表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/40

23. 追求

「片目の子」


翌朝戻ってきたウツメに声をかけられた。思えばウツメが自分の名を呼ぶのは初めてなのではないか。眠い目をこすりながら体を起こし入り口に立つウツメを見上げる。彼女は抱えた籠の中から何かを取り出し、自分(カタメ)の首にかける。見覚えがある、いや普段からよく見ている、村の皆がかけている植物で編んだ首飾りだ。


(みな)で決めた」


どこかぎこちない表情でそんな事を言った。

村の一員として認められたということか。今までの働きが認められた、とは思えない。ならば昨日の(つたな)い歌のおかげか。歌ってみるものだ。横のツチオとツチメも喜んでくれているように見える。本来ならば涙の1つでも流して礼でも言うべきなのかもしれないが、夜の河原での出来事のせいか気持ちがついてこない。軽く一礼をし首飾りを触りながら「まぁ貰っておこう」と思うのが精々だった。


外は晴れ。釈然(しゃくぜん)としない。

すぐに囲炉裏の子の元へ行きたかったが、仕事で村の中へと向かう。後ろ髪を引かれながら作業小屋へと辿り着く。小屋の近くでは何人かの女の人たちが集まり作業を始めていた。見れば、昨日収穫した柿を紐で纏めている。なるほど、干し柿か。


軽い挨拶をし作業を始める。もう少し実と実を離した方が良いのでは、皮は剥かなくてもいいのだろうか、そんな事を思いながら見よう見真似で紐と柿の実を繋げていく。ある程度繋げた紐は壁のない作業小屋の1つに吊るされた。午前中いっぱいの時間を使って吊るされた柿の実を見ても、現時点では食欲は湧いてこない。今の段階では全部渋い柿でしかないのだ。


10人が輪になり、村の中で昼食をとる。首飾りを貰った事もあり誰かが話かけてくれるかもしれないと期待していたが、想定外の人物に捕まってしまった。トソの子だ。


どうやら神なるものに興味が湧いたらしく、どんな神がいるのか、普段は何をしてるのか、そんな質問をぶつけてくる。残念ながら神々の日常生活や好みの食べ物の事など分からない。質問は適当に答え、天照が天岩戸(あまのいわと)に立て籠もったという逸話を語った。怪しい所は多々あったとは思うが、満足はしてくれたようだ。いるよね、オカルト好きな子。


午後。

何故か冷たい視線で見つめるツチメに手を振り小走りであの子の家へと向かう。様子を伺わずに飛び込んだのが悪かったのか、座ったまま体を跳ね驚く囲炉裏の子。胸を抑え、呼吸を整え、改めて自分を見てペコリと頭を下げる。その目は昨日のアレとは違ういつもの温かい囲炉裏の子の目だった。


腰を落とし座ろうとした時、近くに薄茶色の果物を見つける。見覚えがあるこれは昨日自分が河原まで持っていったものだ。アレが持ってきたのかこの子が持ってきたのかは分からないが昨日の出来事が夢でなかったことは確実なようだった。


「この実、誰がくれたの?」


質問に首を傾げながら自分を指差す囲炉裏の子。


「話は出来る?」


言葉での返事はない。目に悲しみが色が浮かぶ。


「アレは何だったの?」


また首を傾げ「何のこと?」といった表情で見つめられる。どうやらこの子はアレとは違う状態のようだ。


「げぇ、関羽!」


一瞬表情がパァっと明るくなるが、そのまま2秒ほど表情が固まった後、顔を伏せ両腕で体を抱え込み小さくなってしまった。


「昨日の事は覚えてる?」


少しだけ悩む素振りを見せた後、小さく頷いた。頷いてしまった。


「説明は・・・出来る?」


少し顔を上げ目が合う。3秒後否定の仕草。言葉を発する事ができないこの子に説明を求めるのは難しい、いや無理か。両手を上にあげ「降参」のジャスチャーをすると、オズオズと真似をする囲炉裏の子。そのまま両腕を右左に数回振り急に下ろす。途中で着いてこれずに慌てた後頬を膨らませ睨んでくる目の前の女の子。可愛い。


アレは「また会うこともあるだろう」と言っていた。それは今でなないのだろう。いつになるかは分からないが、その時にまた話をするしかない。


---


家の外に出る。

遠く、川の向こう側に何かが見える。河原の方へ数歩、目を凝らす。何か船のようなものがこちらへと向かってきているのを確認する。それに気づいたのか、囲炉裏の子は家を飛び出し軽く状況を確認すると村の中へ走る。


10分もしないうちに騒がしくなる。村の男衆が数人河原へと集まり近づく船を観察している。自分も河原へと降り大人たちと一緒に状況を見守る。さらに10分、上陸した船から見覚えのある人物が現れた。川の村で世話になった男、アベだ。


「出迎え、大義」


王様のような物言いをしながら男衆の前に姿を現す。船から部下らしき男たちも荷物のようなものを持って降りてくる。手土産だろうか。


アベは自分の姿を見つけると、嬉しそうな顔をしながらやってきた。


(わらし)、来たぞ。案内(あない)せい」


少し面倒な事になったなぁ、そんな事を考えながら微笑みを返してみた。



天岩戸隠れの話


トソの子「スサノオって子供なの?」

カタメ「ヤマタノオロチ・・・いや、すごく大きな蛇を退治するくらい強い神だよ」

トソの子「人の迷惑考えないで好き勝手してるよね」

カタメ「・・・」

トソの子「そこら中でうんこ漏らすんだよね」

カタメ「子供なのかもしれない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