初代魔王とワルキューレ
ジャンヌとウルミラが不意打ちに会い、大成が身を呈して守ったが、大成は重症を負った。
そして、不意打ちした人物は、ジャンヌの父初代魔王だった。
【パルシアの森・人間の国側・夜】
真夜中、ゆっくりと雲が流れ、隠れていた月が現れ、パルシアの森を照らした。
広大な森は、あちらこちらの木々が倒れおり、所々その木が燃えたり、凍りついていた。
大成がサラマンドラを討伐したことにより、騎士団達の雄叫びが地鳴りの様に響いていた。
そんな中、戦いを中断した虎は、戦線で彼女カナリーダを亡くしたことで自失しいる兄・鷹を担いで、自分達の隊員達と一緒に自国へと敗走していた。
その時、虎は自分の恋人のサリーダの魔力が消えたことに気付いた。
「…おい…。う、嘘だろ……。サリーダ………。糞ぉぉ!ゆ、許さん、許さんぞ~!覚えていろ魔人族め。お前達は、必ず、必ず!俺が、俺達兄弟が、一人も残らず駆逐してやる!必ずだぁ~!」
虎は、怒りと憎しみに歪んだ表情で雄叫びをあげ、その瞳から涙が溢れていた。
虎達が撤退している中、未だ撤退せず魔王軍と戦っている部隊があった。
それは、カナリーダが率いる魔法部隊の隊員達だった。
彼らは、虎から撤退するよう命令を受けたが、隊長・カナリーダと副隊長・サリーダを心の底から慕っており、その2人が戦死したことで復讐に燃え、しんがり(軍が退く時、最後尾にあって、追って来る敵を防ぐこと。またその部隊)を自らかって出たのだ。
鷹虎兄弟の部隊が撤退しても、捨て身の魔法部隊の勢いは弱まるどころか激しくなり、激戦を繰り広げた。
【パルシアの森・中央・人間の国側・夜】
そんな戦場から遠く離れた場所から流星達は、戦況を観戦していた。
「まさか、あのカナリーダとサリーダが倒されるなんて……。それに、2人を倒した攻撃は何?魔法なの?」
メルサは、ジャンヌとウルミラのアポロンとグングニールの威力を見て驚愕していた。
「確かに魔法だが、少し違うな。武器に魔力を込め、施された魔法陣が発動する術式魔法だ。しかし、あの威力は俺も驚いた。それにしても、フフフ、武器が変化するとは面白い。あんな奥の手があるとは、魔人の国にスパイを送り込んでいるが報告はなかった。おそらく、個人の必殺技…いや、切り札だったのだろう。あの2人が、殺られたのは予定外だったが仕方がない」
カナリーダとサリーダが倒れ、鷹虎兄弟達は敗走し、深刻な事態に陥っている状況だったが、流星はメルサとは違い、ジャンヌとウルミラのアポロンとグングニールを見て、笑顔を浮かべていた。
「ねぇ、流星。あなたも、あの攻撃を防ぐことは無理なの?」
流星の話を聞いたメルサは、不安になり心配した表情で尋ねた。
「いや、不意をつかれない限り、俺には通用しない」
「そうね!あなたは、この世界で一番強いから大丈夫よね。ところで、ツカサ…」
流星の答えを聞き、明るくなったメルサは、黙っているツカサに振り返った。
「ウフフフ…どうしたの?ツカサ」
メルサは、隣で固まっているツカサの表情が面白く、口元に手を当て、笑いながら声を掛けた。
ツカサは、ジャンヌやウルミラの戦いよりも、膨大な魔力を秘めていたサラマンドラを相手に、臆することなく一人で勇敢に挑む大成の戦いに釘付けになっていた。
そして、大成は助力もなしに、たった一人でサラマンドラを倒した。
その光景を見て、目を大きく開き口を開けままの姿で固まっていた。
「……す、凄い…。話を聞いていましたが、ま、まさか、あの大きな竜を…たった一人で倒すなんて……」
ツカサは、信じられない物を見たかの様な表情で、口元に両手を当てて呟いた。
「まぁ、当然だ。俺の義弟だからな。これぐらいのことは、できて貰わないと俺が困る」
「ウフフ…」
「フフフ…」
溜め息した流星の仕草を見たメルサとツカサは、口元に手を当てながら小さく笑った。
【パルシアの森・左側・夜】
戦場の左側で戦っているミリーナは、敵を倒しながら周りを見渡し気付いた。
敵が減り、少しだが相手の勢いが衰えていたのだ。
近くにいたウルシアも気付いており、お互いに目を会わせ、お互い無言で頷き合う。
「「シリーダ!、ニール!」」
「「ハッ!」」
ミリーナとウルシアから呼ばれたシリーダとニールは、目の前の敵を倒して、すぐに2人の傍まで駆けつけ、片膝を地面につき敬礼をした。
「あなた達は、あの子の元に行って援護しなさい」
ミリーナは左手を前に出して、2人に指示した。
あの子とは大成のことだった。
「「ですが…」」
まだ、敵が減っているが、相手は死に物狂いで攻撃してきており、まだ油断はできない戦況だったので、シリーダとニールは戸惑った。
「何?あなた達、私達の強さを疑っているの?」
ミリーナの隣にいるウルシアが、魔力を高めて怪訝な表情で尋ねる。
周りの隊員達や敵は、ウルシアの膨大な魔力を感じビックと体が震え、息を呑んだ。
「いえ、そのようなことは微塵にも思っていません。ですが…」
間近で膨大な魔力を当てられているニールは怯まずに、ウルシアの目を見て否定した。
「ふぅ、ごめんなさい。ウルシアも落ち着いて。あの子を失うわけにはいかないわ。それに、操られているかもしれない夫を見たくないの。それに、もし危機に陥った場合、あの子よりも自分達の娘を優先しそうなの。だから、あなた達に任せたいの。2人共、お願い」
