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19. 化身

金を取りたいと思った。

以前川の村に行った時にトオが金の粒で買い付けを行っていた。誰かがこの村の近くで金が取れると言っていたはず。金の価値は今も昔もそう変わりはなく貴重な金属、のはず。大量とまでは言わないが、ある程度集める事ができれば村も豊かになる、と思う。


その旨をカマオへと伝えると、金の粒は知っているが産地は分からないとの事。ならば知っている人に会わせて欲しいと願うと露骨に嫌な顔をする。トオという男は何処にいるのか聞いても答えてはくれなかった。これ以上何か言ったら不味いと感じ会話を切り上げる。


諦めきれず悶々としていた2日後に転機が訪れた。ツチオの話では、村の人が川の村へ出かける用事があるのだと言う。今回カマオは同行しないがトオは行くのだそうだ。その件をカマオに話し自分も行きたいと言うとこれまた嫌な顔をする。土下座をしなんとかならないかお願いすると、お前はどこの子かと言われる。顔を上げるとウンザリした表情のカマオと、馬鹿にするような顔のツチメ、何か気持ち悪いものを見たかのようなウツメの顔が並んでおり、情報提供元のツチオは顔を(そむ)けてしまった。


癒やしを求め、ちょっとした下心もあり、クルミの実を3つほど手にしながら囲炉裏の子の家に向かう。家の近くで河原に違和感を感じ小走りで近寄って見てみると、いつか見た(いかだ)が二(そう)並んでいた。今日はもう日暮れも近い、出発するのは明日だろうと判断しその場を離れようとするも違和感がまだ消えない。しばし観察、ようやく川の水かさが増えていることに気が付く。先日の雨が川に流れ込んだのだろうか。納得してその場を離れようとすると、後ろから袖を引かれる。引かれた袖の高さから囲炉裏の子だと思い笑顔を作りながら振り向き途端霧散、トソの子が背後にしゃがんでいた。「行きたいか」とトソの子の(げん)。返事に困りしばし沈黙。どちらかと言えばトオと話がしたいのであって川の村に行きたいわけではない。だが、ここは小さく頷く事で返事とした。その後特に会話も無く散開。ぼんやりとしながら窯の小屋へと戻り、手にしたクルミを見てハッと思い出すも、ツチメに見つかりその場で2分して戴く事になった。


その日の夕方、血相を変えて小屋へと戻るカマオ。怒ったような困ったような表情で「朝、河原へ行け」と言われる。驚いた顔のウツメとツチメ。ツチオはよくわかっていない。この時自分はよほどマヌケな顔をしていたのだろうか、指を指してツチメに笑われてしまった。


---


翌朝、曇。

河原には以前お世話になった補助役の面々と、トオ、そして父親らしき男の側で自分を見つめるトソの子の姿があった。筏には荷は乗っておらず今回は買い出しのみなのかと思いながら近づいていく。筏の片側には父親(トソ)とトソの子、もう片方にはトオが乗り込んでおり、トオの表情はどこか固い。ここに来て自分は何か間違った選択をしたのではないかと自問自答するも、決定は(くつがえ)ることはない。筏はすでに水の上に浮かんでおり、以前に比べると急な流れに徐々に速度を上げていく。


しばらく経つとようやく流れは穏やかになる。その代わり川幅が以前に比べると広い。はじめのうちは必死に紐で筏を操っていた補佐役の面々も、諦めたのか紐を手放してしまっている。大変なのは(かい)を操る2人の男だったが、半分の行程を過ぎたあたりから余裕も生まれたようだった。


「話があると聞いた」


背後からトオの声が聞こえる。振り向き軽く頷く。


「前に金の粒を見た。あれはどこで取ってきたのか知りたい」

()には知らせぬ」


トオと会う用事が終わってしまった。確かに貴重な金属の算出場所を村に住み着いてからまだそんなに時間の経っていない、しかも子供に教えるわけがない。武田信玄公も金山の位置をひたすら隠していたという話がある位だ。それでも何とか言葉を駆使し、村の発展とかイノベーションだとか言いながら話を進めるも「()、何の(はなし)かわからぬ」の一言で終了となった。帰りたい。だが、ここまで来て途中で帰るわけにはいかない。


