非常識とグリモア・ブック
大成は、魔力のコントロールを取得し、自分の属性がユニークだと判明した。
だが…ここでは、どんな能力なのか、わからなかった。
大成達は、屋敷に戻ることを決断した。
【魔人の国・ナイディカ村】
大成達は、時間があったので村に戻り復興の手伝いをしていた。
手伝いをしながら大成は、魔力を細かくコントロールして色々と試して復興の効率も上がった。
【魔人の国・ナイディカ村・おばさんの家】
夕方になり、本日の作業が終わった。
大成達は、おばさんの家で夕飯を頂いている最中に今日中に屋敷に戻ることを話した。
「嫌~!嫌~!いっや~!お兄ちゃんが、どっか行くなんて、ぜった~い嫌~!」
エターヌは大成に抱きついて離れず、大成達は困った。
そんな時…。
「エターヌ、寂しいのはわかるわ。でも、姫様やウルミラ様、大成君に迷惑かけたらダメよ」
おばさんはエターヌの傍へ行き、後ろからエターヌの両片に手を置いて話す。
「で、でも~、嫌なのは嫌だよ~」
エターヌは涙目になり、大成に顔を当てしがみつく。
「ごめん、エターヌ。寂しいのは僕も同じだよ。でも、できる限り今回のようなことが起きないようにしたい。そのために、僕は強くなって魔王を決める大会で優勝してこの国の魔王になってエターヌ達や皆を守りたいんだ」
エターヌの頭を優しく撫でながら、大成は目をそらさず真剣に話した。
ジャンヌとウルミラは、知っていたことなので驚かなかったが…。
「え?え?大成君、あなたも出場するの?でも、確か【ヘル・レウス】のリーダーでおられるローケンス様も出場することになっているわよ。こう言ったら失礼なのだけど、大成君は人間よね。その前に出場できるのかしら?」
驚いたおばさんは自分の頬に手を当てながら頭を傾げて気になっていたことを質問する。
おばさんは、疑問は的確だった人間である大成が出場できるのか?
もし、出場してもローケンスが優勝すると思う人が大半、いや、殆どの人がそう思っているだろうと思っている。
それに、人間が魔王を倒してこの国を混乱させた元凶なのだ。
もし、大成が優勝しても誰も納得しないかもしれないと正直に思った。
おばさんの言い分を聞いた大成は不安になる。
「そ、そういえば、僕は人間だけど出場できるのかな?」
「心配しないでいいわ、大成。あなたは、異世界の人だから大丈夫よ」
「ですね。きっと説明すれば大丈夫です」
「いざとなったら、私の権限で強引にでも通すから!安心しなさい!」
ジャンヌは、胸を張った。
「アハハ…。それは、良かったよ。そういうことで、わかってくれないかな。エターヌ」
苦笑いを浮かべた大成は、エターヌに振り向く。
「えっ!?異世界って!?」
「お兄ちゃん、すご~い!」
おばさんは驚いたが、エターヌは先程の態度と違い目を輝かしていた。
「で、でも、う、うぅ~。なら、お兄ちゃん約束して、ぜった~い優勝して魔王様になるって」
エターヌは上目使いで大成を見る。
「うん、約束するよ。指切りげんまん嘘ついたら針千本の~ます。指切った!」
大成は、エターヌと指切りをして約束した。
「よく、わからないけど、絶対だよ!お兄ちゃん」
「わかった」
大成はエターヌの頭を撫でて、エターヌは笑顔になったがその瞳には薄らと涙が見えていた。
そして、食事が終わり、別れの時間がやってきた。
「おばさん、ありがとうございました。お世話になりました」
「「ありがとうございました」」
ジャンヌに続いて、大成とウルミラもお礼を言った。
「こちらこそ、復興を手伝って頂きありがとうございます。ほら、エターヌも」
おばさんが、エターヌの背中を優しく少し押した。
「お兄ちゃん達、ありがとう」
「またな、エターヌ」
「またね、エターヌ」
「また会いましょう、エターヌちゃん」