1度大きく深呼吸したミリーナは落ち着き、シリーダとニールに謝罪し依頼をした。
ウルシアは魔力を押さえた。
「「畏まりました」」
シリーダとニールは頭を下げた。
ミリーナとウルシアは、頭を下げたシリーダとニールの顔が見えていなかったが、2人はミリーナとウルシアの想いを知り、口元を弛めていた。
そして、2人は表情を引き締めて、すぐに行動に移る。
シリーダとニールは自分の隊の副隊長ヤザンとバッカスに今後の指揮を任せ、中央の奥にいる大成の元へと向かった。
【パルシアの森・右側・夜】
反対側で防衛していたローケンス達も、ミリーナ達と同じ行動に移っていた。
「わかった、任せるぞ。行くぞ、マリーナ」
「ええ、あなた。私達は行くわ。だけど、あなた達、決して無理はしないでね」
ローケンスとマリーナも、副隊長リガルダ、ヘルレウスに昇格したマキネ、娘のイシリア、息子のマーケンスに言われ、大成の元へと向かった。
【パルシアの森・中央・人間の国側・夜】
その光景を遠くから見ていたツカサは、ローケンス達の行動に気付いた。
「あっ!流星さん。両側の幹部みたいな人が2人ずつ、魔王の元へと向かいました。私達も、戦いに参戦して阻止した方が良いかと…」
「そうね。ツカサの言う通りだわ。ねぇ、どうするの?流星」
メルサも気付いていたが、流星にどうするか尋ねた。
「無論、俺達も向かう。だが、様子を窺うだけだ。まだ、魔王を試していないからな。手出しはしない。しかし、フフフ、面白いものが見れる。魔王対魔王。いや、魔王修羅対先代の魔王だな。まぁ、そう心配するな。もう少ししたら、俺の部隊「レッド・ナイツ」が動くことになっている。それに、せっかくの余興だ。楽しまないと損するぞ」
こうなることを予め予想していた流星は、既に対策をとっており、これからどうなるか楽しんでいた。
「でも、本当に大丈夫なの?流星。私もツカサと同じで心配だわ。だって、弱っているとはいえ、相手はあなたの義弟の大成君なのよ。魔王しか行かせてないわ。せめて、奇襲をかけるタイミングが遅らせて、あなたの部隊「レッド・ナイツ」と一緒に同行させた方が良かったと思うわ。せっかく、出陣させるのに」
メルサは、不満そうな表情で流星を見つめる。
「確かにメルサの言う通り、その手もあった。しかし、それを行った場合、目立ってしまい、すぐに気付かれてしまうだろう。そうなったら、奇襲するどころか大成に近寄る前に、魔王直属護衛軍のヘルレウスが数人掛かりで対応し、魔王が倒されたり拘束されるなどの可能性が高かったからしなかった」
「それは、わかりますが…。でも、本当に大成君に奇襲が成功するのですか?あのサラマンドラを、たった1人で倒した人ですよ?」
大成の強さを知ったツカサは、流星の話が信じられなかった。
「フッ、2人とも本当に心配性だな。まぁ、そう思うのは仕方がないか…。だが、1つ間違っているから訂正する。奇襲で狙うのは大成本人ではない」
「「えっ!?」」
流星の意外な言葉に、大成に不意打ちをすると思っていたのはツカサだけではなく、メルサも思っていたので、2人は驚き、それと同時に疑問が浮かんだ。
「フッ、そういえば言っていなかったな。奇襲をする相手は、姫様とウルミラとかいう側近の少女達だ。大成は、ほぼ確実に身を呈して2人を守る。だが、疲労している今の大成は、2人は守れても、自分の身は守れない」
「あなたの言いたいことは、わかったけど、その2人は大成君のところに向かうことや、大成君が2人のために、自分の身を呈しても守るという考えには、何か根拠でもあるのかしら?」
「あの2人は、大成に惚れているように見えたからな。それに、大成を失ったら今度こそ国内のバランスが崩れるから護衛するはずだ。ガス欠寸前の大成達には、魔力感知が衰えている。奇襲に気付くのが遅れ、対応ができないだろう。唯一、対応ができる大成には弱点がある。大成は幼い頃、戦時中に両親が身を呈して大成を命懸けで守り、そして大成の目の前で命を落とした。そのことで、大成は特殊部隊に所属していた時、自分より仲間を大事にし、己を犠牲にしていた。その度に俺が何度も注意したが、結局それだけは言うことを利かず、何度も死にかけていたからだ。それに、保険としてアレを魔王に渡している」
過去を思い出した流星は、あまり見せたことのない悲しい表情で説明をした。
「「……」」
そんな流星の表情を見たメルサとツカサは、何も言わずに話をじっと聞いた。
「アレって、まさか…」
「伝説の…」
「ああ、そうだ。伝説のアレだ」
2人の驚いた表情を見ながら、流星は頷いた。
数分後、流星達から50mほど離れた前方には、レッド・ナイツ400人が辿り着き、気配を消し身を潜めていた。
そして、ローケンス達が戦場を離れ、姿が見えなくなり、暫く間を置いて作戦を開始した。
「「……」」
レッド・ナイツは、4つの小隊に別れる。
1個小隊100人に別れており、一番外側の左右、ミリーナとウルシアのいる左側と中央の間、マキネ達がいる右側と中央の間の4つの木々が黒く焦げていたり、生い茂っているルートに、それぞれの小隊は気配を消したまま無言で侵攻を始めた。
