合宿1日目と狩りの仕方
合宿があることを知った大成。
合宿先のナドムの森について調べ、合宿当日を待つのみ。
【ラーバス学園・教室】
大成達のクラスメイトは、盛り上がっていた。
「見ろ!俺の剣は、あの有名なメーカー、ブラック・クロスの最新モデル、ブラック・ソードだぜ」
「やるわね。でも、私の武器も負けてないわよ。ブラック・クロス限定の短剣ブラック・ダガーよ」
「「いいな!」」
「「すげぇ!」」
傷1つない新品の武器の自慢の話で盛り上がっていた。
「「おはよう」」
「おはようございます」
「「おはようございます」」
お互いに挨拶した、大成達とクラスメイト達。
一人の女子生徒が、イシリアに歩み寄る。
「ねぇ、イシリアはどんな武器を持ってきたの?もし、良かったら見せて欲しいのだけど」
「別に良いけど。はい、これよ。昔から使っている武器」
女子から聞かれたので、イシリアは自分の武器を渡した。
「「……。」」
皆は、イシリアの武器を見て静まり返った。
その原因は、イシリアの武器は使い込まれていて、傷があちらこちらにあり、しかも、有名なメーカー製でもなかった。
「へぇ~。使い込まれていて、隅々まで手入れがされている。とても、大切にされていることがわかる剣だな。良い武器だ」
大成は、イシリアの剣を眺めて褒めた。
「あ、ありがとう、大成君。お父様とお母様から誕生日プレゼントで頂いた武器なの」
イシリアは、頬を赤く染めてお礼を言った。
大成の言葉で、皆は気付いた。
武器はメーカーや最新モデルだけではないことに。
それから、誰も自分の武器の自慢話をしなくなった。
そこに、開いていたドアからマミューラが入ってきた。
「お前達、おはよう。ん?意外だな。私の予想では、騒いでいると思ったが」
予想では、他のクラス同様に騒いでいると思ったマミューラだったが、クラスは落ち着いていたことに違和感を感じ頭を傾げた。
「「おはようございます」」
「あの、マミューラ先生。そろそろ、グランドに向かわないと」
「あ~、そうだな。お前達、行くぞ」
「「はい」」
大成が進言し、マミューラは頭を掻きながら振り返り、皆はグランドに向かった。
【グランド】
グランドに合宿する教師達と生徒達が集まった。
「それでは、皆さん。揃ったみたいなので、無理せず頑張りなさい」
学園長の演説が終わり、ナドムの森に向かった教師10人と大成達生徒。
結局、生徒は全員参加することになった。
【ナドムの森の手前・ラーバス学園側】
ナドムの森に着いた大成達。
森は広大だが、入り口付近は林みたいな感じで日差しが差し込み、川も穏やかに流れており、合宿するには良い環境だ。
「うぁ、綺麗!」
「そうだね…」
「森って聞いていたから、もっと薄暗い所だと思っていたよ」
「だな」
生徒達は、はしゃいでいた。
「では、一日目は協力しても構わない。だが、森の守り神には近づくなよ。そして、この機会に2日目、3日目のために、食べ物や地形、植物、魔物など視察や狩りをして経験を積むんだ。何かあったら、先生に報告。絶対に無理はするなよ。では、解散!」
マイク先生は、白い歯を見せながら親指を立てて手を前出しウィンクした。
「「はい!」」
明るく大きな声で返事をした生徒達は、各自パーティーになり、我先にと言わんばかりにナドムの森に散らばった。
だが、大成達のクラスだけは、大成とマーケンスのパーティーに集まっていた。
「俺達に魔物の狩り方を教えてくれ」
「教えて、大和君」
クラスメイト達は、大成達に頼んだ。
「いいけど…。その前に狩りをするということを、もう一度考えてから覚悟を決めてからだ」
大成は瞳を閉じて、ゆっくりと見開き、厳しい眼差しで皆を見つめた。