大成はエターヌの頭を撫でて、大成達は後ろ向いて歩き出す。
「お、お兄ちゃん~」
エターヌは、走り後ろから大成に抱きついた。
「また、来るから」
大成は振り向き、地面に膝を付きエターヌの頭を撫でる。
「うん、絶対だよ」
「わかった、約束するよ」
大成達は、再び後ろ向いて歩き出す。
「バ、バイバイ~!」
エターヌは、泣きながら大成が見えなくなるまで、大きく手を振るった。
【魔人の国・ラーバス国・屋敷】
屋敷に辿り着いた時には、日は完全に沈み月が登っていた。
気が付けば、月は普段の薄い黄色に戻っていた。
「やっと、帰りついたわね」
「ですね」
「だね」
ジャンヌ達は、屋敷に入る。
「えっ?!ひ、姫様!ウルミラ様、お帰りなさいませ。湯浴び致しますか?」
ジャンヌ達の予定を知らされていなかったメイド達は、大成達が帰ってくるとは思っておらず慌てる。
「今、戻ったわ」
「突然に戻って来てしまい、すみません」
「お邪魔します…」
ジャンヌは当たり前の様な態度で、ウルミラと大成は申し訳なさそうな態度で屋敷に戻った。
「も、申し訳ありません!姫様、ウルミラ様、大成様。何も準備が整っていません!」
「別にいいわ。それより、今から【解析の間】を使用するから魔鉱盤を1枚持ってきて頂戴」
「畏まりました。姫様」
メイドはお辞儀をして駆け足で取りに行き、ジャンヌ達は一階にある【解析の間】に向かった。
【魔人の国・ラーバス国・屋敷一階・解析の間】
大成達は、【解析の間】に着いた。
部屋の中は、床には【召喚の間】みたいな大きな魔法陣が描かれていた。
違うとしたら、魔法陣の形と魔法陣に繋がっている幅2メートルの通路が一直線通っており周りは水に囲まれていることだった。
「何か屋敷の中とは思えない場所だね…」
部屋の中を見て、大成は苦笑を浮かべる。
「そうかしら?」
「そうですかね?」
「普通はないよ、こんなの」
当たり前みたいな顔で答える2人に大成は呆れた。
扉からコンコンっとノックが聞こえたので、ジャンヌは扉に触れて魔力を流し開門する。
「姫様、魔鉱盤を持って参りました。どうぞ」
扉の前にメイドがおり、黒い板一枚をジャンヌに渡した。
「ありがとう、助かるわ」
「では、私はこれで失礼します」
ジャンヌは板を受け取り、メイドはお辞儀をして部屋から退出する。
「大成、あなたはこれを持って魔法陣の中央に立ってこの板に魔力を流せばあなたの能力がわかるわ」
ジャンヌは、説明しながら大成に板を渡した。
「わかった」
板を受け取った大成は、ゆっくりと魔法陣に向かう。
そして、大成は魔法陣の中央に辿り着いて1度深呼吸する。
「じゃあ、魔力流すよ」
「ええ、いいわよ」
「大成さん、頑張って下さい」
大成は、目を瞑り集中して両手で持っている板に魔力を流す。
すると、魔法陣が輝き出して周りの水が勢い良く板に吸い込まれていく。
「なっ!?ぐぅっ…」
かなり水圧の反動が強く大成だけでなくジャンヌとウルミラにも飛び散った水飛沫が当たって濡れ、大成は板を落とさないように手に力を入れて耐える。
次第に板がミシミシと音を立てながら水を吸い込んでいる場所からヒビが入っていく。
「え、ちょっ!?嘘でしょう!?大成、込める魔力を弱めて!早く!板が保たないわ!」
板にヒビが入っていく光景を見たジャンヌは、慌てて大成に魔力を弱める様に指示を出した。
大成が魔力を弱めると何事もなかったように水の勢いが止まり大成が持っている板に文字が掘られていた。
「大成、大丈夫?」
「大成さん、大丈夫ですか?」
心配したジャンヌとウルミラは、大成の傍に駆けつけた。
「大丈夫だけど、板が水が吸い込むことを教えて欲しかったよ。危うく板を落としそうになった」
苦笑いしながら大成は、ジャンヌとウルミラに歩み寄る。