メルサとツカサは、レッド・ナイツを見て体の芯から震えていた。
レッド・ナイツの隊員の顔を見たが、表情や感情がなく、まるで人形の様で不気味さを感じた。
【パルシアの森・右側・夜】
マキネ達は、敵を倒しながら、視界の端に木々の隙間からチラつく影に気付いた。
「ここは、私に任せてマキネ様達は、左右をお願いします。ですが、今まで見たことも、聞いたこともない部隊ですので、お気をつけて下さい」
ローケンス部隊の副隊長リガルダは、マキネに依頼をした。
「わかったよ、リガルダさん。ここは任せるね。私と私の部隊半分は内側の敵に向かうから、残りの半分とイシリア、マーケンスは、外側に侵攻している敵を倒して欲しいんだけど」
ローケンス達が離れるのを待っていたことに気付いたマキネは、苦虫を噛み潰したような表情になったが、すぐに決断をして指示をした。
「任せて、マキネ」
「わかったぜ、マキネ姉」
イシリアとマーケンスは賛同し、レッド・ナイツを追いかけた。
【パルシアの森・右側・外側・夜】
高低差が激しく険しく、人を寄せ付けない森と言われるほど有名なパルシアの森なのだが、そんな中、レッド・ナイツは、まるで森を熟知している様な身のこなしで侵攻していた。
レッド・ナイツの身のこなしを見た者は誰しも、只者ではないと判断できるものだった。
「何て速さなんだ!?これは、まるで獣人並みじゃねぇか?」
先頭で追いかけるマーケンスは、驚愕した。
「大成君の所には行かせないわ!エア・ショット」
マーケンスの少し後ろにいるイシリアは、足止めをしようと思い、レッド・ナイツに向けて圧縮空気弾を26発放つ。
しかし、生い茂ている木々に阻まれ、レッド・ナイツに届かなかった。
「くっ、やはり、生い茂ている木々が邪魔で当たらないわね」
歯を食い縛りながらイシリアは、どうするか思考を巡らせる。
レッド・ナイツは、追いかけてくるイシリア達に視線すら向けることもせず、ただターゲットである大成の元へと向かう。
「糞、待ちやがれ!正々堂々と戦え!こうなったら…」
「ちょっ、マーケンス、待ちなさい!」
先頭を走っていたマーケンスが、背中に背負っている大剣に手を伸ばして魔力を高めたことで、イシリアは嫌な予感がし慌てて止めようとしたが一足遅かった。
「エア・スラッシュ」
マーケンスは大剣を凪ぎ払いながら、風魔法エア・スラッシュを唱え発動し、前方にいるレッド・ナイツに向けて風の刃を放った。
風の刃は木々を切り裂き、レッド・ナイツに迫ったが、あと数mのところで威力が弱まり消えた。
「馬鹿!皆、前方注意!木々が倒れてくるわよ」
大声でマーケンスを罵倒したイシリアは、指示を出した。
「「了解!」」
マキネの隊員達が、返事したと同時に前方の木々が次々に倒れてきた。
倒れてくる木々を避けたり、武器や魔法で振り払いながら、イシリア達はどうにか無事に切り抜けたが、スピードが失速してしまい、レッド・ナイツとの距離が広がった。
「全員、無事?」
イシリアは止まらず、後ろを振り返り確認する。
「「はい」」
「ごめん…」
隊員達は返事をし、落ち込んだマーケンスは素直に謝罪した。
「もう、いいわ。過ぎたことよ。それより、もう追いつけそうにないわね。仕方ないけど、お父様と大成君に報告し、私達はこのまま引き継ぎ跡を追うわよ」
「わかったぜ」
「「了解」」
全員、イシリアの意見に賛同した。
イシリア達が追いかけているレッド・ナイツとは、別のレッド・ナイツをミリーナやウルシア、マキネは、別々に追いかけていた。
自分1人でなら追いつくことは可能だったが、初めて相対するレッド・ナイツの雰囲気の不気味さを感じとり、1人では危険だと判断し、隊員達の速さに合わせて追いかけていた。
次第に離されていき、イシリア達と同じ選択を余儀なくされた。
【パルシアの森・中央・夜】
大成、ジャンヌ、ウルミラの3人は、気配を消して岩影に隠れていた。
正面には白のローブを纏った先代の魔王が、殺気を放ちながら、一歩さらに一歩っと、ゆっくりと警戒しながら歩を進めている。
「う、嘘よ…。そんな…お、お父様が敵だなんて…」
白のローブを纏った人物が、先代の魔王だと知ったジャンヌは、ショックを受け、口元に手を当てたまま声と体が震え動揺していた。
「大丈夫ですか?大成さん」
ジャンヌの後ろにいるウルミラも、相手が先代の魔王だと知り動揺したが、それよりも、自分達を庇って重傷を負った大成の方が心配だった。
「……」
大成は、頭の中は既に戦闘態勢に入っており、深刻な表情で色々と思考をしていた。
(魔王が寝返るか…。予想通りの展開だな。それより、まずは手当をしないとな。ポーションで傷を癒しているが傷の治り具合は微妙だ。やはり、魔法で回復した方が良いか。でも、残りの魔力は、まだ心もとないし温存しときたい。それに、この怪我と出血量で未だに呼吸と意識が不安定だから発動しても失敗するのが関の山か…)
こうなることを予想していた大成は、マルコシアスを誘いに行った日に、ジャンヌとウルミラ以外の幹部達に話していた。
2人に話さなかったのは、2人を気遣ってのことだった。
