表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/93

少しの変化と大きな進歩

昨日でユニークが500を超えました!当たり前ですが、話数が増えるとペースが早くなりますね。

『まれ系』についても初めて文章・ストーリー評価をいただき、少しほっとしました。10万字以内にもらえることをひとつの目標にしていたので…本当にありがとうございます(T_T)

 翌朝目覚めると、ユエはひとりだった。黒蜥蜴と一緒に床に座り込んでいたはずが、ベッドの上に横たわっている。


「……ティハが運んでくれたのかしら」


 気分は、思ったよりもすっきりしていた。

 以前は一度うなされ始めると朝まで熟睡できなかったものだが、ずいぶんと自分の心は頑丈になったらしい。もしかしたら、両親を失ってバランスを崩したものがようやく元に戻り始めているのかもしれない。自らのことながらユエは少しほっとした。


 居間に赴くと、すでにムッカとティハがいた。ふたりとも、本を広げている。


「おはようございます」


「あ……。……昨日はごめんね、ユエ。その……」


 ユエに気付いたムッカがもじもじと言い淀んでいる。昨日の失敗を気に病んでいるらしい。

 ユエは苦笑した。


「こちらこそ、ごめんなさい。部屋の扉を閉め切るなんて大人げなかったわ。……大丈夫、ちょっと思い出してしまっただけで、もう何ともないから」


 その言葉に、ムッカがユエの顔色を確かめるように近寄ってきた。寝不足になっていないか確認しているのだ。ユエがうなされていたことに気づいていたのかもしれない。

 じっくり観察して、それから心底ほっとしたようにムッカがつぶやいた。


「……うん。ちゃんと、眠れたのね。良かった」


「……もう、三年も経ったのよ」


 これからも、ああやって両親の夢に泣く夜があるかもしれない。

 でも、今日みたいにそれほど心を乱さずにいられるなら、とユエは思う。あの面影を懐かしめるようになれればいい。二人の純粋な笑顔を思い出せるのは、きっとユエだけなのだから。


 そして同じ夢を見てもこう思えるまでに心が回復していたのは、いつも側にいてくれたムッカのおかげなのだろう。ユエはムッカに笑いかけた。


「ムッカ。あなたが居て、良かったわ。私……少しずつだけれど、前に進めているみたいだから」


 それからくるりとティハの方を向く。


「ティハも。昨日は心配してくれて、ありがとう」


 ふたりは一瞬きょとんとしていたが、まずティハが嬉しそうに笑った。


「ああ。どういたしまして、だ」


「……そ、そうねっ。それは良いことねっ。……そうだ、私掃除しなくちゃ。ユエも早く朝食を摂らないと、遅れちゃうわよ!」


 ムッカは照れ隠しのようにぴょん、と大きく跳ねるといつものように本棚を掃除し始める。ユエとティハは顔を見合わせると、くすくす笑った。



*****



 お昼も過ぎて、食堂の利用客がまばらになる時間。


 配達を終えたユエは、布にくるんだ本を手に店先に立っていた。ひょこっと入り口から顔をのぞかせると、テーブルに載った食器を片づけているマリーと目が合う。

 彼女は嬉しそうに笑うと、ユエの元に駆けてきた。


「ユエ。来てくれたのね」


「約束、しましたから。あの、これ、『その一』です」


 ユエが本を差し出すと、マリーはまたにっこりと微笑んだ。湿布をきちんと使ってくれたのか、目元の腫れはすっかり引いている。


「ありがとう。……せっかくだから、少し休憩していかない?お客さんもちょうど引いたところだし、お礼もしたいの」


 礼と言われては断れずに、ユエはこくりと頷いた。


 食堂のテーブルについて、ぐるりと周囲を見渡す。

 両親が生きていたころは母の料理、ムッカが来てからは自分で作って、と基本的に家で食事を摂っているので、ユエはこういった場所に馴染みがない。食堂の外観はレンガ造りだったが、中の壁は白く漆喰が塗られていて思ったより明るい。床は大勢が利用するためか掃除しやすいようにタイルが貼られていた。


 マリーが手にふたつカップを持って現れる。


「紅茶でよかった?」


「はい。ありがとうございます」


 ユエは礼を言ってカップを受け取る。まだ二人ほど食事をしている客がいるが、ほとんど給仕も必要ないので、マリーはユエと一緒に休憩するつもりのようだ。厨房から顔をのぞかせた女店主のベルタも「ゆっくりしていきな」と声をかけてくれた。


 マリーは正面に腰掛け、手渡した本を開いている。その間何をしていいか分からなくて、ユエは固くなったままきょろきょろしていた。


「……熱っ」


 手持ち無沙汰になって紅茶に口をつけると、まだかなり熱かった。舌を火傷して、ユエは赤くなる。何でもないふりをしてピッチャーから牛乳を注ぐと、くるくると匙で紅茶をかき混ぜた。

 実はこうやって女の子とお茶をする機会が今まで無かったので、ちょっと緊張しているのだ。マリーは挙動不審なユエを見て目を丸くしたが、すぐに目元を緩めた。


「これ。大事なところに、印をつけてくれたのね。大変だったでしょう。本当にユエは料理が好きなんだって分かるわ」


 マリーが沢山の付箋が挟まれた本を大事そうに抱えた。

 本当はムッカの熱意の結晶なのだが、外から見ればユエの所業だ。ちょっと引くくらいの量になっていると正直思っていたので、気まずそうにマリーを伺い見る。


「いえ、その……迷惑じゃなければ、いいのですけれど」


「ううん。嬉しいわ。だって、本当に料理については知らないことだらけだから、何に注意して見れば良いのかすら分からないんだもの。…それに、全部写す訳にもいかないし」


 そう言ってマリーは肩をすくめる。

 確かに、料理初心者が闇雲に内容を写すよりも、事前に要点が分かっていた方が効率が良さそうだ。ムッカのおせっかいが役に立ちそうで良かったと、ユエは胸を撫で下ろした。


「それでね。こんなに高価な本を何冊も貸してもらうんだから、何かお礼がしたいの。家は鍛冶屋だから……料理のおたまとか、包丁とか、どう?ユエの役に立つと思うんだけど」


