ウルミラと試練は続く
イシリアとの闘いが終わったのだが、終わり方が事故でキスで締めくくってしまい…
【ラーバス学園・グランド】
「ウフフ…。大成さん覚悟は出来てますか?もちろん、降参はなしですよ」
目が居座り、真っ黒に染まった様な感じのウルミラ。
「アハハハ…」
大成は、顔を引きつりながら苦笑いした。
「「……。」」
大成だけでなく、他の皆もウルミラの表情を見て寒気がするほどだった。
今まで一緒にいたクラスメイトも担任のマミューラすら、今のウルミラを見たことがなかった。
「ちょ、ちょっと、トイレに行ってきます」
大成は、マミューラにトイレの場所と聞きたいことを聞いてトイレに向かった。
数分後、大成は戻って来た。
「フッ、準備は良いか?」
大成の手元を見て、マミューラは笑った。
「私は、いつでも構いませんマミューラ先生。大成さんもですよね」
「ハ、ハイ」
大成に向けるウルミラの笑顔は、大成が片言になるほど十分な威圧感があった。
大成とウルミラの2人は棍棒を選んでいた。
マミューラは、大成とウルミラを見て確認した。
「よし、では試合開始!」
開始直後に、大成とウルミラは身体強化をした。
「アイス・ミサイル・ニードル」
ウルミラが先制で氷魔法、アイス・ミサイル・ニードルを唱え発動し、ウルミラの頭上に27本の氷の矢を召喚した。
氷の矢は見掛けは普通のアイス・ミサイルと変わらない。
そして、雨のように降り注ぐように、大成を襲った。
大成は横に走り、次々に斜め上から降り注ぐ氷の矢を回避していく。
外れた氷の矢は、地面に突き刺さった。
普通のアイス・ミサイルは、そこで終わるのだが、アイス・ミサイル・ニードルは、地面に突き刺さった瞬間、そこから、針のように伸びた。
「くっ」
大成は、避けた氷の矢が後ろから、針のように伸びた攻撃も避けていく。
死と隣り合わせだが、その緊張感で段々とテンションが上がっていき、集中力が高まる大成。
大成は、もっと刺激が欲しくなり、走る方向を変え、ウルミラに真っ正面から挑んだ。
「えっ!?ア、アイス・ミサイル・ニードル」
ウルミラは、自分の隙を大成が狙ってくると思っていたが、まさか大成自らが向かってくるとは思いもせず驚いた。
未だに、大成の強さは不明なので、油断せずに再びアイス・ミサイル・ニードルを唱え、攻撃を続行した。
距離が近づくにつれて、大成は回避が困難になり、制服が破れ掠り傷を負っていく。
そして、大成は棍棒に銃弾みたいな回転をかけ、ウルミラに向けて投げた。
ウルミラは、何かあると思い避けようとしたが、空中で棍棒が軌道が変わった。
大成の棍棒には、ピアノ線が括りつけており、ピアノ線を引っ張って軌道をずらしたのだ。
「っ!?」
ウルミラは、慌てて棍棒で、跳んでくる大成の棍棒を上に弾いた瞬間、大成の気配が消えた。
すぐにピアノ線の先を見たが、大成がいた場所に垂れており、大成の姿はなかった。
そして、ウルミラは頭上に嫌な気配がし、上を向いた。
そこに、大成が弾かれた棍棒を掴んで、落下しながら叩きつけようとしていた。
ウルミラは、慌てて両手で棍棒を持ち、頭の上に構えて防いだ。
大成とウルミラの衝突で風圧が生まれ、クラスメイト達の髪が揺れた。
トイレに行くと言いながら、マミューラに武器にピアノ線を括りつけて良いか、ピアノ線は何処にあるかを聞いていたのだ。
戻ってきた時、マミューラは大成がピアノ線を持ってきていたことに気付いていた。
「さ、流石、大成さんですね」
一度、ウルミラは大成との距離をとった。
大成が魔力制限してなかったら、これで決まっていたかもしれないとウルミラは思った。
ウルミラの言葉で大成は冷静に戻った。
負ける可能性の方が高いが、何処まで通用するのかを試して、もし、勝てそうでもウルミラのヘルレウスメンバーとしての地位を護るため、初めから負けるつもりだったのだ。
だが、ウルミラは思ったよりも隙がなく強かったので、つい夢中になってしまった。
そろそろ、優しい攻撃を貰い退場しようと思った大成だったが…。
「大成さんの期待を裏切らないためにも、私も久しぶりに本気を出します」
一気にウルミラの魔力が膨れ上がった。
「えっ!?あ、あの…ウルミラさん。本気出されると僕は死んでしまいます」
予想外な事態に陥った大成は動揺が隠せないでいた。
ウルミラは大成の言葉を聞いていないのか、聞こえていないのか知らないが、一瞬にしてウルミラは、大成に接近して棍棒で横から凪ぎ払った。
大成は驚き、慌てて頭を下げた。
大成の頭上に物凄い速さで棍棒が通り、そのあとに発生した風圧も凄かった。
「ちょっ、ちょっと落ち着いてウルミラさん。俺、これを当たると死にますよ」
大成は頬を引きつり説得を試みながら距離をとろうとしたが、ウルミラは自分の距離を維持しながら張り付く。
「何をご冗談を仰っているのですか?」