そのため、大成は2人には話すなと周りの幹部達に口止めをしていたのだ。
その気遣いが仇となった。
2人は覚悟ができておらず動揺しており、特にジャンヌは酷かった。
「大成さん?」
呼び掛けに返事をしない大成を、ウルミラは心配した表情で尋ねた。
「ごめん。考え事をしていた。ぐっ、とりあえず、この出血の量は不味いな。早く止血を…しないと……」
大成は、自分の左腕に刺さっている土の槍を右手で掴み抜き取り、続けて脇腹に刺さって貫通している土の槍は、抜き取った場合、出血が酷いと判断して、左手で更に奥へと押し込み、苦痛の表情を浮かべた。
そして、右手に村雨を発動し、はみ出している土の槍の部分を切り落とした。
「はぁはぁ…最後の仕上げだ。グリモア・ブック、フレイム。うっ」
大成はグリモアを召喚し、フレイムを唱え、右の掌に炎を纏わせた。
「あ、あの大成さん。一体何を!?」
「応急処置だ」
ウルミラが動揺している中、大成は説明をしながら、炎を纏った右手で傷口に当てて焼き、血止めをする。
「ぐぅ…」
激痛が走り大成は歯を食い縛って声を押し殺した。
「大成さん、大丈夫ですか!?」
「ああ…何とか」
「大成。無茶は、やめなさい」
「そうですよ。荒治療過ぎます」
ウルミラは、涙を溢しながらハンカチで、大成の冷や汗を拭いていく。
「ハァハァ…ありがとう。それより、とりあえず2人は、ここから離れろ」
「あ、あの、大成さんは?」
「大成、あなた。ま、まさか一人で、お父様と戦うつもりなの!?」
「ああ、そのつもりだ」
大成は、呼吸を整えながら笑みを浮かべた。
「大成、やめなさい!流石のあなたでも無茶よ」
「そうです。それに、大成さんは…私達のせいで……応急処置したとはいえ、重傷を負っているのですよ…」
「さっきも言っただろう。怪我は自分の落ち度だ。それに、2人共、もう魔力がないだろう?しかも、相手は先代の魔王だ。本当に戦えるのか?」
大成は、ジャンヌとウルミラの反応を窺う。
「「~っ!!」」
大成の言葉から先代の魔王の名が出た時、一瞬だったが2人は同時に身を竦めた。
「あ、相手が、お父様でも、た、戦えるわ」
「私も、た、戦え…ます…」
2人が身を竦めたことに、気付いていた大成は、何も言わずにクスクスと笑った。
2人は、気付かれたことに気付いた。
「な、何よ!?その顔は!」
「ど、どうかされました…か…?」
ジャンヌは誤魔化そうと顔を赤く染め頬を膨ませ、ウルミラはオドオドしながら、恥ずかしそうに頬を赤く染め、声が段々と小さくなった。
「アハハ…痛っ。それよりも魔王が…。ん?」
「アース・ウォール」
そんな2人を見て大成は笑った時、ローケンスの声が聞こえた瞬間、大地が地鳴りを靡きかせながら大きく揺れ盛り上がり、先代の魔王の周りをドーム状に囲った。
「「修羅様!!」」
左右の木々の奥からローケンス達が、慌ただしくやってきた。
「そ、その怪我はどうされましたか!?大丈夫ですか?」
ローケンスは必死の形相で、大成の傍まで駆け付け、大成の怪我を見て驚愕した。
「応急処置はしたから、とりあえずは大丈夫だ」
大成は苦笑して答えたが、ローケンス達は傍にいるジャンヌとウルミラに、詳しいことを聞こうと振り向いた。
しかし、2人の落ち込んだ表情や態度を見た直後、何があったのかを悟り、それ以上、追求をせず、話題には触れなかった。
「それにしても、修羅様から事前に聞いていましたが、まさか、本当に魔王様が……。糞っ!人間共めぇ~っ!」
操られている先代の魔王の姿を見たローケンスは、歯を食い縛りながら、込み上がった怒りを堪えたが、魔力と威圧感は抑えきれなかった。
他の皆も同様に激怒しており、魔力と威圧感が増していた。
「まずは落ち着け。それより、ローケンス、マリーナ、シリーダ、ニール作戦通りに頼むぞ」
「そのことなのですが、修羅様」
「何だ?ニール」
大成は、立ち上がろうとした時、ニールから尋ねられ立ち止まる。
「大変、申し訳ないのですが、少し作戦を変更を致しませんか?」
片膝を地面につき敬礼したニールは頭を下げ提案した。
「ニール、お前が何を言いたいのかはわかる。お前達、全員で足止めをし、俺が隙をつき、サンライズを唱えるということか?」
「はい。流石、修羅様。お察しの通りです。本来の作戦は、修羅様が先代の魔王様と一対一で戦えるように、私達はそれを邪魔をしようとする輩を排除することになっていましたが、相手は今のところ魔王様ただお一人です。私達が魔王様を足止めを致しますので、修羅様は、その間に傷の治癒と魔力の回復に専念して下さい」
「そうね。修羅様しか、魔王様を正気に戻すことができないので、私も賛成するわ。あなたは、どう?」
「そうだな。俺もマリーナと同じく、ニールに賛成します。俺達4人なら十分に魔王様の足止め…。いえ、拘束ができます」
「私もニールの意見に賛成ですわ。修羅様」
ローケンス達は真剣な瞳で、大成を見詰めた。
(どうする?ローケンス達にも、先代の魔王と戦わしたくなかったが……)
「……。わかった。任せる」
ローケンス達の瞳を見てその覚悟を知った大成は、1度目を閉じ、そして目を開いて承諾した。
「「ハッ!」」