ジャンヌ達も、今さっきと違う雰囲気を出しており、皆は息を呑んだ。
暫く経ち、クラスメイト達の顔が引き締まり、瞳を見れば決意が伝わってくる。
「決意は決まったようね」
ジャンヌは、嬉しそうに口元を緩めた。
マミューラ、教師達は遠くから見守って見て感心した。
「人数が多いから、僕のパーティーとマーケンスのパーティーに分かれて教えるから均等に分かれて」
大成は、マーケンスを見てお互いに頷き合った。
大成達とマーケンス達のパーティーは、左右に分かれて森の中へと入った。
【ナドムの森】
森の中は、他のクラスメイト達が狩りに成功して大声で喜ぶ者と覚悟が足らず、相手が魔物でも殺すことには変わらないことを知り、精神が不安定になる者に分かれていた。
そんな中、大成のクラスメイト達は、その現状を見て覚悟して森に入って良かったと心の底から思った。
大成達は暫く森の中を探索していると、棍棒を持ったゴブリン2匹と遭遇した。
「ゴブリンだな」
大成は武器を持たず、丸腰でゴブリンにゆっくりと歩み寄る。
「「ギィ…」」
ゴブリン2匹は、大成に気付いて襲い掛かかる。
ゴブリン2匹は、同時に手に持っている棍棒を大成に叩きつけたが、大成は真上にジャンプして回避し、空中で右足でゴブリン2匹の頭を蹴り飛ばし倒した。
「ギィ…」
大成は着地して、すぐに倒したゴブリン1匹に接近し、再び右足で首を蹴り飛ばして首の骨を折った。
もう、片方のゴブリンは、空いた手で頭を押さえながら立ち上がった。
大成は、その隙を見逃さずに背後に回り、腕でゴブリンの首を絞めつけて首の骨を折って倒した。
大成は、クラスメイト達に振り返った。
ゴブリンを瞬殺をしなかったのは、クラスメイト達に狩りを見せるためであり、素手で倒したのは武器がなくても倒せるのだと教えるためだった。
「見ての通り、ゴブリンは武器を持っていることが多いが腕は素人だ。だから、冷静に対処すれば何の問題ないはずだ。狩りをするなら冷徹で冷酷になれ、ならなければ自分が死ぬ。そのことを、肝に銘じとくように」
大成は睨みを利かせながら、アドバイスしている途中で左手でポシェットの中からスロー・ダガー2本を取り出し、左後ろに投擲した。
スロー・ダガー2本を投擲した瞬間、突如、茂みから襲ってきたナドム・ウルフという狼の魔物2匹だったが、それぞれの額に一本ずつ突き刺さった。
「「ギャン」」
ナドム・ウルフの鳴き声を発し絶命した。
「それと、目の前の魔物を倒して油断すると死を招く。死にたくなければ、常に周囲に気を付けろ。あと、このナドム・ウルフは、茂みや木の影などに潜んで襲ってくるから気を付けること」
大成は、何もなかったようにアドバイスを再開した。
大成の強さを再度、目の辺りにしたクラスメイト達は、暫く言葉が出ず静になり静寂が訪れた。
「そういうことよ。それと、これからどうするの?皆で固まってパーティーごとに順番で狩りして行く?」
ジャンヌの言葉で、時間が動き出した。
「慣れるまで、その方が良いですね」
「そうね」
「わかった。そうしようか」
ウルミラ、イシリア、大成はジャンヌに賛同した。
「「ありがとうございます」」
クラスメイト達は、順番に本に載っていた魔物を狩りしながら、大成から植物の説明も教えて貰った。
慣れたパーティーは感謝して、散らばり各自で狩りを始めた。
気が付けば、日が暮れ辺りが暗くなり、ようやく大成達以外は誰もいなくなった。
「やっと、皆は狩りに慣れて離れたわね」
イシリアは一息つき、近くの木に座り体を預けた。
「そうわね」
「そうですね」
ジャンヌとウルミラもイシリアの隣に座った。