---


川の村はどことなく暗い雰囲気が漂っていた。

今回は保護者代わりのカマオは居ないため補助役の面々と同じ立場で事に当たる。とは言っても完全に一人になる訳ではなく、ズボンに履き替えたトソの子が自分の見張り役となって行動を共にする事となった。


トオは、時折大きな建物・・・問屋だろうか・・・に入ると中の人と数分会話をし金の粒を代金に品物を受け取る。受け取った品物は補助役の面々が筏へと運んでいく。袋に積まれた荷物の中身は分からないが、あれ1つを軽々と肩にのせ運んでいく補助役の面々は強い、と感じた。自分では持ち上げることすら出来ないだろう。


何のためにトオの後ろをついて歩いているのか疑問に思った頃、ようやく自分たちに仕事が回ってきた。何てことはない昼食の準備をしろとの指示だった。前にも見た硬貨を1枚受け取ると父親(トソ)とトソの子、自分は食事を分けてくれそうな家を回る。食事処なんて所はどこにもないのだ。


川のほど近く新しい木造の家を訪ねた時、奥に見知った顔を発見する。モモをくれた人、アベと名乗った男だった。以前と比べて鎧のようなものは身につけておらず、(くつろ)いだ様子で茶のようなものを飲んでいた。自分の姿を見つけると笑顔を浮かべ手を振りながら近づいてくる。驚いた表情を浮かべるのはトソ親子。


(わらし)、親を連れてきたか」


前回の礼もある。目を見ながら「親子ではないが一緒の村から来た」と答える。一瞬だけ少し驚いた様子を浮かべるも、また笑顔に戻り「そうかそうか」と(うなず)く。食べるものを探していると話をすると快諾を受けた。アベは奥に向かい2言3言指示を出す。父親(トソ)はアベに一礼すると家の奥へと消えていった。


アベは自分に向かい手招きをし家の外、河原の方へと連れ出す。後をついていく自分の後ろをトソの子が追いかける。大きな石が並んでいる所で並んで腰を下ろす。目の前には2つの大きな川の合流地点が見え、その向こうには山並みの向こうに一際高い山がそびえ立っていた。


以前は失念していたので改めて名を名乗る。片目の子とトソの子。アベの片眉が上がった気もするが特に指摘はしない。

「ここはいい所だ」と話を始める男。なんでも長いこと船で旅をしていて、ようやく開けた所に出たかと思えば雄大な景色に出会い思わず長いしてしまっている。この地の人は素朴で故郷での煩わしさを忘れさせてくれる、そんな話を聞かされた。年寄りというのは子供にどうでもいい話をしたがるものだ、そう思いながら話を聞く。


この地に訪れて色々な場所を歩いて回って色々な人に出会った。お前みたいな片目の(わらし)に会うとは思わなかったと微笑みながら自分を見つめる。ここでトソの子が「片目は不吉だ」と苦言を呈するも「片目の(わらし)は神かその使い」だと言われてしまう。


神、神ですか。会ったことないのだけれど。いや、似たようなヤツをどこかで・・・。神という単語に首を傾げるトソの子。アベはその姿に笑みを浮かべた後、一拍置き、真剣な表情で話を続ける。


「神と話をし(えにし)を結ぶ」


それが大事だと、どこかのバンドのような事を言う。この中津原には沢山の神が住んでいる。神の機嫌を損ねれば災いが起こり、礼を持って接すれば幸を与えてくれる。「わかるか?」と言われ、更に首を傾げるトソの子。自分も神扱いされてしまい複雑な気持ちになる。


「近く、カタメの村へ行こうと思う」


アベは最後にそう言い自分の目を見つめる。気恥ずかしい。

思わず目を背けポリポリと頬を掻いていると、遠くから父親(トソ)の呼ぶ声が聞こえてくる。立ち上がり一礼しその場を後にする。


食料を持ちトオと合流する。傍らにはまだ首を傾げている女の子。かける言葉が見つからない。


アベか。村とは違う常識を持った人だった。


補足

山の村、いや弥生時代の人達は「神」が何なのか解らなかったと思われます。

山は山であり、火は起こすもの。

川が流れるのは水があるからで、太陽は自分で登ります。

そこに他の意思が入り込むなんて思想を持っていません。

せいぜい()(まつ)る(感謝の意を捧げる)くらいでしょうか。

神の存在はその後国家によって全国に広められていきます。

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