敬礼をしていたローケンス達は立ち上がり、先代の魔王の近くに移動した時、魔王の魔力が膨大に膨れ上がり、囲っていた土壁が爆発した。
「魔王様、俺達のことを覚えていますか?」
ローケンスは大剣を抜かずに話し掛けて、魔王の反応を窺った。
「お前達のことなど知らん。だが、邪魔するというのであれば排除する」
魔王は、放っている殺気と纏っている魔力を増大させた。
「仕方がない。魔王様、申し訳ありません。手荒になると思いますが、貴方様を拘束させて頂きます」
謝罪をしたローケンスは、魔力を高めて大剣を構えた。
数歩後ろに離れているマリーナ、シリーダ、ニールも、魔力を高め戦闘体勢をとった。
その時、ローケンスと大成の周りに魔力が膨張し、レゾナンスが発動した。
ローケンスは、すぐに仲間にも聞こえるようレゾナンス発動し共有化をした。
「大成君、お父様、申し訳ありません。そちらに敵の部隊が向かっています。数は、およそ100人ぐらいです。私達も追っていますが、相手の移動速度が速く、止めることができません」
「ごめん、ダーリン。こっちもだよ」
「ごめんね。私の方も」
「こちらも、同じく。見たこともない部隊。それでいて、雰囲気が不気味だから気を付けて下さい」
「わかりました」
イシリアの報告とほぼ同時に、マキネ、ミリーナ、ウルシアも報告し、大成達は頷いた。
「報告は聞いたな。援軍が来る前に、全力で捕らえるぞ!」
「「了解!」」
ローケンスの掛け声と共に、全員は動いた。
「フン、やれるものならやってみるがいい、フレイム・ランス、アイス・ミサイル・ニードル」
両側の腰に剣を掛けている魔王は、右手で左側の腰に掛けている剣を抜き、空いている左手を前に出して、炎の槍と氷の矢を数十発を同時に召喚して、ローケンス達に向けて放った。
「凄いな、2種類の魔法を同時に発動した。しかも、数もそうだが、真逆の属性を同時に発動できるとは。流石、魔王だな」
気配を消したままの大成は、回復に専念しながら岩影から覗いており、魔王の力量を見て心から感心した。
「もう、大成。感心している場合じゃないわよ」
「そうですよ」
「ハハハ…痛っ、ごめん。」
ジャンヌとウルミラに注意された大成は、苦笑いを浮かべ謝った。
魔王が放った炎の槍と氷の矢が、ローケンス達に迫った。
「私に、お任せを」
ニールが、ポケットからパチンコの玉ぐらいの大きさの鉱石を一握りし投擲した。
今まで使っていたのは鉄の玉だったのだが、大成との手合わせした時、雷魔法マグネット・ウェーブによって、地面に叩き落とされたので、それからは、電気や磁力を通さない絶縁体の鉱石に代えたのだ。
鉱石は、先頭のローケンスの横を通りすぎた瞬間、パチンコ玉ぐらいの大きさだったのが、急激に直径1mの大きさに巨大化し、炎の槍と氷の矢と衝突し、鉱石は溶けたり凍ったりしたが、数と質量で勝り魔王に迫った。
「エア・バースト」
魔王から気付かれない様にローケンス、マリーナは、気配を消して鉱石の後ろを走り、姿が見えない位置とりで接近し、シリーダは風魔法エア・バーストを発動させて空を飛んだ。
「一人は上、2人は気配を消したか…。だが、すぐに居場所を見つけ出してやる。エア・ブロー」
魔王は左手を前に出し、突風を巻き起こした。
鉱石は勢いが弱まり、そして、ゆっくりとスピードは遅いがローケンス達に跳ね返した。
「ウォォォ」
ローケンスは、大剣に魔力を纏わせ、向かってくる鉱石を、次々に斬り落としていく。
「ハァァ」
シリーダは、上空から鞭で魔王に向かって乱舞する。
「フン。1人は、そこかファイア・ストー…」
魔王は、移動しながら鞭を回避し、左手を前に出してローケンスに向け、炎と風の複合魔法ファイア・ストームを唱えようとしたが、右側の真横から気配を消したままマリーナが接近していた。
「何!?」
マリーナはローケンスの近くにいると思っていた魔王は、予想もしていなかった場所からマリーナが現れ驚愕し、魔法の発動を中断され不発になった。
「やぁっ!」
マリーナは、魔王の動きを封じるため、短剣で足首の腱を狙い振り抜いた。
「チッ」
魔王は、右手の剣を地面に突き刺して防ぎ、すぐに左側に大きく飛び退いて一旦距離をとった。
「これは、どうですか?」
攻撃の波を途切らせない様に、シリーダは再び上空から鞭で乱舞し、ニールは右手を振り上げ、巨大化をして拳を握り締め、魔王の頭上に叩きつけようとする。
シリーダの鞭の軌道は先程とは違い、魔王を直接狙わず、魔王の周りを乱舞して牽制をする。
「なるほど。今度は、私の逃げ道を塞ぐか…。だが、ライトニング・ボルト・ランス」
魔王は左手を上に向け、迫ってくる巨大化したニールの右手に狙いを定め、蒼白くバチバチとスパークしている雷の槍を放った。
「がっ」
雷の槍を直撃したニールは、右手だけでなく全身から感電し放電した。
そして、感電したことで痺れ力が抜け、魔王の手前に外れた。
だが、その間にローケンスとマリーナが再び接近した。
「今度こそ」
「あまい!」
マリーナは、再び魔王の足の腱を狙ったが、魔王は剣を下から掬い上げて防ぎ、マリーナを弾き飛ばした。
「うっ」
弾き飛ばされ体勢が崩れたマリーナは、片手を地面につきバク転をして体勢を立て直した。
「うぉぉぉ!」
