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22. 謎

大人たちはまだ宴会を続けているが子供たちは早目に家へと戻ることになった。何てことはない、絡んでくる大人にウンザリしたのだ。最初に堪忍袋の尾が切れたのがツチメで、「カタメ帰るぞ」と言って腕を引き家路に向かい、少し遅れてツチオが後を追いかける。また歌えと言われるのも嫌だったので素直に従った。


夜になり、あたりは静かになる。宴の最中にふと思いついた事を実行すべく、気付かれないようにこっそりと起き出す。


雲間からは見え隠れする月明かりのもと河原へと続く道を歩く。手には薄茶色でこぶし半分ほどの果物を2つ持ち、村の北にある小さい家を目指す。宴の席にあの子は居なかった。体調が悪いのか呼ばれていなかったのかは分からないが、おすそ分けの1つも渡さないと悪い気がしていた。


家の入口から中の様子を伺う。人の気配はない。

このまま果物を置いて帰るという手もあるが、どうせなら顔を拝んでおきたかった。付近を探すも見当たらないので、足を伸ばし河原へと降りる。ここで見つからなければ諦めようと考えていた。


川の中に小さな影が動いている。

何も身に付けず腰まで水に浸かり、ゆっくりクルクルと回りながら踊っている。こんな夜に何をしているのか。興味は半分恐ろしさも半分、(なか)ば引き寄せられるように水面(みなも)に映る影へと近づいた。


水辺にほど近い場所まで近づくと、囲炉裏の子は跳ねるようにこちらを振り向く。怪訝(けげん)な表情をしていたのはほんの数秒、ぱっと笑みを浮かべ体をこちらへと向ける。2歩3歩と近づき手を伸ばせば届く距離までくると、笑顔を絶やさぬまま上目遣いで彼女は口を開いた。


「どうしたマサユキ、いや片目の子か。こんな夜更けに私に会いに来るとは、何か用事でもあったのか?」


流暢な日本語でそんな事を言う。何があった、何が起こった。

なぜこの子は話ができるのか。


「どうした、そんな顔をして。はて、何か困ったことでもあったか?」


確かに困る。ここでは無い言葉で会話が成立しそうで困る。

なぜこの子は話ができるのか。


囲炉裏の子はクスクスと笑いながら言葉を続ける。


「口もきけなくなってしまったか。これはどうしたものか」

「いや、口はきける。お前は誰だ?」


必死に言葉を返した。

この子は囲炉裏の子じゃない。

ならば目の前で起こっている出来事はなんだ?

ここは日本ではない遥か昔の時代だ。

日本での常識は通用しない。

そういえば、初めてカマオに会った時、自分は何と呼ばれた?

そうだ、こう呼ばれた。


「・・・お前は(あやかし)なのか?」


否定する素振りもしなければ肯定するわけでもなかった。囲炉裏の子のようなモノは薄い笑みを絶やさず体をフラフラと体を左右に揺らす。


「ふぅん、あの女が原因だったか。ならば、今はどうなっているのか」


何の話か。


「ふふふ。(くら)へと還る道を阻害するのはそういう事か」

「・・・一体何の話をしている?」

「お前の話だよ」


凍りついた空気にも少し慣れ、こわばった体の中心から熱が戻っていくような感覚が広がっていく。目の前のモノとこれ以上関わっていいのか悩む。


「・・・あの子はどうなった?」

「この先にいる、安心しな」


そう言って頭の横を指さす眼の前のモノ。随分楽しそうだ。かく言う自分はあまり余裕が無い。


大きく深呼吸を2回、呼吸を整える。


「わかった、とりあえず落ち着いて話がしたい」

「ことわる」

「何故だ?」

「お前に与える時間が惜しい」


夜は長い。時間なんて沢山あるだろう。何の時間なのか。


「どの程度なら時間をさける?」

「ツマラナイ話ならすぐに終わり」


少し機嫌を損ねたか。

表情こそ笑顔に見えるが、目は怒っているように感じる。


「・・・自分は誰なんだ?」

「さっきから質問ばかり。何か面白い話とかないのかい?」

「・・・明日は晴れるかな?」


会話に困ったら天候と三国志の話題だ。政治や宗教の話題はNGだ。


「雨だろうね」

「げぇ、関羽!」

「何を言っている?」


今のは無いわ。

致命的なミスを犯してしまったらしく、目の前のモノは興味を失ったかのように背を向け川の中へと入っていく。


「今日は帰れ。また会うこともあるだろう」

「いつ会える?」

「お前がそれを聞くか?」


これ以上の会話は不可能と感じた。


「片目の子よ。そのまま後ろを向いて去れ」


既に川の半ばまで水に浸かった囲炉裏の子のようなモノは、一度振り向く。


「振り向けば二度と私と会えなくなると思っておけ」


さらに突き刺さるような鋭い声で「行け」と一言発する。

自分の意思とは関係なく体が動き出す。

体中が(きし)むような感覚。

ゆっくり、ゆっくりと河原を後にした。


---


体の自由が戻ったのは窯の小屋に着いてからだった。もう一度河原に行って確かめたいとも思ったが、そう考える度に体が重くなる。あのモノに何か呪いのようなものを掛けられてしまったのか。


あのモノは自分の事を知っているようだった。

誰かの名前も口にしていた。

きっと自分の名前なのだろう。

なぜそんな事がわかるのか。

そもそもアイツは何者なのか。

囲炉裏の子はどうなってしまったのか。

疑問は沢山浮かぶ。


今日は眠れないなと思っていたが、徐々に意識は遠のいていた。


???(そういや裸のままだった)

???「今は帰れ」

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