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9. 時代

2日後。焼き上がった土器を窯から出す日が来た。

作業の手伝いを行うためだろう、見知らぬ人が3人程やってきている。大人が2人で子供が1人。

大人の方はずんぐりとほっそりのコンビ。赤と緑の配管工を思い浮かべてみればわかりやすい。

子供の方は・・・子供とは言っても自分よりは背も高くガッシリとした体型をしている。ツチオが成長したらこうなるのではないか。ひょっとして兄弟かとも思ったが、2人の距離感から違うと判断する。


助っ人達は、それぞれ服装もまばら、赤い配管工の人など上半身が裸だ。首飾りを見る限り、同じ村の人間なのだろうが妙に緊張してしまう。


カマオとMの人が何か話をした後パンと手を打つ。

作業開始の合図だ。


窯の中の作業は主に子供4人が行い、大人は外でサポート役。

まず火入れ口にある炭の山を手作業で完全に取り除く。地味に大変だ。中はまだほんのりと暖かく、作業を続けるうちに汗が吹き出してくる。積もった灰は薄い板のようなもので何度も何度も掻き出していく。出入りに支障がなくなるくらい片が付いたら、いよいよ器の搬出となる。


大きめの器はガッシリ体型の2人が担当し、小さめの器や皿などは自分とツチメが運び出す。窯の外まで持っていくと、大人がバケツリレーのように離れた所に移動させる。

搬入先で種類ごとに並べていくのはウツメの仕事だ。

窯の中チームは慎重に慎重を重ね無言で手を動かす。大人チームはどこか気楽そうな気配。軽く舌打ちをしてしまう。


昼休憩前には割れた器以外をすべて運び出すことに成功する。

後片付けは昼休み後に行う事になった。助っ人3人はどこかに戻るようで、昼ごはんのお姉さんとどこかに行ってしまう。


昼ごはんを食べながら、地面に並べられた器の数々を見渡す。

割れてこそいないが幾つかヒビが入っているものもあり、無事なものは全体の8割程度。大きめの作品は成功率が下がってしまうようで、水を貯めていた瓶と同じ大きさのものが2つあったのだが片方がひび割れてしまっていた。

それでも40を超える大小の灰色の器たちは美しく輝いて見える。

焼きの最中に変形してしまったのか歪な形の皿も何枚かあるが、あれも味というやつか。


助っ人たちが戻ってきたタイミングで昼休みが終わる。

子供たちは窯のなかの後片付け。大人たちは並べられた器のうちひびが入っていない方をどこかに持っていくようだ。

台車のようなものがあれば楽だろうにとも考えるが、無いものは仕方がない。頑張って往復してくださいと冷めた感情で大人たちを見送る。なお、ひびが入っているものはその場で叩き壊してしまう。もったいないとは思うが、使えないものはそういう運命を辿ることになるのか。

自分は役に立っているのかと思うと、少し背筋が冷たくなるように感じた。


夕暮れ前にはすべての作業が終了する。

助っ人たちは手を振りながらどこかに去ってゆく。結局彼らとは一言も話すことはなかった。まぁ、それはいい。

流石に汗が気持ち悪かったので、子供3人連れ添って水浴びに出かける。その間無言だったのが気まずいのか、ツチオが自分とツチメの様子を伺っていた。

すまない、疲れて何も話をしたくなかったのだ。


子供たちはいつもより早い時間には横になってしまう。

ツチオのいびきがいつもより大きい。明らかに大人より子供の方が働いている気がする。(かたわ)らには歪な形の皿を眺めながらニマニマしているツチメ。なんだろう、あの変な形の皿が気に入ったのだろうか? 性格が歪むと歪んだものが好みとなるのだろう。


そういえば、これだけ土器を作っているのに普段使いは木彫りの器というのはどういう事だろう。土器と木彫りを比べてみても、土器の方が価値が高いと思う。村の連中が土器を使っているとすれば、窯の役の5人は格が下ということだろうか。村の方には身分が高い、貴族みたいな人々が住んでいるのだろうか。

