村奪還と物好き
ジャンヌ達の戦闘が終わり、村の中へと進んだ。
【ナイディカ村・中央】
大成とバルダーは、お互い睨み合っている。
「小僧、魔力がないのに強いな。殺すには惜しい。どうだ、俺の部下にならないか?待遇を良くしてやるぞ」
バルダーは、構えを解き睨むのをやめ、右手を前に出して大成を勧誘した。
「先も言っただろう。仲間を平気で殺す奴とは気が合わないと。仲間になるのも、仲間にするのも御免だ」
態度を変えず大成は迷いなく断った。
「ダハハハ…。そうか…なら、仕方ない。惜しいが死ねぇ~、小僧!」
バルダーは、一度笑い前に出していた手を下ろし、目を見開いて殺気を放った。
そして、バルダーは両手で斧を持ち、再び大成に接近して上から振り下ろす。
「俺を殺したいなら、もっと鍛えてこい」
体を横に向けて、避けながら大成は話した。
「嘗めるな!」
今度は、バルダーは横に凪ぎ払う。
大成はしゃがんで回避し、バルダーの顎に右拳のアッパーを入れた。
「ぐっ…。くっ、クソ!」
バルダーは怯み数歩下がり、口の中を切り血が垂れた。
手で口元の血を拭ったバルダーは、顔を真っ赤にして大成に斧を投げつけた。
「なるほど。少しは考えたな」
勢いよく飛んでくる斧だったが、これも大成は左へ一歩移動して避けた。
だが、目の前にはバルダーが両手を上げ接近していた。
バルダーは、重い斧だと大成に当たらないと悟り、組み手に持ち込もうと考えた。
だが、それも大成の予想の範疇だった。
焦らず、大成は相対した。
「オオオ…」
バルダーは手を伸ばし大成を掴もうとしたが、大成は体を左右に傾けながら後ろに下がったりして避けていく。
そして、隙あれば殴ったり蹴りを入れたりするが、大したダメージを与えられない。
「うごっ、この糞ガキ!」
血が昇っているバルダーは冷静さが欠けているので、大成は簡単に対処している。
(魔力なしでも、隊長達には結構なダメージを与えていたが、腐っても総隊長ということか)
色々試して様子を見ながら、大成は観察していった。
「ハァ~。しかし、お前も力任せで基礎ができていない」
(この世界には、魔法があるから武術のレベルが低いのか?)
溜め息をしながら大成は、バルダーの拳や蹴りを避ける。
「チッ、何とでも言え!小僧こそ、大した攻撃もできないで、ちょこまかと避けることしか、できない奴が勝てるわけがなかろう」
攻撃をことごとく避けられ反撃を貰っているバルダーは、苛立ちながら攻撃を続け、大成のスタミナが切れるのを狙うことにした。
大成は、体を傾け回避している時、建物の影からジャンヌが現れた。
「何、遊んでいるのよ大成。戦う気がないなら、あなたの代わりに、私が倒すわよ」
ジャンヌの言葉を聞いて、大成は苦笑いした。
「ごめんジャンヌ。わかったよ。もう少し、真面目に戦うよ」
大成は、魔力と威圧感を解き放ち身体強化をした。
「な、な、何だ、この魔力は!?ば、化け物め!」
大成の膨大な魔力を解放した直後、バルダーは何もされていないかったが、押し付けられている感じがして体が重くなり、身体の全ての毛穴から冷や汗をかきながら震え怯んだ。
「おい、さっきまでの威勢はどうした?そう、怯えるなよ。そうだ、お前の自慢な力比べでもするか?」
言葉使いと表情が変わった大成は、フッと思い出し提案した。
「ワ、ワハハハ…。お前は、やはり子供だな。良いだろう」
大成の提案は、バルダーが望んでいた力勝負になりニヤついた。
確かに身体強化は魔力が強い方が良い。
しかし、元の力が弱ければ大して怖くはない。
相手は子供だ。
負けるはずがないと思ったバルダーだった。
確かに普通の子供ならそうかも知れないが、大成は幼い頃から鍛えてきた。
それを、知るはずもないバルダー。
そんな、バルダーにとって予想外なことが起きる。
無表情の大成と笑顔を見せるバルダーは、お互い両手を前に出し握りしめ力比べをした。
「馬鹿め!貴様は知らなかったみたいだな。身体強化は魔法と違い、どんなに魔力が高いでも決して強いとは言い切れないのだ。元の力が弱ければ大して恐くないぞ!」
取っ組み合いをした直後、バルダーは笑顔で説明をする。
しかし、笑っているバルダーの表情が、徐々に驚きと焦りに変わる。
バルダーは、先程から全力を出しており、大成を押して建物に激突させようとしても、投げ飛ばそうと思っても、手を握り潰そうと力を込めても全く微動だにしない。
「もう、気が済んだか?総隊長さん。悪いが、そろそろ決着つけないとお姫様がお怒りになっているからな。無いのなら、こっちから行かせて貰う」