今度はウルミラは突きを連打し、大成に反撃させないようにした。
ウルミラは、完全に変なスイッチが入り、冷静さに欠けており、大成に勝つことだけしか考えていなかった。
大成の救いは、ウルミラが冷静さを欠けていたので、動作に無駄が出ていたこと。
「う、嘘だろ!」
ウルミラに鋭い突きを連打をされ、大成は必死に棍棒で防いだり受け流したり回避したりしたが、全てを捌ききれず、掠り傷があっという間に増えていく。
一発でも貰った場合、下手をすると本当に死んでしまう可能性があったので必死だった。
「しぶといですね」
「いや、あのウルミラさん。僕を殺すつもりですか?」
「殺すつもりで行かないと勝てませんので」
ウルミラの攻撃には、初めのアイス・ミサイル・ニードルを放った時よりも殺気が込められていた。
「いや、僕の負けです。降参しますから、もう攻撃を止めてくれませんか?」
「大成さん。降参はなしと約束しましたよ」
ウルミラは降参を受け入れず、大成を逃がさなかった。
「本当にしぶといですね。フリーズ」
ウルミラは距離をとろうとした大成を追わず、左手を地面に触れて氷魔法、フリーズを唱えた。
ウルミラを中心に地面が凍っていく。
同い年の子供が使用すれば平均魔力値4か3程度なので半径1~3メートルぐらいなのだが、魔力値8のウルミラが使用すると半径50メートル近く凍った。
大成は足に魔力を集中させ、凍り付かないようにする。
「「うぁぁぁ~!」」
「「きゃ~!」」
周りの皆も同じ様に対処したり、その場から慌てて離れた。
「ちょっと、これはヤバイってウルミラさん」
氷付けを回避した大成だったが焦っていた。
只でさえ、全神経を使って防いでも掠り傷を負っている状況で、さらに足元が滑るようになったからだ。
対処できなくなるのは明白だった。
少しでも安全性を考えた大成は、全神経を防ぐことに専念してウルミラが冷静に戻るのを待っていたが、足元が悪くなったので一か八か危険を伴うが取り押さえると覚悟を決めた。
再び、ウルミラは大成に接近し、棍棒を上から振り下ろす。
「今だ!」
大成は前に一歩踏み込みながら、右手で棍棒を持ち左腕で支えて棍棒を斜めに立てた。
ウルミラの棍棒は、大成の棍棒の手と腕の間に当たり、そのまま大成の棍棒の上を滑った。
大成はウルミラの棍棒が軌道を変えながら、ウルミラの懐に潜り込もうとしたが、氷の地面で足が滑りウルミラを押し倒した。
「うぁ!」
「きゃっ」
大成とウルミラは共に倒れた。
(何か、顔に柔らかい物が当たっている?)
「…ぅ~ん、何か柔らかい」
呻きながら大成は、顔に当たっている物を両手で触ったり揉んだりする。
「ふぇ、ふぇ~!?」
顔を真っ赤に染めたウルミラ。
ウルミラの声が聞こえたので大成は顔を上げ、ウルミラ胸の谷間に自分の顔が埋もれていたことに気付いた。
「あっ!」
それと同時にウルミラの魔力が右手に集中する。
「きゃ~!」
目を瞑り叫びながらウルミラはビンタをした。
「ちょっ、ちょっと…」
大成は慌てて左頬に魔力を集中して、左頬にビンタが炸裂した。
「ぐほっ」
甲高いビンタの音が響き、大成は地面を転がりながら吹っ飛んだ。
「……」
「勝者、ウルミラ」
皆が静まり、大成は意識が薄れる中、辛うじてマミューラの声が聞こえたと同時に大成は意識を手放した。
それから暫く経ち、大成は意識を取り戻し、ジャンヌからハイポーションを受け取り飲んで回復した。
「ありがとう。ジャンヌ。それに、ウルミラごめん。わざとじゃないんだ」
大成は笑顔でジャンヌに感謝し、ウルミラに謝罪した。
「わ、私こそ、熱くなり過ぎてすみません。大成さん、大丈夫ですか?」
顔を真っ赤に染めたままだったが冷静に戻ったウルミラ。
そんなウルミラを見て、大成はホッとした。
「どうにかね」
笑顔で答えた大成を見てウルミラもホッと安堵した。
一方、ジャンヌは笑顔だったが、気のせいか先よりも威圧感が増していることに大成は気付き冷や汗が出た。
「気にしないでいいわよ。だって、次は私と闘うのだから万全な状態でないと死んでしまうかもしれないわ」
笑顔でポーションを渡した理由を、ジャンヌは説明をした。
「えっ!?僕は負けたから、これで終わりだよ。ジャンヌ」
ジャンヌの話を聞いた大成は、顔を引きつりながら訂正をする。
「遠慮しないでいいわよ。そのことなら大丈夫。大成が気絶している時に、私がマミューラ先生に頼んだから。まぁ、条件として回復させたなら良いって。その代わり順位には影響はしないけどね」
笑顔のままジャンヌは首を傾げて可愛かったが、話の内容が残酷だった。
「えっ!?大丈夫って…あの…」
大成は、マミューラに振り向いたがマミューラは笑って頷くだけだった。
それを見た大成は項垂れた。
まだ、大成の試練は続くのであった。
次回、ジャンヌと闘いです。