その隙に接近していたローケンスは、魔王の手前で立ち止まり、大きく体を捻らせ、全力で大剣を凪ぎ払った。
「チッ」
振り上げていた右手の剣で防ごうと思った魔王だったが、間に合わないと瞬時に判断し、舌打ちしながら、すぐに右腰に掛けていた剣を左手で抜き、ローケンスに向かって凪ぎ払った。
大剣と剣が衝突し、衝撃波が生まれ、周りの枝や葉、草が激しく揺れた。
「ぐぉぉ」
魔王は、ローケンスの斬撃の威力に堪えきれず、少し両足が浮き飛ばされ、着地したが後ろにズリ下がった。
魔王は、キシッと音がした左手の剣を見た。
「ん?」
剣は大剣と衝突した箇所から音をたてながらヒビが入り、そして砕けて折れた。
「まさか、ツカサ様から頂いた剣が…よくも!」
一瞬だったが、魔王は折れた剣に視線を向けた。
その直後、シリーダは合図を出した。
「準備できましたわ」
「「ダウン・ホース」」
シリーダの合図で、ローケンスとマリーナの2人は今度は接近せず、風魔法ダウン・ホースを唱え発動し、魔王の真上に圧縮した空気の壁を落とした。
剣に視線を向けていた魔王は、反応が遅れた。
「糞、エア・ブロー。ぬぉぉ」
魔王は慌てて、折れた左手の剣を放り捨て、左手を上に向け、突風を放った。
「うぉぉぉ」
だが、魔王の放った突風は、ローケンスとマリーナの圧縮された風の壁に押され、右手で握っている剣を足元の地面に突き刺し右手も上げて、両手で、魔力を全力で込め、突風の威力が上がった。
しかし、魔王は魔力を高め必死に対抗するが、2人のダウン・ホースは、まるで空が落ちてきたと思わせるほどの力強さがあり、徐々に押され片膝をつき、伸ばしていた両腕は曲がっていった。
「ぐぬぬぬ…このままでは…アース・ニードル」
この危機を脱出するため魔王は、土魔法アース・ニードルを唱え、ローケンスとマリーナを串刺しにしようとした。
ローケンスとマリーナの足元から土の針が飛び出した。
ローケンスとマリーナの2人は魔法中断し、その場から離れ回避しながら、声を合わせてシリーダに指示した。
「今だ!シリーダ」
「今よ!」
「サンダー・スパーク」
シリーダは、雷拘束魔法サンダー・スパークを発動した。
シリーダが、今まで鞭で乱舞していたのは、魔王に攻撃するだけでなく、周囲の地面に雷拘束魔法サンダー・スパークの魔法陣を刻むためだったのだ。
魔王の足下の魔法陣が輝き、目が眩むほどの光と熱を帯びた電撃が轟音を鳴り響きかせながら迸った。
シリーダにとって、サンダー・スパークは魔法陣を描かなくっても発動できる。
しかし、魔法陣を描くことにより威力と共に範囲も強化されるので今回は描いたのだ。
岩影から、いつでも参戦できる体勢で観戦していた大成は、苦笑いを浮かべていた。
「おいおい、やり過ぎだろ…」
「「……」」
ジャンヌとウルミラは無言だったが、心配した面持ちで成り行きを見守っていた。
魔王がいた場所から、焦げた臭いと煙が立ち上り、周囲はあちらこちらでバチバチとスパークしている。
そんな中、ローケンス、マリーナ、シリーダの3人は負傷したニールの元に集まった。
「拘束できたか?」
「わかりませんわ」
ローケンスに尋ねられて答えたシリーダは、油断せず険しい表情のまま警戒し、いつでも追い打ちができるように鞭に魔力を込め、鞭からはバチバチと青白い電撃を帯びている。
2人の後ろでは、マリーナが、負傷したニールの手を診ていた。
「大丈夫?ニール」
「はいと申したいところですが、正直に申しますと、右手は使い物になりません。まさか、これほどのダメージを受けるとは思っていませんでした。流石、魔王様ですね。しかし、まだ左手や両足などが使えます」
ニールは笑っていたが、その顔は激痛で冷や汗が出ていた。
負傷した手は、皮膚が爛れ腫れており、赤黒く出血していたので、マリーナは自分の袖を破いて、その布でニールの手を巻いた。
「ありがとうございます。マリーナ様」
「お礼を言われるようなことはしてないわ。それに、ここでは十分な手当はできないわね。だから、早くこの戦を終わらせましょう」
「そうですな」
2人は、お互い笑顔を浮かべ、立ち上がり構えた。
煙が風に揺られ2つの人影が見え、魔王の声が響いた。
「流石の私も、今のは危なかった。まさか、これを使う羽目になるとは」
ゆっくりと煙が消え姿が見えた。
魔王は、片膝を地面につき、右手に嵌めていた水晶玉のブレスレットが壊れていた。
ブレスレットは、ついていた水晶玉が地面にコトコトと音をたて落ち前に転がっていた。
水晶が転がった先に、背丈1.8mぐらいで、全身銀色の人型のガーディアンが立っており、右手を伸ばして透明な光の球体で自身と魔王を囲っていた。
そのガーディアンの背中には翼が生えており、まるで天使のように見えた。
ガーディアンを見たマリーナは、訝しげな表情をした。
「あなた、あれは何?見たことがないガーディアンだわ」
「確かに、俺も見たことがない。だが、今は関係ない。所詮はガーディアンだ。先にガーディアンを倒すぞ!お前達」
「「了解!」」
「待て!」
ローケンス達は前屈みになり突撃しようとした時、ガーディアンから嫌な感じがした大成は、岩影から飛び出して、ローケンスの前に立ち憚った。
「大成!」