「ごめんなさい、忘れていたわ。滅多にユニークの人が居ないし、そんなに勢い良く水は吸い込まれたことはないわよ。普通はチョロチョロか、それより少しだけ強いぐらいだから」
「今、冷静に大成さんの魔力を考えると、さっきの様になると考えられますね」
本当に忘れていたジャンヌとウルミラは、苦笑いしながら謝った。
「そうなんだ」
「それより、大成。私達も、あなたに渡した板を見せて欲しいのだけど」
「私も見ても良いですか?」
「別に構わないよ」
大成は、ジャンヌとウルミラに板を渡した。
「えっ!?何なの?」
「えっ!?こんなの今まで見たことないです」
「ん?どうした?」
ジャンヌとウルミラの反応が気になった大成は、ジャンヌに渡した板を覗いた。
板に空白の場所があった。
スキル名称:グリモア・ブック
魔法属性:ユニーク属性
効果・能力:
効果・能力のところが空白だった。
「何これ?肝心な大事な効果が何も書かれてないけど…」
「私も、わからないわ。今まで、こんなことなかったから…」
「そうですね…」
「まさか、板にヒビが入ったのが良くなかったとか…」
「わからないわ、ウルミラはどう思う?」
「わかりませんが、関係ないかと思います。ヒビが入っているのは真ん中辺りなのと、属性の場所にもヒビが入っているのに説明されていますので…」
「確かにそうだね…」
大成達は戸惑いながら考えるが何も進展しなかった。
「と、とりあえず、グリモア・ブックを出してみようと思うけど。どうしたら発動できる?」
「私達の魔法と同じなら、創造しながら魔力を込めて魔法名を唱えたら発動できるかもしれないわ」
「その可能性が高いです。魔法は、イメージ力が大切ですから」
ジャンヌとウルミラが予想する。
「ブックだから、本をイメージすれば良いのか?」
大成は、本をイメージしながら右手の掌に魔力を込めてる。
「グリモア・ブック」
大成が唱えた瞬間、掌の上に本の形をした魔力が収束して光り輝く。
そして、輝きが消えると掌に厚みのある本が出現した。
大成は本の重さがないことに気付き、そして、もしかして自由に動かせれるかもと思い試してみる。
結果、グリモアは飛んだり停止したりしてイメージした通りに動かせることに気が付いた。
「「……」」
ジャンヌとウルミラは、呆然と生き物みたいに部屋の中で動くグリモアを眺めていた。
ジャンヌとウルミラは、ハッと我に返る。
「と、ところで大成。その本には、何が書いてあるの?」
「そうですね、とても気になります」
大成の魔法名称を知った時から、2人は気になっていた。
「そういえば、そうだった」
すっかり忘れていた大成は、グリモアを手元に戻す。
「「……」」
大成達はあまりの緊張に息を呑み、ゆっくりと大成はグリモアを開く。
グリモアの中に書かれていたのは…。
氷魔法
アイス・ソード
アイス・ウォール
アイス・ミサイル
アイス・ボール
炎魔法
ファイヤー・アロー
ファイヤー・ボール
水魔法
アクア・ウェーブ
土魔法
アース・ショット
アース・ニードル
アース・スピア
風魔法
エア・クッション
無属性
拘束
レジナンス
魔法名と効果、そして、魔法陣が書かれていただけで他のページは空白だった。
大成達に沈黙が訪れる。
「こ、こんなこともあるから落ち込まないで大成」
「そ、そうですよ。大成さんには、頭脳と武術、凄い魔力で肉体強化があります。きっと、どんな相手でも倒せますよ」
「そ、そうね、ウルミラ」
「は、はい。なので、落ち込まないで下さい。大成さん」
ジャンヌとウルミラはグリモア・ブックの能力は魔法の解析だと思い込み、大成に慰めの言葉をかける。
なぜ思い込んだかというと、ユニーク属性は他の属性の魔法が全く使えないのが常識だったからだ。
何も言わずに大成はジッとグリモアを見つめたまま沈黙しており、ジャンヌとウルミラは慌てながらどう励まそうか考える。
