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10. 意固地

翌朝になりカマオが帰ってきた。

息が臭い。村で宴会でもあり酒を飲んできたのだろうか。この時代、麹(こうじ)が無いとすれば、酒といえば口噛み酒だろう。穀物を口で噛んだものを吐き出して長時間放置し発酵させたもの。正直飲む気にはならない。普段酒を飲む習慣がなければ酔いはなかなか引かないものだ。せいぜい二日酔いになってしまうがいいと、ため息をつく。


臭いカマオに当てられたのか、ウツメの具合が悪そう。カマオと二言三言話をすると具合悪そうにどこかに去ってゆく。疲れが溜まっていたのだろうか、ゆっくりできる所で安静にしてほしい。


良いニュースが一つ。作業小屋のひび割れた瓶がリニューアルされた。古い瓶は破棄され、焼き上がったばかりの新しい瓶が設置された。これで少しは楽になるかと思いきや、すぐに水を汲んでこいとの指示が降りる。


昼休みが終わり浅い眠りから目が覚める。小屋の中にも小屋の周りにもツチオどころかツチメの姿が見えない。交代の時間はどうしたと、鼻息を荒くしながら水くみを継続する。それでも、ひび割れがなくなったせいもあり順調に溜まっていく水を見ると気分も良い。労働に対して正当な結果を目で確認できるのは重要なことなのだ。


日が暮れる。

カマオ以外の面子が戻ってこない。囲炉裏を挟んでカマオと二人きり、少し寂しい気がする。他の連中がどこに行ったのかと聞くと、土組2人は親の所へ、ウツメは穢(けが)れたため離れた所にいるとの事。穢れとは穏やかではない。何があったのかと何度も聞き続けると、渋々答えてくれた。女性独自の月のものが来た、というやつだ。それはなんともはや、肩の力が抜ける。カマオは渋い顔のまま「そのうち戻る」と言った。


---


鶏の声で目が覚める。

朝食を済ませ、今日も「張り切って水くみをするぞ」とゲンナリしていたら、思わぬ来客があった。土組2人と一緒に、配管工兄弟の弟の方がやってきてた。カマオを外に連れ出すと何やら立ち話を始める。興味をそそられ物陰から様子を伺おうとすると、なせか隣に自分の肩を掴んで一緒に覗こうとする女が居るが気にしない。どうでもいいが鼻息が荒い。首に息が当たる。離れろ。そう言えば、あの歪んだ皿はどこに行ったのか。


会話の中身はよくわからなかった。

Lの人はパンパンとカマオの背を叩き踵を返す。

チラリとこちらを伺うカマオ。

目が合う。

隠れる。

バランスを崩したツチメがコケる。

自分、天を仰ぐ。

苦笑いしながら近づくカマオ。

ツチメに睨まれる。

理不尽。


話とは、作った土器をどこかに持っていく手筈が整ったとのこと。おそらく昨日見た筏(いかだ)を使うのだろう。台車もないのにあんな荷物を手で運ぶとは思えない。頭の中で、筏にのった囲炉裏の子が微笑みながら手を振る姿を妄想しほっこりしていると、背後から冷たい視線を感じる。いいじゃないか妄想くらい。


段取りとしてはこんな感じ。


・村の中で出荷する器を選定するのが今日

・明日の朝イチで出荷する器を二艘(そう)の筏(いかだ)に運ぶ

・運び終わったらすぐ出発

・目的地はここから下流。半日くらいの距離なので、向こうで一泊する

・帰りは筏を引っ張って村まで戻ってくる


参加メンバーは筏一艘につき6人。筏の上で荷物番が2名で補助役が4人の合計12名。それなりの人数が動員されるようだが、この時点ではまだピンとこなかった。補助役の4人とはなんだろう。


ここで荷物番として自分とツチオが指名された。明らかにブツブツと不平を漏らしている外野は放おっておいて、何か必要なものは無いかと尋ねる。


「カタメ、汝(な)は話ができるか?」

「・・・え、ええ、できる。何故か?」


ここで言う話とは、日常会話とは少し違う意味の様子。


「わかった。ならば励め」


どこかで誰かに言われたようなセリフが帰ってくる。首をいつもより多めに傾けながら意味を考える。数秒後、ハッと思いついた。そう言えば、自分は人と話をする時目を合わせない事が多い。特に初対面の人が居ると目を伏せてしまうし、積極的に会話をすることは無い。ひょっとしたら、知らない人がいる場所へ出かけて現地の人たち相手にちゃんと会話ができるのかと心配してくれたのか。そういう意味では、正直なところマトモに話ができるとは思えない。さらに言えば、村から参加するメンバーも知らない人ばかりであろう。


途端自身を無くしてしまい、辞退しようと口を開こうとしたその横でツチメがニマニマと笑みを浮かべているのに気づく。


「カタメは話ができない。我(わ)が行く」


イラっとする。自分から切り出すのはいいとして、なぜこいつに言われなければいけないのか。思わぬ発言にカマオも困ったような顔をする。


「できる。我(わ)が行く」


意地というか、意固地になった。真っ直ぐにカマオの目を見つめる2人、眉を寄せ更に困った顔になるカマオ。良くない空気を感じたのか、ツチオが「行かない」と発言する。10秒ほど考え、カマオは「良し」と判定を下す。


明日、窯の役から出かけるのは、カマオ・自分・ツチメの3人となった。


---


夜、囲炉裏の側で横になって目を閉じ考える。


ノセられた。なぜアイツと。頭の中をぐるぐると後悔の念が渦巻く。もっと大人の対応はできなかったのか。意地になる必要はなかったのではないか。いや、今は子供の体だ。大人の対応をするのは変ではないか。本当に自分は行っていいのだろうか。でも、アイツに馬鹿にされるのは納得できない。

いいから寝てしまえ、とも考えるがなかなか眠気はやってこない。

何度も寝返りをうつ。

どうしてこうなったのか。


それでも夜は更けてゆく。


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