「大成さん!」
ジャンヌとウルミラが、慌てて大成に駆け寄る。
「グリモア・ブック。……あった。ワルキューレ。ん?ワルキューレといえば、確か半神だったよな?」
気になった大成は、グリモアを召喚し、ガーディアンの情報を調べて、名前を見て訝しげな表情で呟いた。
「「~っ!!」」
大成の呟きが聞こえたローケンス達は、目を大きく開くほど驚愕し固まった。
「そんな……。姫様。なら、あれが……」
「ええ…。おそらく、そうね…。信じられないけど、大成がグリモアで確認したから間違いないわ。本当に実在していたなんて……」
ジャンヌとウルミラは深刻な表情で話をした。
「殺れ、ワルキューレよ」
魔王は、ワルキューレに命令をした瞬間、ワルキューレは目を紅く光らせて両翼を広げ、翼が光輝いた。
「散れっ!!」
何か仕掛けてくると感じた大成は指示した。
「ホーリー・アロー」
大成の指示と同時に、ワルキューレがコンピューターのような抑揚のない声で魔法を唱えた瞬間、羽から光の矢が無数に飛んだ。
「気を付けろ!アレは魔力だけの攻撃ではない。魔力の中に羽根がある。防ぐよりも避けろ!」
瞬時に魔力だけではないと見破った大成は、皆に注意を促した。
「ファイア・ウォ…」
炎の魔法ファイア・ウォールで防ごうとしたジャンヌだったが、大成の忠告で魔法を中断し回避行動に移った。
ファイア・ウォールは、魔法攻撃と物理攻撃の両方を防ぐことはできるが、今回はワルキューレの魔力が高いため羽根自体を燃やしせないと判断したのだ。
「「くっ」」
大成の大声で、全員はどうにか無事に避けることができた。
先程まで、大成達がいた周りは、地面に野球の硬式ボールの大きさの穴が数え切れないほどできており、まるで蜂の巣のように穴だらけになっていた。
「凄まじい威力だ。修羅様が言ってくれなかったら、アース・ウォールを唱えていた。しかし、この威力だと防げず、貫通し殺られていた」
ワルキューレの威力にローケンスは驚いた。
「本当にガーディアンか?魔法が使えるとか、ありえないだろ。ジャンヌ、さっき何か知っている様に見えたけど?」
蜂の巣みたいになったのを見て苦笑いする大成は、隣にいるジャンヌに話し掛けた。
「ほう、良い判断だった。しかし、逃がさんぞ!」
魔王は、地面に突き刺していた剣を取り、大成を追いかけた。
地面に埋まったワルキューレの無数の羽根が、穴から出てきて空中に浮かび、生き物のように大成達を追尾し追いかけた。
「アイス・ミサイル、ファイア・アロー、アース・ミサイル、エア・カッター」
ワルキューレは、4属性の魔法を同時に唱えた。
今度は、ワルキューレ本体から魔法が放たれなかったが、代わりに大成達を追尾している羽根が水色、紅、茶、緑と、それぞれ輝き魔法を放った。
集中放火を防ぐため、大成達は、お互いアイコンタクトして無言で頷き、サポートが出来るぐらいの間隔をとって散らばり、ワルキューレの魔法攻撃回避していく。
ジャンヌは、魔法攻撃を避けながら説明を始める。
「くっ、この世界には、お伽噺があるの。昔、約1000年前、初代魔王は他の種族の王様より圧倒的な力を持っていたの。だけど、ただ1人、竜人の王様だけは、初代魔王と同等の力を持っていたわ。そこで、初代魔王は、種族を気にせず、実力を持っていたら、その人が問題児でも気にせず声をかけて仲間にしていき、ウロボロスという凶悪で巨大な組織を作りあげたの。そして、この世界を征服し支配しようとしたわ。大臣は歪んだ初代魔王の思想に恐怖し、各王国に報せたの。その時代も各国の仲は良いとは決して言えなかった。大臣は信用されず、無視をされたわ。しかし、初代魔王が侵略を始め驚異に曝され、仲が良くなかった各国は手を取り合い、初代魔王を倒すという話。その話にワルキューレが出てくるの。話によると、魔王が自ら創った特別なガーディアン。それがワルキューレ。その力は絶大で、1体1体の力は各国の王様ぐらいの力があり、王直属護衛軍達より強かったと伝えられているほどよ。そこで、護衛軍が数人がかりで1体ずつ倒していったわ。だけど、12体のうち2体は、他のワルキューレとは比べ物にならないほど強く倒せなかった。王様達に手伝って貰おうとしても、その頃、それぞれの王様達は連携して初代魔王とウロボロスメンバーと交戦していて、頼ることもできなかったみたい。そこで、やむ得ず封印という形で無効化したの。そして、王様達は初代魔王を討ち取り、ウロボロスも壊滅させて戦を終わらせたって話」
「なるほど。ジャンヌの話通りだとしたら、その封印した2体のうちの1体が、コイツということか…」
回避しながら大成は、ワルキューレを観察していたが、後ろから追ってくる魔王の魔力が上昇したので、振り向いた。
「逃がさん、エア・カッター」
魔王は、左手を伸ばし風の刃を複数の放った。
大成は木から飛び降り、魔王が放った風の刃を回避したが、地面に着地したと同時に、ワルキューレが放たれていた6発のアイス・ミサイルが飛んできていた。
大成は首を傾け、初弾の氷の矢を回避し、その後、すぐに左に跳び4発の氷の矢を回避に成功した。
しかし、最後の1発は大成が跳んで、空中で方向転換できない状態の時に、狙いすましたかのように心臓部に飛んできていた。
