宿屋と一致団結
合宿1日目、狩りを終え、キャンプファイアで盛り上がった。
【魔人の国・合宿1日目の夜・ナドムの森の入口側・ラーバス学園側】
キャンプファイアが終わり、大成達は川の反対側に建っている宿屋に向かっていた。
「今、思ったけど、宿屋があるところは森から少しだけ離れているだけだから魔物に襲われないのかな?」
「フフフ、大丈夫よ。その心配はないわ。大成」
大成の質問に笑って答えるジャンヌ。
「ん?何で?」
「魔物払いと防御結界の魔法陣の中に建てていますので魔物は寄り付きませんし、攻撃されても指定ランク3以下の魔物の攻撃は無効できますので大丈夫ですよ。指定ランク4以上が近づくと警報が鳴る様になっています」
首を傾げる大成に、ウルミラは説明した。
「そうなんだ。よっと…」
興味が湧いた大成は、ジャンプして近くの木に登って額に手を当てながら目を細めて遠くの宿屋を見た。
「あ~、なるほど。水路が魔法陣になっているのか。ということは、魔法陣を発動するために魔力を使っている使用人がいるのかな?あまり使われないのに維持が大変だな…」
木の上から見ると、小さく見える宿屋の周りに水路が彫られており水路の形が巨大な魔法陣になっていた。
「違うわ、大成。まぁ、着いたらわかるわ」
「ですね」
「そうね」
ジャンヌ、ウルミラ、イシリアは、それ以上のことは説明をしなかった。
気になった大成だったが、話に触れずに木から飛び降りた。
それから暫く歩き、大成達は宿屋にの入口に着いた。
【ナドムの森の入口側・宿屋】
宿屋の門は巨大で強固な門が取り付けられており、門を潜り抜けると道は煉瓦で舗装され、水路の周りには花壇があり花が咲いていた。
「きゃ~、見て見て!水蘭花よ」
「珍しいね。水が澄んだ場所にしか咲かない花なのに。こっちにも珍しい花があるよ。ミルキ花よ」
女子達は、花壇の近くに行き屈み。
花の薫りを嗅いだり、観察したりして、桃色の雰囲気を醸し出していた。
そんな女子達を見て、鼻の下が伸びる男子達。
(へぇ、水路には浄化の魔法陣も描かれているんだ。だから、水が綺麗なんだな。それにしても、何だかデートスポットみたいだな。魔王って、意外にもロマンチストだったのかな?)
大成は、辺りを見渡して疑問に思った。
そして、先に進むと噴水が見えて来て宿屋の前に辿り着いた大成達。
「これは…」
大成達は、建物を見て驚きのあまりに呆然と立ち尽くした。
「宿屋ですよ、大成さん」
大成の隣を歩いていたウルミラが苦笑いした。
何度か来たことのあるジャンヌ、ウルミラ、イシリア、マーケンス以外の生徒達は、宿屋を見て未だに立ち尽くしている。
なぜなら、宿屋はお伽噺からそのまま出てきた様なお菓子の家。
いや、大きさからしてお菓子の屋敷だった。
「ウルミラ、建物を触っても良いかな?」
「はい、どうぞ。お好きなだけ触って下さい」
ウルミラの許可を得たので大成とクラスメイト達は、そーっと優しく宿屋を触ってみる。
「やはり、本物じゃないんだな」
「当たり前でしょう、大成」
ジャンヌは、呆れながら溜め息をした。
「この宿屋は幼い頃に姫様と私でお遊びで描いた絵を先代の魔王様がお気に召したらしく実際に建てて頂きました」
「私もマーケンスも、幼い頃にここに初めて来た時は、皆と同じように驚いたわ」
苦笑いするウルミラと、幼い頃を思い出したイシリアは笑顔を浮かべた。
「なるほど。だからか、庭がお洒落だったことといい宿屋といい。しかし、凄いな。発想もだけど、間近で見ても本物みたいだよ」
「だな」
壁を触りながら大成は感心するとマーケンスが同意し、生徒達は騒ぎ立つ。
「「フフフ…」」
皆の反応が嬉しかったジャンヌとウルミラは、お互いの顔を見て笑顔を浮かべた。
「おい!お前達、よく聞け!早速だが、宿屋のルールを教える」
マミューラは、大きな声を出して注目を集めて生徒達の前に出た。
「屋上にある巨大な魔鉱石には触れるなよ。あれが、ここの魔法陣を維持しているからな。それと、お前達から見て右の棟は男子、左の棟は女子だ。各クラスに部屋が用意されているから、そこに荷物を置いて風呂に入って疲れをとるといい。風呂は一階の中央の奥にある。入浴は混雑しないように、時刻を書いてあるプレートを用意している。プレートは、各部屋のドアノブに掛けてあるからなチェックしとけよ。あ~、それと、男子は左の棟は立ち入り禁止だ。もし、破ったら死刑だからな。覚悟しとくように!」
