変わらないってことか」
ディランが小さく笑い、サリウスが肩をすくめる。「今は多少大人になって落ち着いたつもりなんだが」
「でもさ、サリウスはずっと変わってない気がするよね。なんていうか、正義感っていうか、根が真面目っていうか」
「それを真面目と呼ぶかどうかはわからんがな」
ふと、空気が緩む。焚き火の炎が優しく四人を照らしていた。
ユリオがそっと、自分の手の甲を見つめた。そこには、かつてセインが命と引き換えに残した微かな光が宿っている。傷跡ではない。ただ、いつか自分が選ばなければならない未来を示す、淡い印。
「……ぼく、強くなりたい」
その言葉に、三人が顔を上げる。
「自分の力で、誰かを守れるようになりたい。……ディランみたいに」
ディランは目を伏せた。だがその声には、確かな震えがあった。
「ユリオ」
バルクが真剣な声で言った。「お前の強さは、きっと他の誰とも違う形になる。それでいいんだ。俺たちの真似をする必要はない」
「そうだな」サリウスも頷く。「俺たちは、それぞれ別の場所から来て、別の過去を持っている。だが、今はここにいる。それだけで充分だ」
ディランは何も言わなかった。ただ、焚き火に薪を一つ、そっとくべた。ぱちん、と音が弾ける。
「……眠れない夜に、こうして話せるのはいいな」
ユリオの呟きに、誰もが同意するように黙って頷いた。
夜は更けていく。
星が静かに瞬き、四人を照らしていた。




