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終焉の旅路  作者: 椿野蒔琉


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20/25

四つの影、一つの火

焚き火のぱちぱちという音が、星の瞬く夜空に溶けていく。草原の真ん中に小さな野営地。簡素な布のテントが張られている。風が静かに流れ、遠くの虫の音さえも聞こえるような静けさだった。


 その焚き火を囲むように、四人の姿があった。ディラン、サリウス、バルク、そしてユリオ。


「……あっつ!」


 ユリオが串焼きの肉にかぶりつこうとして舌を引っ込めた。


「焦るなって、まだ火が強いんだよ」


 バルクが笑いながら別の串を手に取る。大柄な彼は焚き火の世話が得意で、こうした場ではもっぱら料理担当だ。


 ディランは黙って炎を見つめていた。風に揺れる炎は、どこか落ち着く。昔は、焚き火のそばでセインと剣の手入れをしたものだった。今はその隣に、ユリオがいる。彼の手元には、バルクが削った木のスプーンと、焦げかけのパン。


「それ、焦げすぎ」


 サリウスが指摘する。


「えっ!? あ、ほんとだ!」


 慌ててパンを火から外すユリオに、ディランが微笑みかける。「まあ、こういうのも経験だ」


「うん……。でも、火加減ってむずかしいな。ディラン、なんでいつも黙ってるの? こういうとき」


 唐突な問いに、ディランは目を細めた。「……昔、いろんなことをしゃべりすぎて、大事なものを守れなかった気がしてな」


 ユリオは言葉を失った。サリウスとバルクも焚き火を見つめる。


「でもな、ユリオ」


 ディランが言葉を続ける。「言葉ってのは、自分のためじゃなく、誰かに残すものだ。……そう気づいたのは、けっこう最近だ」


 ユリオはこくりと頷いた。まだうまく答えられなかったが、彼の中に何かが残るような気がした。


「ところでさ」バルクが口を開いた。「サリウスって昔、どんな人間だったんだ?」


「俺が?」サリウスが苦笑する。癖で包帯でぐるぐる巻きにされた右手を顎に当てようとし、走った痛みに顔をしかめながら答えた。

「あの国にいた頃か……まあ、シェイドと無茶ばかりしていたな」


「今と変わらないってことか」


 ディランが小さく笑い、サリウスが肩をすくめる。「今は多少大人になって落ち着いたつもりなんだが」


「でもさ、サリウスはずっと変わってない気がするよね。なんていうか、正義感っていうか、根が真面目っていうか」


「それを真面目と呼ぶかどうかはわからんがな」


 ふと、空気が緩む。焚き火の炎が優しく四人を照らしていた。


 ユリオがそっと、自分の手の甲を見つめた。そこには、かつてセインが命と引き換えに残した微かな光が宿っている。傷跡ではない。ただ、いつか自分が選ばなければならない未来を示す、淡い印。


「……ぼく、強くなりたい」


 その言葉に、三人が顔を上げる。


「自分の力で、誰かを守れるようになりたい。……ディランみたいに」


 ディランは目を伏せた。だがその声には、確かな震えがあった。


「ユリオ」


 バルクが真剣な声で言った。「お前の強さは、きっと他の誰とも違う形になる。それでいいんだ。俺たちの真似をする必要はない」


「そうだな」サリウスも頷く。「俺たちは、それぞれ別の場所から来て、別の過去を持っている。だが、今はここにいる。それだけで充分だ」


 ディランは何も言わなかった。ただ、焚き火に薪を一つ、そっとくべた。ぱちん、と音が弾ける。


「……眠れない夜に、こうして話せるのはいいな」


 ユリオの呟きに、誰もが同意するように黙って頷いた。


 夜は更けていく。


 星が静かに瞬き、四人を照らしていた。


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