面倒くさい様な表情の大成は、徐々に力を込めた。
「な、何だと!うっ、糞が~!」
バルダーは、合わせている両手を締め付けられ力を込めて対抗するが、万力のように確実にじわじわと握り潰されていく。
そして、大成はバルダーの両手を握りつぶした。
「ぎゃ~!ガハッ、ぐはっ…」
そのまま前に押していき、村の人が作った大成の等身大の銅像にぶつけ、最後に投げて地面に叩きつけた。
先程バルダーがやろうとしたことを大成は逆にしたのだ。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
バルダーは激痛のあまりに過呼吸に陥り、その場に蹲って潰れた両手を胸元で押さえた。
「ここでしたか、姫様」
「あっ、居たダーリン」
「やっと、見つけたわ大成君」
「ここに居たのかイシリア。探したぞ」
ウルミラ、マキネ、イシリア、ローケンスが集まり、全員が揃った。
「遅くなって、すまない。でも、こいつが総隊長らしいから後で話を聞いてみよう」
大成は、ジャンヌ達の方を振り向き、右手の親指を立て背後で蹲っているバルダーを指をさした。
「ぐっ、うっ…。お、俺の部下達が全員殺られただと!?こ、こんなことあって…たまるか!死ねぇ!」
蹲っていたバルダーは、握り潰された両手で近くに落ちていた自分の斧を両手で取り、そのまま助走をつけて大成に斬りかかる。
大成は、避ける気配がなく右手を前に出した。
振り下ろされる斧を受け止め、握り潰して破壊した。
「う、嘘だろ!まっ、待ってくれ!俺の部下になったら、俺と同等の地位を与えてやる!い、いや、俺がお前の部下になっても良いぞ!だ、だから…」
目の前の出来事にバルダーは怯み命乞いをした。
「もう少し、強めでも良かったか…。あと、先程から言っているだろう。仲間を平気で殺す奴の仲間になるのも仲間にするのもお断りだ!」
大成は、容赦なく左手でバルダーの顔を殴った。
「ぐっ…ぁ…」
バルダーは、地面をバウンドしながら吹っ飛び気絶をした。
「大成、あなたねぇ。もう少し手加減しなさいよ。あの人、気絶したじゃない。どうするのよ」
ジト目でジャンヌは大成を睨んだ。
「アハハハ…。ごめん」
大成は、魔力と威圧感が抑え普段通りに戻り苦笑いした。
とりあえず、バルダーを拘束して村人達を警護している騎士団を呼びに行った。
半数の騎士団に来て貰い、ラゴゥバルサの兵士達も拘束し1ヶ所に集めた。
「グリモア・ブック、アクア」
大成は、水魔法アクアを唱え発動し、バケツぐらいの水を出してバルダーの顔に流す。
「うっ…」
目を覚ましたバルダーは頭を左右に振った。
「おはよう総隊長さん」
大成は腰を落として、バルダーの目線の高さに合わした。
「こ、こ、この化け物め!魔人ではない理由よりも、こんな化け物が魔人の国の魔王になったら破滅する。魔王に相応しいのは兄貴だ!お前みたいな化け物は、殺されて死ぬべきだ!」
恨めしそうに大成を睨むバルダー。
大成は、すぐに右手を横に出した。
「「~っ!!」」
大成以外は、怒り殺気を込めバルダーを睨み付けた。
大成が止めるのが少しでも遅ければ、攻撃をしていたほど皆は激怒していた。
本当は飛び掛かり文句の1つぐらい言いたかったが、大成が止めたので睨み付けるだけに踏みとどまった。
「まぁ、お前の言いたいこともわかる。確かに魔人ではない俺が、魔人の国の魔王になるのはおかしいし、気に入らないと思うのもわかる。だが、仲間を平気で殺す奴や認める奴よりも、まともだと思うけどな」
大成は、バルダーの胸ぐらを掴み、気絶しない程度の殺気を込め睨み付けた。
「くっ…」
恐怖でバルダーの顔は青くなり、身体を震わせながら怯んだ。
周りの皆も、息を呑むほどだった。
「それより、本題だ。正直に答えたら、お前達を無事に解放しよう。だが、わかっているとは思うが嘘ついた瞬間…殺す。良いな?では、1つ目、お前達は資源の為に襲ってきた。ラーバスを選んだ理由は、魔王が倒され、ヘルレウスメンバーも大半を失って衰弱している今なら落とせると思ったからで合っているか?答えろ」
大成は、睨んだまま質問した。
大成は、一瞬も目を離さずにバルダーの顔を窺っている。
「ああ…。合っている…」
バルダーは、大成の瞳を見た瞬間、嘘をついたら見破られると直感的に感じた。
仕方なく、バルダーは渋々頷いた。
「次だ。2つ目、奇襲をかけたのはラーバスだけか?」
「いや、俺がラーバスを狙う前に2国を襲った。あと、俺以外の他の隊長達も他の国を襲っているはずだ」