最後に威圧感を出したマミューラは、男子達を睨みつけた。
「~っ!!は、はい!」
男子達は、マミューラの威圧感に怯えて息を呑みながら背筋を伸ばして返事をした。
「フッ、わかればよし!」
マミューラは、男子生徒達を見て口元をニヤっとしながら満足そうな表情をして先に宿屋に入る。
皆は、マミューラに続き宿屋の内装を見ながら続々と入った。
【宿屋・男子部屋】
2階に上がり、ドアノブに2組と書かれたプレートが掛けられている部屋をマーケンスが発見した。
「おっ!俺達の部屋はここだな」
先頭のマーケンスがプレートを取り外して扉を開け部屋に入ると中は広い部屋に布団が敷かれており、それ以外は何も置かれていなかった。
「マーケンス、俺達の入浴時間は何時からになってる?」
「あ、悪い、えっと21時だな。この時間帯だと、俺達は最後だな」
取り外したプレートの裏を見たマーケンス。
大成の髪のこともあり、ジャンヌ、ウルミラ、イシリアが入浴の順番を最後にして欲しいとマミューラに頼んでいたのだ。
皆は荷物を置き、寝る場所を決めた。
(あっ、ヤバイな…。ラナミの実を持ってくるのを忘れていたな。森の中にあったから、急いで採ってくるか…)
大成は、リュックの中からタオルや下着を出して入浴の準備していたら髪を染めるラナミの実を持ってきてないことに気付いて悩んでいた。
そんな時…。
「なぁ、皆に聞いて欲しいことがある。お前達は、このまま合宿1日目が終わって良いと思うか?」
突然、マルチスが大きな声を出して注目を集める。
「ん?いや、もう風呂に入って寝るだけだろ?まぁ、あとはトランプとかして遊ぶとか?」
「だよな」
大成が答え、隣で準備しているマーケンスが大成に肯定した。
マルチスは、自分の大きなリュックからプリント取り出して皆に配っていく。
「なんて、無駄な物を持ってきているんだ…」
大成は呆れると皆も同意した。
皆はマルチスがやたら大きなリュックを背負っていたので、てっきり、武器など必要な物だと思っていた。
「無駄な物ではないですよ、師匠。それより、まず配ったプリントを見る前に俺の話を聞いてくれ。これから始まる合宿の最大の問題を解決するために、俺は合宿があることを知った日から一生懸命に考えた。その作戦を、このプリントに書いた。しかし、この作戦は俺一人では成功しない。だから、皆の力を貸して欲しい。それじゃあ、プリントを見てくれ」
マルチスの演説が終わり、大成達は渡されたプリントに目を通して驚愕した。
「女湯覗き大作戦~皆は一人のために一人は皆のために!!って何だ?これは…」
マーケンスが訝しげな表情で呟いた。
「入浴と言えば覗きだろう。なぁ、皆!」
「「わかっているじゃないか、マルチス」」
「「そうだ!」」
「「だな!」」
マルチスの掛け声に賛同する男子達は、いつの間にか悪どい表情に変わっていた。
「これは、流石に止めといた方が良いよ。もし、バレたら大変なことになるよ絶対に!」
「俺も大和の言う通りだと思うぞ」
大成とマーケンスが、止めようとしたが…。
「しかし、問題がある。男湯と女湯の境の壁は、ご存知の通り、魔力値4以下の攻撃だと傷すらつけれないほど強固な壁だ」
マルチスは、大成とマーケンスを無視して話を先に進めた。
「そうだった…」
「くっそー!」
悲しい表情する者、涙を流し腕で拭う者など、悲痛に浸る男子達。
「だが、案ずることはない。プリントにも書いてあるが、俺達にはそれを打開できる人物と作戦をより安全に成功させてくれる人物がいる」
マルチスは、大成とマーケンスに振り向いて真剣な表情で2人に歩み寄る。
「頼む!師匠、マーケンス。俺達を楽園に連れて行ってくれ」
マルチスは、大成とマーケンスの肩に手を置いて真剣な眼差しで大成とマーケンスの目を見て強く頷く。
「「頼む!」」
皆は、一斉に土下座をした。
「こんなくだらないことのために、俺が協力すると思っているのか?マルチス」
マーケンスは、呆れて溜め息する。