昔の人々の暮らしはどうだったのかと記憶を引っ張り出す。

確かに偉そうにしている人々は汗水たらして働いているイメージは無い。江戸時代に士農工商という身分差があったが、実はその上に公家という働きたくないでござるの人々も居たのだ。

おそらく今いる時代は弥生時代の後半に当たるのではないかと思う。地方には豪族という王様のような身分の人がいる時代である。広い農地を持ち、それ以前の時代に比べ食べ物には不自由しなくなった。

弥生時代は長く続いていたため今がどの年代なのかは分からないが、身分差が生まれ始めた時代に身を置いているのかと思うと、何か心の中がモヤモヤとする。

さて、身分差が生まれていない時代とはいつの事だったか。


その日、カマオは小屋へとは帰ってこなかった。


---


目を覚ます。

最近は夜起きていた事もあり、サイクルが狂ってしまっているのだろうか。熟睡できたとは思うが、疲労が完全に抜けたわけでは無いらしく、まだ足腰に違和感を感じる。

小屋の外に出る。少しだけ空が(しら)ずんでいる。朝は近い。

少し離れた所に小さい影を見つける。歪んだ皿を膝にのせたツチメの姿を確認し回れ右をする。ゆっくり足音を立てないようにその場を離れる。川の方へと行ってみようか。


川に向かう途中、以前世話になったテントのような家の横を通過する。あの子は元気でいるのかと気になり近づいてみるが、中から人の気配はしない。囲炉裏にはまだ熱が残っている。どこに行ったのかはわからないが、またそのうち会えるだろう。


川へと到着する。

すこし上流の河原に何かの人工物が見える。気になり、そちらの方へと歩みを進める。近づくにつれ、人工物が何なのかがはっきりしてくる。ちょうど村の西口から土手に降りた河原に、丸太を組んだ二(そう)(いかだ)があった。それほど大きいものではない。

さらに近づいて行くと筏の上に小さな人影が見えた。黒い服、肩口あたりまで伸びたボサボサの髪、首飾りは付けていない。

囲炉裏の子だ。座り込み左右に体を振っている。想像の中で筏に乗って旅にでも出ているのだろうか。微笑ましく思いながら近づいてゆく。


ジャリジャリと河原の石を踏む音に反応したのか、囲炉裏の子はゆっくりとこちらを振り向く。頭上で大きく手を振りながらそれに答える。


「こんばんわ」


頬を緩めながらさらに近づく。何日ぶりの再会だったか。はじめ首を傾げていたが、自分に気づいたのか小さく頭を下げる。


「何をしているの?」


問いかけながらさらに近づく。返事はない。相変わらず手足が細い。ちゃんと食べているのだろうか。

筏のそばまで近づく、と、囲炉裏の子は筏の対角線上に逃げてしまう。回り込んで近づくと反対側に逃げる。2度3度、追いかけっこを続ける。頬を膨らませながら睨まれる。かわいい。

怒らせてしまったのならばこれまで。この子には恩がある、嫌われたくはない。


「そうだ。礼をしていなかった。ありがとう」


怒りは収まったのか、眼力(めじから)が和らいだ気がする。

そのまましばらく見つめ合う。囲炉裏の子は一度ビクッとからだを震えさせ、横を向いてしまった。


「しばらくはこの村に世話になると思う。また会おう」


手を振りながら後ろ向きに歩き出す。

土手の手前までそのまま歩いていたが、最後までこっちを向いてくれる事はなかった。なに、また会えるさ。

土手を登りきった時、空が明るくなってきた。


登り窯を使って須恵器を作る場合、燃焼時間は60時間くらい。中の温度は1000度を越えます。


カマオや村の人はちゃんとした焼き方を知ってるわけではありませんので怪しい所が多々あったりします。


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