表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/40

21. 宴

翌日。やや曇り。

カマオの指示の元、柿を収穫する。ツチメが木に登り上の方の実を落とし、ツチオは先が分かれた棒のようなもので実を引っ張り落とす。自分は落ちた実を拾い集める。集めた実は籠に入れ村の中へと運ぶ。他でも収穫を行っているのか、とある壁のない小屋の中に柿の山ができていた。鍋で湯を沸かしている人もいるが、まさか柿を煮て食べるのだろうか?


午後になる。

大人の男に連れられ、子供たちが村の少し上流の河原に集められた。子供の数は5人。残念ながら自分より年下はいないようだ。男はツチオと自分だけ、やはりこの村は女性の数が多い。


川には(すだれ)のようなものが何箇所か設置されており、その上で魚がピチピチと跳ねている。子供たちは周りを取り囲み捕まえた魚を籠の中へと放り込む。動く魚を掴むのはなかなか難しく、捕まえたと思っても手からすり抜け川へと逃げてしまう。ツチメは4匹、ツチオと自分は2匹を捕獲できた。トソの子は悲しそうな顔をしている。何も聞くまい。


村へと戻ると、村の中央ではキャンプファイヤー・・・いや焚き木と言うべきか・・・の準備が行われていた。焚き木は円錐状に太い木を組み立てられており、その下には細かい枝が敷き詰められている。近くにはツボや野菜、大きめの器の中には穀物が山のように積まれたものが並べられている。壁のない小屋では煮炊きが行われており、取ってきた魚は串に刺して火にかけられた。どこからか肉を焼く匂いも漂ってくる。しばらくすると、徐々に大人たちが集まってきた。


まわりが暗くなり始めた頃、焚き木に火が付けられる。細かい枝から徐々に太い木へと火が移る。思っていたより火の通りが悪い。中央から大きい炎が立ち上がり揺らめくようになるまで30分はかかったのではないか。


40人位だろうか、おそらく村の全員が揃った時にはまわりはすっかり暗くなっていた。既に地面には料理が盛り付けられた器もならべられており、自分の前にも肉や魚が乗せられた妙に歪んだ皿が置かれていた。左隣にツチメ、その向こうにはツチオ、さらに少し離れた所にカマオとウツメの姿も見える。妙にツチメがニヤニヤしているのが気にかかる。


この後何が起こるのとか固唾を呑んで見守ったが、特に何も起こらない。大抵村長みたいな人が挨拶をするんじゃないのかと思っていたのだが・・・。気付けば遠い席では既に飲み食いが始まっていた。カクリと肩を落とし呆気に取られていると、ツチメが横腹を(つつ)いてくる。横を見ればツチオは食事をはじめており、ツチメは焼いた魚を咥えながら笑みを浮かべ自分の前に並べられた料理を指差す。そうか、もう食べて良いのかと焼き魚を口にし「うまい」と言いながらツチメに向き直る。なぜか眉を寄せるツチメ。そのまま食べ進めるもツチメの表情は変わらない。ツチメの魚は生焼けだったのだろうか?


しばし宴会は続く。

大人たちは酔っているのか大笑いしながら小ぶりなツボの中身を飲んでいる。炎に照らされ顔色は良くわからないが、みんな真っ赤な顔をしているのではないか。


遠くから自分の所に誰かがやってくる。見たことがある、補助役の一人だ。補助役の一人は自分の腕を掴み大人たちが集まる一角へと連れ出す。嫌な予感しかしない。


大人たちの前に立たされ、何をされるのかとビクビクしていると耳元で「カタメ、歌え」と言われる。冗談じゃない、以前音痴と言われてから人前で歌ったことは無い。いやまて、自分に音痴と言ったのは誰だったか。期待に満ちた目大人たちの視線が集まる。1分に満たない時間が無限に感じる。


意を決した。大きく息を吸い込み目を閉じる。確かこんな感じだったはずと思い出しながら、声を放つ。


「もーえろよもえろーよ、炎よもーえーろー・・・」


歌ってやった。時間にして1分ちょい、このシチュエーションじゃなければまず歌わないだろう歌を。


静かになる大人たち。これはやってしまったのだろうか。パンパンパンと手を打つ音が聞こえ目を開ける。大人たちが拍手をしてくれていた。「何の歌か」と聞かれたが曲名なんて思い出せないので、とにかく火の歌だと答える。アンコールを受け尻込みするが、他の大人たちも興味深そうに自分を見ている。断れる雰囲気じゃない。今度は短めの歌にする。


「われっはふっくろうー・・・」


自分で歌っておいてなんなのだが曲の途中知らない山の名前が出た。4文字の名前なのだがどこの山だったか思い出せない。


2度目の拍手を受け、努めは果たしたと一礼し自分の席に戻る。続いて大人たちも歌い出したのか、背後から聞き覚えの無いメロディーと手拍子が聞こえてきた。


呆けた顔で出迎えたのはツチメ。自分が歌うのがそんなに変か?ツチオは無邪気に「何の歌か」と聞いてくる。後で教えてくれと言われ、また気恥ずかしくなる。


淡いオレンジの明りが周囲を照らす。焚き木からは火の粉が空に舞い上がる。天には星空が(またた)いていた。満月には満たない月の光を眺めつつ「こういうのも悪くないな」と思わず呟いていた。


ツチメ「私の歌を聴けぇぇー!」

一同「やめてくれぇぇ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