表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/40

17. 収穫

刈り入れ日和だ。


今日は村のみんな総出で刈り入れを行うことになった。もっとも何か特別な用事があったり体調が優れない人はその限りではない。もちろんウツメの姿は見えない。


村の北側と西の川の向こう側にある田んぼから刈り取った穂を村の中へと運び込み、実と茎を分けそれぞれまとめて保管する。収穫する稲の種類は詳しくないが、おそらくはアワやヒエという米の仲間がほとんどだろう。水を張った田んぼ、水田は見たことがないので、日本でよく見た白い米はこの村では栽培していないのではないか。


窯の役の子供たちは村の中に案内された。村の中に入るのは初めてだったので、どんな所だろうかとそれなりに期待はしていたが、一度川の村の建築物を見てしまうと「まぁ、こんなものだろう」という感想しか出てこなかった。


山の斜面に森を切り開いたような広場があった。広さはおおよそ30平方メートルくらいだろうか、その中に10軒ほとの家が点在していた。2軒程やや大きめの木造の建物があるのが特徴的だが、それ以外の家は普通というか、窯焼き場の小屋とさほど変わりない。それ以外の建物は屋根はあるが壁は無く、学校などにある屋根付きの自転車置き場みたいな作りになっている。置いてある道具などが外から丸見えだ。薪が積まれている所もあるが、これでは雨が降ったら濡れて湿気ってしまうだろうと余計な心配をする。広場の中心にはキャンプファイヤーでもやったのか、黒く焼けた炭のようなものがうず高く積まれていた。人が住む家の数が少ない、ここに村人全員が住んでいるのだろうかと、さらにあたりを見回すと少し離れた山の斜面にも家のようなものが見えた。どうやらここ以外にも住む場所はあるらしい。このどこかにウツメがいるのだろうか。


広場の一角、川に近い作業場所に着く。屋根だけで壁の無い小屋の中に、千歯扱(せんばこき)が2つ並んでいた。太い木に金属の棒のようなものが何本か突き刺さっているやつだ。金属製の道具と言えなくもないが、これをカウントしていいものだろうかと独り悩む。


案内役の大人の人と入れ替わるように3人の女性がやってきた。大人が2人子供が1人で子供の方はスカートのようなものを履いている。ツチメといい流行りか何かなのか。3人は自分の姿を見た途端、ウンザリするようなガッカリするような複雑な表情を浮かべる。大丈夫、こんな視線は自分の左隣にいる子で慣れている。軽く頭を下げ挨拶したが当然の如く返事はなかった。


大人が千歯扱を使って稲から(もみ)を削ぎ落とし、子供たちが拾ってゴミを取り除いてから袋に詰め、削ぎ終わった茎はある程度まとめて隣の作業小屋へ積む、といった手順で作業を行う。はじめやり方が解らなかったので、周りを見ながら見よう見まねで役目を果たす。


収穫量がどれくらいあるのかは分からないが終わりが見えない。小屋の横に次々と積まれていく脱穀前の稲を見るとウンザリする。自分とペアを組んでいるツチオも同じ思いらしく時折困ったような微笑みを向けてくる。また、何度目のセリフか分からないが、効率が悪い。千歯扱の下にザルのようなものを置きその下に振るい落とした籾を受け止める器があればもっと効率的に作業が進むと思う。かと言って今回は無いものねだりをするツモリはない。水くみを始めた時のツチメと同じようにこの人達からバカにされた視線を受けることになるだろう。我慢だ。


近くの家から煮炊きをする煙が上がる。遠くを眺めると村の外からも煙が上がっている。そろそろ昼の時間だ。


いつもとは違う女の人が昼ごはんを持ってきてくれた。作業をしている6人と一緒するようで、7人が円になって座り食事を始める。自分以外の面々は和気あいあいと会話をしながら食事をしている。こんな時どんな会話をすれば良いのか分からない。頼みの綱のツチオは円の反対側いるし、自分の右側少し離れた所に大人の女性が、すぐ左側隣にはツチメが座っている。ツチメの隣には今日会ったばかりの女の子が座っていて、2人で何やら会話をしている。


それにしてもなんだろう、ツチオは年上の女性にモテるんだろうか?両隣の女性は楽しそうにツチオに話しかけているし、ツチオもなんだか楽しそうに相槌をうっている。そう言えばこの村には男の子が少なく感じる。大人の男はチラホラ見かけるが、男の子供はツチオ以外見たことがない。この時代、家督を男が継ぐとしたらツチオはどこかの跡取りって事になるのだろうか。お坊ちゃま君だったのかもしれないな。ならば自分は貧ぼっちゃま君か。ともだち○こと言って通じる人はどの位いるだろうか。また益体のない事を考えているのに気づいたのか、隣から冷たい視線が刺さる。肩を竦め食事を続ける。漬物の味がいつもより塩っぱかった。


昼休みが終わり後半戦のスタート。やる事は同じで、ひたすら籾を拾いまくる。今度はツチメと話していた女の子とペアを組んでいるが、特に会話をする必要も感じず黙々と作業を行う。たまに同じ籾を拾おうと手が触れる事もあり、その度ペアの子は嫌なものを触ったかのような表情を向けてくる。あぁ、以前ツチメもこんな顔をしていたなぁ、と懐かしく感じ思わす笑ってしまうと、怪訝そうな顔をするペアの子。


()は気が触れているのか?」


どうだろう。自分はまともなツモリではいるが、この村の人と比べると色々オカシイ所があるかもしれない。


()を見ろ」


強い声で言われる。そうか、まだこの子の目を見てなかった。恐る恐る顔を上げペアの子を見る。その目には炎が宿って・・・いる訳はないが、まっすぐ左目を貫くような視線を向けてくる。正直怖い。堪らず目を反らす。


「弱い」


そう言うとペアの子は作業へと戻った。なんだろう、この時代の女の子はみんな気が強いのだろうか。


その後、空が赤く染まりカラスの鳴き声が聞こえてくるまで作業は続いた。


---


一日目の作業が終わった。

窯焼き小屋へ戻る最中ツチオは自分とペアを組んでいた女の子について話をしてきた。名前は無い。男親の名前はトソ。トソの子と呼ばれている。川の村へと同行した補助役の一人が彼女の父親だ。ツチオよりも年は上でそろそろ子を産めるようになると言われている。子を産めるように・・・何か生々しい。ウツメの顔が脳裏をよぎる。気が強く仕事をする時は率先して取り組むような子なのだが、決められた仕事は与えられていないとの事。どうやら手先があまり器用では無いらしい。ツチオも「何をやらせても失敗する」と言う。なんだろう不憫な子だ。ツチメはどうなのかと尋ねると、後ろを気にしながら小声で「手先は器用だ」と答える。そうか、逆のタイプか。


空では雲が流れ、月の明りを隠していく。夜風に乗るのは鈴虫の声。明日は絡まれませんように、とどこかの神に祈りながら、眠りに着くのだった。


補足

この時代、村の中は女社会で女性中心に回っています。

男は村の外で働いていて、村の中のルールには口出しができません。

もっとも、村全体に関わるルールは男たちが話し合いで決めます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