「動くなよ、ジャンヌ」
心臓部に当たりそうな氷の矢を、大成は右手で受け止め、着地したと同時にジャンヌに襲いかかっている土の矢に向かって投擲した。
「わかったわ。あと、おそらくあっているわ。今も、話はお伽噺として受け継がれているけど、1000年も前の話だから、誰も本当にあった出来事だとは思っていないわ。だけど、今、実際に目の前のワルキューレを見たら、もう実話だと信じるしかないわね…」
土の矢が迫ってきているが、ジャンヌは、気にせず溜め息をし、その場から動かなかった。
ジャンヌの横から大成が投擲した氷の矢が飛んできて、迫ってきている土の矢に当たり、軌道を変え、更にそれが別の土の矢に当たっていき連鎖し、迫ってきていた土の矢は全て外れ、ジャンヌに届かなかった。
「ありがとう、大成。助かったわ」
ジャンヌは、とても嬉しそうな表情で感謝した。
「気にしなくって良い。…なるほど。確かに、これは強いな」
動き回りながら、ワルキューレの説明を見た大成は、納得した。
魔法固有名称:ワルキューレ
全属性の複合型で、生け贄が必要。
生け贄にした属性の能力と魔力でワルキューレの強さが決まり、ユニークの能力を1つだけ何かを覚える。
生け贄の中にユニークがいた場合、他の属性が使えなくなるが、ユニークは合計2つになる。
生け贄にユニークを複数いた場合は、ランダムで選ばれ合計3つ以上にはならない。
「ユニークも備わっているのか……。本とか言い伝えでもいい、コイツの能力とか伝えられていないのか?」
「えっと、確か…」
大成の質問に、ジャンヌは言い淀んだ。
「その2体は他のワルキューレより魔力が段違いに高く、金色は魔法は使えませんが身体を色々とトランスでき、銀色は隙が全くなく多くの魔法を放つと記載されてました」
大成を挟んで反対側にいるウルミラがジャンヌの代わりに答えた。
「凄くアバウトだな」
「すみません」
「いや、ウルミラが謝る必要がないと思うけど」
「そ、そうですね。ヤァ!」
大成に指摘されたウルミラは、苦笑いしながら矛に魔力を込め、迫ってきた炎の矢を、避けることができるものは避け、他は矛で迎撃して消し飛ばしていった。
「それに、おかしな点があるわ。お伽噺では2体のワルキューレは、剣に封印されたはずなのに、実際、封印されていたのは水晶玉のブレスレットだったてことよ」
「そうですね、姫様。それに、魔王様の命令を聞いていることにも気になります。初代魔王様なら、わかりますが」
ジャンヌとウルミラは、疑問に思ったことを言った。
「ワルキューレに聞いても、ガーディアンだし無理だしな。魔王を正気に戻したら聞いてみるとするか」
「そうね」
「はい」
大成の意見に、2人は肯定した。
襲ってくる風の刃を避けながら、ローケンスは大成に尋ねる。
「それより、どうしますか?修羅様。このままだと…」
「ああ、そうだな。このままだと魔王を正気に戻す前に、大軍が到着してしまうな。そうなる前に決着をつける。俺は魔王を相手にするから、ローケンス達はワルキューレを頼む。ワルキューレを観察してわかったことがある。ワルキューレは、広範囲に自分の周りが見えるか、もしくは魔力感知がスバ抜けているみたいだから気を付けろ。こうしてバラバラに逃げても1人1人に正確に攻撃できているのが、その証だ。それと、魔王を正気に戻したら、すぐに撤退するぞ。そのあと態勢を1度立て直し、ワルキューレと勇者を倒す。いいな」
大成は回避ながら、ワルキューレを観察していた。
魔人の国の図書館でユニークスキルを記載していた本を読んでいた大成は、ワルキューレがどんなユニークを所持しているか考えて、1つだけ該当するものがあった。
それは、テリトリーというユニークスキル。
自分の周りを完全に把握する能力。
勿論、罠なども察知ができる。
ワルキューレではない者が持っていた場合、戦争や隠密なら大活躍するが、個人戦では、あまり役に立たない。
なぜかというと、ユニークは他の魔法が使えないからである。
魔法陣を使えば、その魔法は使えるが、準備と備えが必要でその状況で合う合わないとかもあるからだ。
大成の読みは合っていた。
「「了解!」」
全員は迷わず、肯定した。
「それより、大成、あなたは怪我をしているけど、大丈夫なの?」
ジャンヌは心配そうな表情で、大成に尋ねた。
「大丈夫だ。ローケンス達のお陰で、出血は止まり傷もある程度癒えた。魔力もサンライズは唱えれるほど回復している。では、頼んだぞ!」
「「ハッ!」」
ローケンス達は、魔法を避けながらワルキューレを囲むようにそれぞれ移動し、大成は前に聳え立つ木に立ち止まった。
「ん!?」
魔王は、逃げ回っていた大成が、突如立ち止まったので、何かあるかもしれないと警戒し立ち止まった。
投稿が遅れや話が進まず、大変申し訳ありません。
仕事が忙しくなったり、不幸事が続いたり、妹が出産するまで、一才の甥を預かったりと色々なことが重なってしまいました。
次回は、初代魔王VS魔王修羅です。
できれば、今から続けて書きたいと思いますので、2~3日後に投稿できればという感じです。
もし、次回作も宜しければご覧頂けたら嬉しいです。
では失礼します。