「くだらないことだと!マーケンス、よく考えてみろ。俺達は、まだ子供だ。もし、バレても怒られるだけだ。今回のチャンスをものにしようと思わないのか?運良く、女子側に何か事件が起こって裸を見れるというラッキースケベなんてほぼ0なんだ。だから、自分達で行動し、自分達の手で栄光を掴むしかないんだ。しかも、うちのクラスの女子はスタイルが良く、レベルが高い。まとめて拝めることなんて滅多にない。それでも、行動を起こさない男は本当に息子がついているのか?今回、共に行動して色々と共に大きく成長しようぜ。さぁ、真の男達よ、立ち上がれ!そして、共にこの手に栄光を掴もうじゃないか?」
「マルチスの言う通りだ!」
「「そうだ!」」
「ああ、マルチスのお陰で目が覚めたぜ。お前に、ついて行くぜ!どこまでも!」
「「俺達もさ!」」
マルチスの演説に、大成とマーケンス以外の男子達は盛り上がった。
「お前ら、馬鹿か?冷静になって、目を覚ませ」
マーケンスは呆れていた。
「こう言ったら悪いが、マーケンスが好きなジャンヌ様は、おそらくだが修羅様と結婚するだろう。 そのことは、マーケンスお前もわかっているはずだ。ならば、せめて裸を見たくはないのか?せっかくの、この大きなチャンスを不意にするのか?」
マルチスは、両手でマーケンスの肩に置いて力強い眼差しでマーケンスの目を見る。
「うっ…。し、しかし…」
「マーケンス、知っているか?バレなければ大丈夫という素晴らしい言葉がある。そして、この作戦を更に、より安全に考えてくれる師匠がいる」
言い淀むマーケンスに追い打ちをするマルチスは、大成の方に顔を向けて笑顔で頷く。
「おい…。先に言っておくけど、僕は手伝わないから」
(ん?3人か…。気配を消して、こっちに誰か来るな。気配の消し方でわかるけど、かなりの腕前だな)
大成は即答で答えると同時に、誰かが近づいて来ていることに気付いた。
「俺達には、どうしてもマーケンスと師匠の力が必要なんだ。バレなければ大丈夫なんだ!だって、相手は知らないんだから」
マルチスは真面目な表情をしてマーケンスの肩に置いている両手に更に力を入れる。
「……そうだな。見つからなければ問題ないか…。わかった、俺に任せろ!」
「流石、マーケンス」
女の子に興味が出る年頃のマーケンスは誘惑に負け、両手でマルチスと握手をして2人の間に強い絆が生まれた瞬間だった。
そして、今度はマーケンスの隣にいる大成に狙いを定めたマルチスは、大成の肩に両手を置いた。
「マーケンスに言った通り、バレなければ大丈夫です師匠。師匠が参加し、この作戦を更により安全に計画すれば100%上手くいきます!さぁ、俺達と一緒に楽園に行きましょう!」
マルチスは、大成も断ることはないと思った。
「はぁ、君達は重大なこと忘れているぞ。君達は、子供で魔人族だから見つかっても怒られるだけで済むけど。僕は同じ子供でも人間だ。見つかった場合は怒られるだけではすまされないだろ?」
大成は、溜め息しながら説明をした。
現在、人間と魔人の関係は最悪の状態なので皆はハッと気付いて押し黙る。
「す、すみません。師匠…」
「「大和っ、すまねぇ」」
「別に構わないよ、そもそも覗きする気はないからね」
周りから憐れむような視線を受けた大成は、苦笑いして答えた。
「ですが、師匠お願いです。俺達のために、作戦を考えて下さい」
「「お願いします」」
「俺からも頼む、大和」
マルチスと他の全員は再び土下座し、マーケンスは頭だけ下げた。
まるで、何処かの宗教の宗教様を称えているみたいな光景だった。
「………はぁ~、仕方ない。作戦ではないけど、僕の世界…。いや、家訓みたいなのを教えるよ。あとは、自分達で相談して考えて」
やれやれといった感じに大成は、深い溜め息をした。
「わかった、大和。それだけでも助かる」
「ありがとう、師匠!」
「「神様!ありがとうございます!」」
男子達は、神の神託を聞くような真剣な表情で大成を見つめた。
「頼むから、神様は止めて欲しい。じゃあ、教えるよ。僕の家訓に風林火山と言って、疾きこと風の如く、徐かなること林の如く、侵掠すること火の如く、動かざること山の如し。意味は戦いにおける4つの心構えのことで、わかりやすく言うと風のように素早く動いたり、林のように静かに構えたり、火のような激しい勢いで侵略したり、山のようにどっしりと構えて動かない心。その状況に応じて対応をすることを意味するんだ」
たまたま、頭に浮かんだことを教える大成。
「「なるほど」」
マーケンス達は頷いた。
(もう、すぐ傍まで来ている…。一体誰なんだろう?)
