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頭では分かっていた、ツチメは(かどわ)かされたのだと。この時の自分はどうしてもその事実を受け入れる事ができなかった。


ツチメの姿を見つけられなかった時、最初場所を間違えたのかと思っていた。確かこの木の麓だったが、似たような木は他にもあると。似た木を見つけては周りをくまなく探す、そんな事を2度3度繰り返したがやはり見つからない。やがて自分が探し始めた場所からかなり・・・100m位だろうか・・・離れている事に気付く。ツチメが居たはずの場所はすでに山の陰に隠れて見えない。


そうだ、似た木を探すんじゃなくて夜通った獣道を辿りながら探すのが正しいと思いながら小走りで戻る。ようやく獣道の入り口へ着いた時、囲炉裏の子の存在を思い出す。思い出すのが遅い。あの子に憑いていた男は何か事情を知っていた。ならばヤツから事情を聞き出せばいいのではないか。落ちそうになりながらも河原を見渡せる岩の上へと登り、隅々まで周囲を見渡したが見つからない。山の村へ戻ったのか、それとも他の村へと向かったのか判断できない。ならば獣道の捜索に戻ろう。先程から自分が右往左往している事はわかっているが、こんな時に論理的な思考で物事に対処出来る人がいれば心から尊敬したい。


獣道を駆け上がる。数時間前はツチメと2人で転げ落ちそうになりながら降りてきた道だ。こうして登ってみると、あの子は何でも無い所でコケそうになっていたんだなと笑ってしまう。ひょっとしたらツチメは自分を頼ってわざと足をすべらせたのではないか。ならば男らしさを見せることはできたと思うが、結局こんな事態になってしまえば元も子もない。


獣道を駆け下りる。この辺りは道が狭くツチメは自分の後を必死に追いかけてきた。たまに避けた木の枝が顔面にヒットし八つ当たりで石を投げられた。あんな出来事の後にも関わらず、少しは心の余裕もあったのかとまたも回想する。


廃棄場へと着く。あまり期待はしていなかったが男は居なかった。まぁ、この匂いの中で長時間滞在出来るはずもない。なのにツチメはあの木陰で休もうとしていた。あの子の鼻はどうかしている。そういえば復讐者の息子がここに居たと話をしていたが、どこにも亡骸はなかった。既に弔った後なのか。心の中で会ったことも見たこともない男に手を合わせる。


村の家が見えてきた。昨日泊まっていた家の状況を確認すべきなのだろうが、流石に躊躇われた。特に森で火災は起こっていないようので消火の必要もない。問題は復讐者がどこかに潜んでいていきなり襲って来ることだ。


物陰に隠れなが村の中心地近くまで辿り着く。家々は破壊されていた。屋根は落ち柱は折れ無残な姿をさらしていた。ツチメは居ない。復讐者の姿が確認できないため彼女の名を呼ぶことが出来ない。


ツチメと最後に眠った家は半壊していた。物音はしない。動けるも人は誰も居ないのだろう。


森の中を歩く。自分がどこに向かっているかはわからない。


日が落ちた。身を落ち着ける場所など無い。


何日歩いたか覚えていない。疲れた。


---


何かの夢を見ていたような気がする。


---


犬の鳴き声が聞こえてくる。

まだ気だるい体に鞭を打ち横たえてた体をゆっくりと起こす。両目に映り込むのは木戸の隙間から差し込む午後の光。太陽は高く登っているはずなのだが外はやや薄暗く、今夜あたり雨が降りそうな気配がする。寝ぼけた頭を拳で3度叩き無理やり目覚めさせる。あまり寝てばかりいると、雨も振っていないのにまた親父の雷が落ちることになるだろう。


木戸を開け外の空気を部屋中に招きこむ。曇天の空とはいえ、雨が多いこの時期に締め切ったままだとカビの1つでも生えてしまう。大きく深呼吸をしながら庭へ降りようとした時、視界の片隅に違和感を感じる。遠い森の小道の先、何人かの男が大声を出しながらどこかに走って行く。こんな山奥で騒ぎが起こる事など珍しく何が起こっているのかと様子を伺っていると、如何にも頑固親父といった風貌の男がこちらへ駆け寄ってくる。


「タスケ起きたか!マツは何処だ!」

「おっとう、何があった」


父、ヤヘエは血相を変えて家へと転がり込んできた。父がこんなに慌てるとは珍しい。


「逃げる仕度をしろ!」


また逃げる事になるのか。また?・・・自分は何処から逃げた?


「マツを呼んでこい!」

「おっかあは見てない。だから何があった」


必死の形相で家の中を見渡し母を探そうとする頑固親父。



「いいかよく聞け、徳川が攻めてくる」

ひとまずお終い。

この後解説を乗せる予定です。

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