一方、大成は険しい顔で森の奥を睨んでいた。
「どうしたの?大成。そんな怖い顔をして」
ジャンヌは、警戒している大成が気になっていた。
ウルミラとイシリアも、気になっていたが声を掛けづらかった。
「ああ、皆に狩りを教えていた時、一瞬だったがそっちと向こうの方角から強い魔力を感じた。おそらく、その2匹はランク4以上の魔物だ」
大成は、右手の人差し指を立て方角を指差し、次に親指を立て示した。
「なら、心配はないわ」
「そうですね」
「そうね」
ジャンヌの答えに、ウルミラとイシリアは肯定した。
「ん?」
首を傾げた大成。
「あちらの方角は、この森の守り神とも言われている魔物が住んでいます。こちらから、何もしなければ襲ってきません。もう片方は、ここからでも見えると思いますが、あの巨大な山、デス・マウンテンと言われ、指定ランク4~5の魔物の住みかになってますので、おそらくですがそこの魔物の魔力かと思われます」
ウルミラが丁寧に説明し、ジャンヌとイシリアも頷いた。
「ここは、その山から近いけど大丈夫なのか?」
「問題ないわ。先代の魔王様や幹部のヘルレウスメンバー達が、山の周りに巨大で頑丈な壁で山を囲ったから」
「なるほど」
大成は、イシリアの説明で納得し、集合の合図の狼煙が上がったので大成達は向かった。
【ナドムの森の手前・ラーバス学園側】
皆は、集合場所から狼煙が上がったので集まった。
教師達は、魔物の肉、森の植物や果実で料理を作り、キャンプファイアも作っていた。
教師達と生徒達は、キャンプファイアの周りで料理を食べる者、踊る者などがいて盛り上がった。
そんな中、マーケンス達が狩りの仕方を教えたパーティーも、上手くいったみたいなのでイシリアがホッと胸を降ろした。
木の傍で料理を食べているマーケンスのパーティーを見つけた大成達は、料理を持って歩み寄る。
「マーケンス、皆、お疲れ様」
大成は、疲れきったマーケンス達に声をかけた。
「大和。人に教えることが、こんなに大変だったとは思わなかったぜ。マミューラ先生の気持ちが少し、わかった気がしたぜ。よく、お前はクラスの連中に教えているよな」
疲れきった顔で、マーケンスは溜め息をした。
「「そうね」」
「そうですね」
マーケンスの感想にジャンヌ達は肯定する。
「まぁ、確かにキツイよ。だけど、教えたことが役に立ち喜んで貰うと、僕も嬉しくなるよ」
苦笑いして大成は答えた。
ジャンヌ達は、クラスメイト達を見渡した。
「そうね、悪くないわね」
ジャンヌは疲れてたが、周りを見渡して見ると、皆は明るい表情で会話をしたり、踊ってている姿を見て何だか嬉しくなり自然と微笑んでいた。
ジャンヌの感想に、皆も頷いた。
料理を食べ終えた大成達は、一息していた。
「あ、あの、大成…」
「ん?」
「わ、私と、そ、その…お、踊ってくれないかしら…」
ジャンヌは、恥ずかしそうに頬を赤く染め、大成の顔を見ずに話した。
「ん?別に良いけど。でも、僕は踊り知らないよ」
「あ、ありがとう、大成。踊りは私が教えるわ!」
大成の顔を見て、ジャンヌは微笑んだ。
「……ああ…」
大成は、ジャンヌの笑顔を見てドキッとし釘付けになった。
「その、つ、次、私も良いですか?」
「な、なら、ウルミラの次は、私!」
ウルミラとイシリアも、頬を赤く染めながら早口になった。
「僕で良ければ、良いよ」
「早く行きましょう。大成」
ジャンヌに手を引っ張られながら、大成はウルミラとイシリアに振り向いて了承した。
キャンプファイアに近づく時、大成は少し立ち止まる。
「少しだけ、待ってくれないか?」
「どうしたの?」
「あ、ごめん」