クラスメイト達が真剣に覗きの作戦を考えている中、大成は気になり立ち上がった。
「何処に行くんだ?大和」
大成に気付いたマーケンスは、訝しげな表情で尋ねた。
「ちょっと、トイレに行ってくる」
「そうか」
マーケンスは納得して、作戦会議を始めているマルチス達に振り返りながら真面目に話し合いに参加する。
大成は、部屋を出るとドアのすぐ傍にジャンヌ、ウルミラ、イシリアの3人がいた。
「2人から聞いていたけど。本当に気付くとは思っていなかったわ。完全に気配を消していたつもりだったのだけど…」
「流石、大成ね。でも、良かったわ。わざわざ呼ばないで済んだわ」
「流石です。大成さん」
気付かれるとは思ってなかったイシリアは驚き、ジャンヌとウルミラは感心した。
現に大成以外、マーケンスを含む男子達は未だに気付かないでいる。
「ところで、僕に何か用事でもあった?」
「あの、大成さん。もし良ければ、これをどうぞ」
ウルミラは、持っていた小さい可愛い柄の袋を大成に渡した。
「ん?」
「中身はラナミの実です」
大成は、ウルミラから袋を受け取って開けてみると袋の中にはラナミが7個入っていた。
「ありがとう、本当に助かったよ。実は持ってくるのを忘れていたんだ。だから、今から森に取りに行こうかなっと思っていたところだったんだ」
「大成、あなたねぇ…」
「はぁ…」
「良かったです」
ジャンヌとイシリアは呆れ溜め息をし、ウルミラは笑顔を浮かべた。
その時だった。
男子部屋から男子達の声が聞こえてきた。
マーケンス達は、ジャンヌ達がすぐ傍まで来ていることに気付かずに作戦の打ち合わせに興奮して熱が入っており声が次第に大きくなっていた。
「これで、どうだ?」
風林火山のことを大成から聞いて、大幅に作戦を変えたマルチス達。
「マルチスが考えたとは思えないほどだ。これなら、イケる。なぁ、マーケンスは、どう思う?」
マルスは感心して隣に座っているマーケンスに尋ねた。
「ああ、これなら大丈夫そうだな」
マーケンスは、満足そうに頷いた。
「師匠は無理だったが、俺達には最強の矛であるマーケンスがいる!よし、意思団結の決意の掛け声をマーケンスに頼むが皆は良いか?」
「「問題ない!」」
マルチスの意見に賛同した男子達は、国歌斉唱の様に一斉に立ち上がり瞳には力強い意思を宿らせて右手を左胸に当てる。
「おい…。まさか、これを言うのか…」
「そうだ、マーケンス」
2枚目のプリントを見たマーケンスはたじろぐ。
マーケンスは、マルチスに腕を引っ張られて立ち上がると背中を押されて皆の前に出た。
マーケンスは、周りの瞳に宿った力強い意志と真剣な面持ちをした男子達を見て覚悟を決めた。
「覗きはバレなかったら」
「「Justice(正義)」」
「本能のまま行動することは」
「「Freedom(自由)」」
「俺達は、この日を待っていた」
「「Change has com(変革の時が来た)」」
「俺達は、この大戦に勝利し、大きく成長するだろう」
「「Defining moment(決定的瞬間)」」
「必ず成功する」
「「Yes,we can(俺達はできる)」」
「この手に栄光を」
「「God bless ours(神よ俺達に祝福を)」」
「「オオォ!!」」
男子達は、盛大に盛り上がった。
部屋の外では…。
大成は、いつの間にか3人に包囲されていた。
「ちょっと良いかしら?大成」
「~っ!!はい…」
背筋が凍りつくような冷たいジャンヌの声と3人の笑顔を見てゾッとした。
大成の顔は、まるで血を抜かれていくように青くなっていった。
そして、入浴時間10分前、時は来た。
「よし、気合い入れていくぞ!お前ら!」
「「オオォ!!」」
いつの間にかに完全にやる気になったマーケンスの掛け声で男子達は一斉に立ち上がり、浴衣の襟をグッと正して身を引き締めた。
男子達の瞳には強い意志が宿っており、マーケンスに賛同する。
そして、マーケンスを筆頭に男子達、いや、男達は、いざ出陣した!
ただ、作戦がジャンヌ達に丸聞こえだったことを知らずに…。
次回は、入浴です。
覗きは犯罪ですので、絶対にマネはしないで下さい。
国家試験は、自己採点した結果どうにか合格していそうです。
玄関、車庫が浸水したりして、投稿が遅れたり、話が進展せず、大変申し訳ありません。
次回作は、できれば明日中に、遅くとも水曜日には投稿できるかと思いますので、もし、宜しければ御覧ください。




