誘拐犯が言うには
絶対変なところに売られる――
早く逃げないと――
里奈は体育座りで荷台の隅っこに縮こまって、この状況を打開する方法を懸命に考える。
荷台には、男が二人と木箱がたくさん積まれているだけだった。
男たちは、里奈がいることを無視して、瓶に入った酒をがぶがぶ飲み、楽しそうに話している。
「教祖様もひどいお方だよな~、こんな国に行ってまで魔法使い狩りをしろなんてさ~。もう十分魔法使いはいるだろうに」
「まだ、足りないんだとよ。魔法使いが他の国に流れてしまうのも困るらしい」
「確かに、魔法使いは高く売れる。いらなくなったら周辺に売れば問題ないもんな。特にイルヴァ―ルはそりゃ高額で買い取ってくれるだろうよ」
(魔法使い狩り? イルヴァール??)
会話の内容から察するに、どうやら、自分のいた世界とは全く異なる世界にやってきてしまったこと、且つ、自分は売られるのだということが理解できた。しかし、会話には奇妙なワードが飛び交っている。
(彼らは自分を魔法使いだと勘違いして、連れてきたの? なら、その誤解を解かないと!!)
里奈は今まで閉ざしていた口を、意を決して開く。
「あの~、もしかして、あなた方は私が魔法使いだと思って、誘拐したんですか?」
男二人が里奈の方を向いて、
「そうだ、お前は教祖様のところへ連れするのが俺らの仕事だ。お前は若い娘だからきっと高値で売れるだろうよ」
とガハハと笑った。
どうやら、酒がまわって気分が高揚しているようだ。
そして意気揚々と男二人はペラペラと話し出す。
「俺らを恨んで呪いなんてかけるなよ? これはお前ら魔法使いの宿命なんだからよ」
「だから! 魔法使いじゃないって言ってるでしょ!!」
「そう言って、俺らを騙そうとしても無駄だ! マスターがお前の魔力に気づいたからこそ、お前を捕まえろと指示ができたんだからな。だいだい、見たこともない服を着て靴も履かず、こんな町はずれで、うろうろしてるお前の方が怪しいだろう」
そんなことを言われても、急に掃除機に吸い込まれたのだから、仕方がない……
里奈は、できればこれ以上奴らと会話はしたくなかったが、自分の置かれているこの世界についての情報を得るために我慢し、質問を続ける。
「魔法使いというのはそんなに価値のある人なの? 私田舎者だからよくわからなくて~」
「どおりで、イモっぽいと思ったぜ。そうだよ、今やこの世の中、魔法使い争奪戦という名の戦争をやっているんだからな」
「お前、その年でそんなことも知らないのか?! 少しは世の中の動きを知っといたほうが身のためだぜ」
「……そうですね~。世間知らずだから、あなたたちに捕まったんですよね~」
「がはははは、その通り!! お前いいな!!」
(うるさいわよ!! 褒められても全然うれしくないし、ってか顔近づけてくるな!!)
里奈は苦笑いをしながら、微妙に男たちと距離をとり、次の質問をした。
「で、どうして魔法使いがそんなに必要なんですかね?」
「そりゃ~魔法使いを保持するってこと=(いこーる)無敵の武器をもっているってことだからな。魔法っつーのはな、そんじょそこらの兵器とは比べ物にならないくらいの破壊力がある。っていうか、お前、魔法使いだろ!? そんなことも知らねーのかよ?」
「だから、私は魔法使いじゃないんですって」
「まぁいい」
「無視かよ!!」
里奈は思わず、奴らに突っ込んでしまったが、スルーされた。
一瞬ドキリとしたが、お酒の力に助けられたようだ。
もし、怒りに触れたらナイフで、切り刻まれるかもしれないことを忘れてはいけない。
自分は、この状況を打破できる魔法とやらを持ち合わせていないのだから。
「間もなく、お前は兵士として戦場に送られるだろうよ。可哀そうにな~。俺らがここで殺さずともじきに殺されるもしくは、魔力を使い果たして死ぬんだから」
「こいつみたいなガキは戦場じゃなくって、兵器増産の燃料にされるってよ」
「!?」
一体どういう世界なんだろうか?
想像を超えた試練がまた待ち受けている――
そんな予感がした。