「ねぇ、2人とも。この屋敷に魔法書を保管している場所とかないかな?」
「あ、あるわよ」
「ま、魔法書図書館があります」
慌ててジャンヌとウルミラは答える。
「案内して欲しい」
大成達は、【解析の間】を後にして旧館にある魔法書図書館に向かった。
【魔人の国・ラーバス国・旧館一階・魔法書図書館】
大成達は、【魔法書図書館】に着いた。
魔法陣が模様の描かれた扉の中央には六角型の形をした凹みがあり、ジャンヌは凹みに手をかざして魔力を流し込むと模様が輝き出して自動的に扉が開いた。
部屋の中は広く中央に大きなテーブルあり、周りには沢山の本棚があった。
本棚の本は全て整理整頓されており、懐かしい本の香りが部屋中に広がっている。
大成は、近くの本棚から適当に分厚い魔法書を手に取ってテーブルについて魔法書に目を通し、すぐにグリモアを出した。
「やはり、合っていた。アハハハ…」
大成は、グリモアを開いて内容を見て笑う。
「「えっ!?」」
ジャンヌとウルミラは、訳がわからなかった。
「た、大成、私達にも教えて貰えないかしら」
「で、できれば、教えて欲しいです」
ジャンヌとウルミラは気になり、大成に歩み寄る。
「別に構わないけど。その前に訓練所か外に出ない?そこで説明するよ」
「わかったわ」
こうして、大成の提案でジャンヌ達は外に出ることにした。
【魔人の国・ラーバス国・スルト荒野】
大成達は、屋敷から少し離れたスルト荒野に着いた。
「グリモア・ブック。ファイア・アロー」
右手にグリモアを召喚した大成は、左手を伸ばして炎魔法ファイア・アローを唱えると大成の周りに3本の炎の矢が出現した。
そして、手を向けた先にある大きな岩に向けて、大成は炎の矢を放って命中させた。
岩は破裂して、直撃した箇所が赤くドロドロに熔けた。
「う、うそ…」
「し、信じられません…」
ジャンヌとウルミラは唖然として戦慄した。
ユニークは、他の属性の魔法が全く使えないという常識が崩壊した瞬間だった。
大成は、そんな2人に構わず魔法を唱え続ける。
「アイス・ミサイル、アース・ショット、アイス・ウォール、アイス・ソード」
次々に、魔法を発動させる大成。
「「……」」
ジャンヌとウルミラは、その光景をただ呆然と見ていた。
大成は、自分の手の親指の腹を少し噛んで血を流す。
「最後にヒール」
【魔法書図書館】で魔法書を見た大成は光魔法ヒールを唱えると親指が輝いて傷が治った。
「予想通りの結果だな。まぁ、こんな感じか。僕のユニーク・スキル、【グリモア・ブック】は、この目で見た魔法や魔法書で見た魔法が使える能力。まぁ、ユニークは無理みたいだけどね。美咲さんの【ドール・マスター】は記載されていないから無理みたい」
大成は、グリモアを閉じて説明をした。
「ひ、非常識だわ!普通は、ユニークは他の属性魔法が使えないはずなのに…。大成、あなたのグリモア・ブックなら、ユニーク以外の属性、訓練しなくても全ての魔法が使えるということになるわよね?」
「す、凄い能力です。大成さん!」
「まぁ、見た魔法なら使えるね。正直、自分でも驚いているよ」
ジャンヌとウルミラ、いや、大成自身もチート過ぎる能力だと思った。
なぜなら、秘匿し発表されてないオリジナルの禁術や解明されてない魔法陣などでも、見てしまえば訓練とかせずに使用可能になるのだ。
大成は初めてグリモアを開いた時、すぐに見たことのある魔法しか記載されてなかったことに気付いた。
そして、なぜか使えそうな感覚がしたのだ。
そこで、もし見た魔法を使えるかも知れないという仮説をたてた大成は、確認するために魔法書に目を通してグリモアを確認したら予想通りだったのだった。
次回はヘルレウスメンバーの1人と戦います。
もし宜しければ、次回もご覧頂けたら幸いです。