大成が立ち止まり、すぐに動いたので、ジャンヌは少し違和感を感じたが気にしないことにした。
キャンプファイアの手前に着いた2人。
「「よろしく、お願いします」」
大成は、右手を胸に当て左手を後ろに回してお辞儀をした。
ジャンヌは、両手で左右の制服のスカートの裾を軽く摘まみお辞儀をした。
お互い手を握り、もう片方の手は大成はジャンヌの腰に、ジャンヌは大成の肩に置き踊りを始める。
「えっ!?大成、あなた踊れるの!?」
ジャンヌは大成をリードしようとしたが、大成は踊れていたことに驚いた。
「今さっき、チラッとだけど見たからある程度は踊れる」
「はぁ~、フフフ…。相変わらず何でもできるのね。ある意味、恐いわね」
当たり前の様に答える大成に、ジャンヌは溜め息をして笑顔を浮かべた。
「酷い言い草だな」
「だって、本当のことだもの。フフフ…」
大成は苦笑いし、ジャンヌは笑って踊った。
2人の踊りは周りが見とれるほど、優雅で美しい踊りだった。
大成とジャンヌが踊っている間、ウルミラとイシリアは、他の男子から誘われる。
「す、すみません、え、遠慮します。ごめんなさい」
ウルミラは、オドオドしながら断った。
「ありがたいけど、遠慮するわ」
一方、イシリアは何事もなかったような表情で、バサッと全て断っていた。
ジャンヌとの踊りが終わり、大成はウルミラと踊る。
「そんなに緊張しないで、ウルミラ」
「え、えっと、そ、その…」
手を握った瞬間、ウルミラは顔を真っ赤にして緊張した。
「今まで、いろんなことがあったよな。ウルミラ」
「そうですね。いろいろとありましたね、大成さん」
ウルミラの緊張を解すため、今までのこと持ち出した大成。
その甲斐があってウルミラは、次第に落ち着き中盤辺りから自然と笑顔になり踊った。
最後に大成はイシリアと踊る。
「大成君のお陰で私は強くなったわ。だから今度、いつでも良いから手合わせをお願いしたいのだけど」
「合宿が終わってからなら、いつでも良いよ」
自信満々なイシリアに、大成は笑顔で了承した。
「ありがとう大成君。お礼に、その…えっとね…。また、私の家でご馳走するわ」
「マリーナさんの料理、とても美味しかったから嬉しいよ」
「今度は、大成君のために、わ、私も手伝って作るから…」
イシリアは自分で言葉に出した直後から一時の間、顔が真っ赤に染まり伏せたまま、時々、ううぅ~と呻きながら踊った。
最後のイシリアの声が小さくなり、大成は言葉が聞き取れなかった。
大成は気になったが追及せず、2人は楽しく踊る。
近くでは、マーケンスとルネルが踊っていた。
マーケンスは、ぎこちない踊りでルネルの足を踏みそうになり慌てる。
「おっと…。危ねぇっと」
「ウフフ…」
ルネルは、顔を真っ赤に染めて、とても笑顔で幸せそうだった。
そんな2人を、大成とイシリアは躍りながら微笑ましく見ていた。
大成は、イシリアとの踊りが終わった後、クラスの女子だけではく、他のクラスの女子達も目を輝かせて待っており、次々に踊っていく。
ジャンヌ達は、不機嫌な表情で大成を見ていた。
「何よ!デレデレしちゃって!」
「本当ですね」
「大成君って、本当に押しが弱いのね」
「あの、俺と…」
「「今、それどころじゃないのよ!」」
「そうです!」
「はい…」
他の男子達は、懲りずにジャンヌ達を誘うが、ジャンヌ達の気迫に押し負ける。
結局、ジャンヌ達は大成と踊っただけで他は全て断わり、逆に大成は誘われる度に踊り続けて疲れていった。
こうして、キャンプファイアは終わりを告げた。
次回は、合宿といえば、温泉。温泉といえば…という内容です。
次回作は、試験がありますので、7月3日以降となります。
大変、申し訳ありません。