「そうか。では3つ目、襲って資源を奪うだけか?」
「……。」
「どうした?答えろ」
バルダーが無言になったので、大成は問い詰める。
「い、いや…男は奴隷にし、良い女は…玩具にしている。だが、と、時々だぞ!ぐぁっ…ぐっ…うっ…」
バルダーは、恐る恐る答えた瞬間、大成に殴られ鼻が潰れた。
「4つ目だ。強い奴は勧誘しているのか?」
「も、勿論だ。軍事に力を入れるのが目的だからな。」
「5つ目、最後の質問だ。ラゴゥバルサには民はいるのか?」
「な、なぜそんな事を聞く?」
「お前には関係ない。お前は、さっさと答えれば良いんだ」
大成は、バルダーを睨み付け殺気を放った。
「ぐ、ぐ、軍事に力を入れたら居なくなった。だから、資源を求めて襲っている」
怯えながらバルダーは答える。
「なら、居ないのだな?」
「ああ…」
素直に答えたバルダーは声が煩った。
「そうか。もう、十分だ。約束通りに、お前達を解放しよう」
大成は、放っていた殺気を消し明るい声で言った。
「「えっ!?」」
大成の言葉にジャンヌ達、いやバルダー達も驚き固まった。
バルダー達は、大成の話を信じるしかなかったが、心の隅では嘘かも知れないと思っていた。
だが、大成は素直に解放しようとしている。
「ん?どうした?早く解放してやれ」
「本当に、宜しいのでしょうか?」
騎士団の1人が尋ねてローケンスを見る。
「俺は約束は守る。それとも、俺を嘘つきにしたいのか?」
「い、いえ…。決して、そんなつもりは…」
大成に問い詰められる騎士は焦った。
「解放してやれ」
ローケンスは、渋々といった感じで了承する。
「わ、わかりました」
騎士団は拘束を外していった。
バルダー達は、唖然とした顔で村から出て行った。
「で、大成。なぜ、賠償金も求めなかったの?それに、あなたはこれからどうするつもりなの?」
ジャンヌはジト目で大成を睨み、他の皆も困惑していた。
「ラゴゥバルサは、資源がないから他国を襲っているほどだぞ。賠償金なんて無理だろう。だが、民も居ないみたいだし、ラーバスだけでなく他の国も襲っているみたいだからな。襲われる覚悟も当然あるはずだろう?あと、村の人達に村を奪還したので戻って来ても大丈夫だと伝えといてくれ」
大成は微笑んでいたが、その瞳は輝きを失っており冷たく、深い闇と同じで見ていると吸い込まれそうだった。
大成の顔を見た者は、全員が背筋がゾッとした。
「や、やり返すのね…」
大成の瞳を見たジャンヌは怯みながら尋ねる。
「ああ…。ラーバスだけ狙っただけなら、今回で反省すれば徹底的に潰すつもりはなかったが」
大成を止める者は誰も居なかった。
いや、「止めた方が良いです」と言葉を出せないほどの空気が流れていた。
「ま、まさかとは思いますが…。大成さん、お1人で行くつもりですか?」
大成を心配したウルミラは尋ねた。
「そのつもりだ。今回の原因は、俺にもある。強さを周りに知らしめていなかった。今回は、報復のついでに良い機会だ。そう思わないか?」
否定はせず大成はうっすらと口元を歪め頷いた。
大成の顔を見た誰もが息を呑んだ。
「え、ええ…。確かにそうね。大成、あなたなら大丈夫とは思うけど…」
ジャンヌもウルミラと同様に心配している顔だった。
「大丈夫。問題ない。そこにいるんだろうシリーダ、ニール」
大成は、後ろに振り向いて心強い声音で答えた後、シリーダとニールの名を呼んだ。
「「えっ!?」」
大成の言葉で、皆は大成が向いている方角を見た。
夜で、はっきりとは見えないが、建物の影から2つの人影が歩んで来る。
「流石、修羅様とローケンス様。お気付きになっていたとは。ですが、修羅様といえど流石に心配です。我々もついていきます」
屋敷にいるはずのニール、シリーダだった。
結局、ヘルレウス全員が集まった。
「ハァ~。別に構わないが手を出すなよ。今回は、俺の強さの証明するためでもあるからな」
大成は頭を掻き、溜め息をついた。
「「わかったわ」」
「「わかりました」」
「「了解!」」
この場に居る全員が行くことになった。
皆、片膝を地面につき敬礼した。
「おいおい…。まさか、全員とはな…。念のために、この村を警護する100人を決めてここを守れ!」
ついてきても見るだけなのに、物好きな奴らだなと大成は思い、呆れた。
「了解」
ローケンスは、あっという間に警護する100人を決め、ナイディカの村人達が村に戻る前に、大成達はラゴゥバルサへと向かった。
次回、大成が修羅になり、ラゴゥバルサ国を一人で潰します。