 この紅茶がお礼だと思っていたユエはマリーの提案にぽかんと呆ける。黙ってしまったユエに、慌てたように彼女は弁解した。


「その、さすがに父さんの品は割高だから、私のお小遣いからだと修行中の弟が作ったものになっちゃうの。でも、腕は確かだから、安心して!」


 やっと自我を取り戻したユエがぶるぶると首を振る。


「いえっ、その、お礼なんてこの紅茶でじゅうぶん……」


「それじゃあ対価として全然つり合わない。わたし、ユエとはお友達になりたいから、こういう事はきちんとしておきたいの。……だめ?」


 ユエはうっと言葉に詰まった。マリーに悲しそうな表情をされ、そのうえ手を握られる、という状況にどうも自分は弱いようだ。助けを求めてうろうろ視線を彷徨わせると、厨房から様子を伺っていたベルタに「もらっときな!」と口の動きだけで助言された。


「……じゃあ、遠慮なく、いただきます……」


「ほんと?!じゃあ、何にする?おたま?包丁?あっ、採集用のナイフなんかもどうかしら」


 途端に目を輝かせはじめるマリー。ユエは眉根を寄せて考え込む。

 おたまは新しいものを作るとムッカがうるさそうだし、包丁やナイフなどの刃物は製作が大変なので高価な部類に入る。ここは、何か別のものにしなければマリーの財布だけでなくユエの心が痛みそうだ。


 うんうんと悩んでいると、カップに入ったままの匙が目に入った。そうだ、これだ。ユエは自分のひらめきに心の中で快哉を叫んだ。


「……じゃあ、薬匙を作ってもらえないでしょうか」


「やくさじ?」


 ユエの提案に、今度はマリーがぽかんとする。


「はい。薬の調合に使う、薬匙です。ちょうど、師匠から調合を習い始めたので」


 ああ薬匙ね、とマリーは理解したように大きく頷く。彼女は少し悩んでいたが、よし、と決意したかのように笑顔になった。


「ちょうど、弟の良い腕試しになりそうだし、薬匙にしましょ。出来たら持って行くわ」


 一本の薬匙で腕試し?とユエは首を捻るが、マリーは構わずごくごくと温くなった紅茶を飲み干す。それを待っていたかのように客入りが増え始め、それを見た彼女は席を立った。


「そろそろ休憩も終わり。ユエ、読み終わったら本はあなたのお家に持っていくから。ゆっくりしていってね!」


ひらひらと手を振ったマリーが厨房に駆けこんでいく。

ユエは「ゆっくりしていって」と言われた手前、マリーの後ろ姿を見送ってからもしばらくちびちびと紅茶に口をつけていたが、すぐに慣れない環境に耐えかねて、マリーのように紅茶を飲み干すとあわただしく食堂を後にした。



*****



「ともだち、……か」


 ユエは表通りを歩きながら、ぷらぷらと軽くなった籠を振る。

 この三年間で、同い年の友達だと思っていた人たちとは縁が切れていた。まあ、ユエも生活費の確保と薬師の修行でいっぱいいっぱいで、彼女たちに誘われてもろくに相手をしていなかったのが悪い。そのうち、遊びにも誘われなくなって、年頃になるとなぜか悪口を言われるようになっていた。


 人は自分と違うものを厭う。彼女たちはきっと、自分たちとは違う生き方をしているユエが気に入らなかったのだ。今でこそ、同じように仕事を持つ身になったが、一度出来てしまった溝はそう簡単に埋まらない。

 そう思えば、両親の死を乗り越えようと自覚し始めたこの時期に、しがらみの無い年上のマリーが「友達」になりたい、と言ってくれたことはユエにとって僥倖なのかもしれない。


 少しずつ、元に戻していければいい。ユエはひっそりと溜め息をついた。



「ユエ!」


 表通りもあと少しで抜ける、というところでユエは声を掛けられた。振り向くと、自警団の服を着たレオが走ってくる。避ける理由もないので、ユエは大人しくその場で彼が追いつくのを待った。


「ユエ、やっと会えた……」


 レオは荒い息を吐いている。ユエは「やっと」という単語に違和感を覚えて眉を寄せた。特に用事はなかったはずだ。何か忘れているのだろうか。


「あのさ、ユエの親戚のことなんだけど……」


 ユエはぎょっとする。ティハが何か自警団のお世話になるようなことをしでかしたのだろうか。


「なにか問題でもあったの?!」


「えっ?いや、別に問題はないけど……って言うか、問題を起こすような奴なのか?」


「う、ううん。そういう訳じゃないわ。彼、まだ村に不慣れだから、そう思っただけ」


 険しい顔をするレオに、ユエは自ら掘った墓穴を埋めようと必死に誤魔化す。レオはそれでも何かを探るかのようにユエの仕草をじっと見ている。とても居心地が悪い。


「……それで、どうしたの?」


「……ユエさ。あいつが来る前の日、うちで飯食ってたのに何も言ってなかっただろ?なのに急に連れてきたから……何か、あったんじゃないかと思って」


 レオは、真剣な表情で言い切った。


ちょっとレオの話を気になるところで切っておりますが、文字数的にもここまでで。

明日も更新しますのでぜひ見てやってください(・ω・)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