外の世界
一日一話で更新していくつもりです
なるべく、頑張ります
「ロビンくんさ、」
俺は首を回転させる。
「森の向こうには、何があると思う?」
さあ、なんだろうか。
俺はなんとなく背伸びをして、遠くが見えないものか、と目を凝らす。
「でもさ、こんなに広いのに、ここに住んでるのは私たちの家族くらいなんだよ」
先程まで走り回っていたせいか、彼女はその場に尻をつくと、草の上に倒れ込んだ。
「空って、遠いのかな?近いのかな?」
ずっと、こんなに広いのに、閉じ込められているみたいだ。
「遠いと思うよ」
空っていうのは、きっとこの空の向こう側にあるもののことなのだろう。
森や、空に囲まれて、俺達は自由気ままに過ごしている。
「ここより、広いところってあるのかな?」
どうだろう。
少なくとも、俺が前いた世界は、ここなんかの何万倍も何億倍も広い世界だった。
でも、この世界の方がよっぽど広いように思える。
なぜだろうか。
学校という、狭い場所に集められ、その中では個性などただの自衛の武器でしかなかったからだからだろうか。
「きっと、森を抜けたら、そこには人がいっぱいいるんだよ。俺のお母さんも、そこの市場で野菜とかを売ってるんだから」
母の仕事がどんなものなのかは、詳しく知らない。
あまり帰ってこない父の方も、同じだ。
ただ、母は行商人とかそういう職種に分類されるのだろうか?なんにせよ、あまり興味もないのと、こちらはなんの稼ぎもないわけなのだから、文句を言える立場ではない、と思っているのだ。
「でもさ、こんなに広いところに私たちしかいないんだよ」
確かに、不思議なことではあるかもしれない。
「人はね、いっぱいいるところに集まるんだ。そこでは、いろんな出会いとかがある。でも、嫌なこともいっぱいあるんだ」
まあ、そんなのからは逃げればいいと思っているし、きっと前世ではずっと逃げてきた。
「ほんと、人がいっぱいいるところに行ってもなんにもないよな」
慶も、俺にしか聞こえない声でそう同調してきた。
そうだよな。
俺達、ずっと二人だったもんな。
「じゃあ、なんで私たちはこんなところに住んでるんだろう?」
ミラベルは、空を見上げたまま、俺にそう尋ねてきた。
「嫌だったからだよ。こっちの方が、よっぽど楽しいじゃん。お金だって、」
でも、俺達がこうやって自由に生きているのは、親がお金を稼いできてくれるからであって。
ホント、前世では申し訳ないことをしたかもな。
こんな、異世界に来てまで反省なんてすることじゃないと思っていたんだけども。
「私のお母さんとお父さんは、月に一回街まで出かけてるけど、街にはさ、すごい珍しいものがいっぱいあるんだって」
ミラベルはバタ、と起き上がり、そして今度は俺の顔を見つめてきた。
俺は、少し、彼女から目を逸らす。
「なんか、すっごく大きいお城とか、水が吹き出る石とか、」
「でもさ、」
俺も、バサ、と足で反動をつけて起き上がる。
「お城の中はさ、汚いし、その吹き出ている水だって、きっと汚いもんだよ」
見えないだけ。見ようとしていないだけ。
世の中、汚いものだらけだ。
「でも、大きいんだよ?」
彼女は手を振り回して、精一杯見たことのない城の大きさを表現していた。
思わず、俺は「ハハ」と笑うけども、慶が「人が一生懸命やってるんだから笑うなよ」と茶々を入れてくる。
別に、いいじゃないか。
可愛らしい、というか、微笑ましいんだよ。
「小さかったら、汚れとかが目立つでしょ?目立たないように、大きくしてるんだよ。きっと、毎日家の掃除とかをしてる俺達の方が、あんな城に住んでるやつよりも、よっぽど偉いんだよ」
それでも彼女は「でも、大きいんだよ。その、真っ白ですごい綺麗なんだって」と俺に説明してくる。
でも、俺も子供のときはそんなもんだったかもしれない。
誰だろうと、自分が好きなものを否定されるのは嫌だ。
「お前も、そんなこと言うなよ」
時々、この慶の一方通行のコミュニケーションが、彼が精神的に壊れてしまったが故のものなんじゃないか、と怖くなる。
でも、彼女の前で毎回毎回お前の相手をするわけにもいかないからな。
「でも、ロビンくんはまだ見たことはないでしょ?」
まあ、ベルサイユ宮殿の写真とかは見たことはあるけど、この国?この街かもしれないが、彼女の両親が見たという城は確かに見たことはない。
「まあ、そうだね」
「じゃあ、見るまでわからないじゃん」
ほんと、そうだよな。
「あのさ、俺はいるからな。見えないけど、」
慶の声だ。
ちょうど、俺も思っていたところだよ。
ホントは、三人で遊べたら一番いいと思うんだけど、なにしろ俺はまだお前の存在を信じきれていないからな。
「だからさ、」
ミラベルが俺の手を握ってくる。
「大きくなったら、森の外に行ってみようよ」
俺は、正直、「ここだってこんなに広いんだし、いいじゃん」と思ってしまう。
「別に、俺達ずっとここにいてもいいじゃん」
と俺が言えば、すかさずミラベルは地面に寝転んでいた俺の手を引っ張る。
「ちょっと、痛いよ、」
俺は彼女に引っ張られるがまま起き上がる。
「あっちを見てみてよ」
彼女の指す方向には、草原があり、そして、地平線の境界線の辺りからようやく森が始まっている場所だ。
「見えないじゃん」
確かに、見るまではわからないかもしれない。
もっと、魅力的なものがあるのかもしれない。
「いい。一緒に行くんだよ、私たち!!こんなところから出て、外に行くの!もっと、色々なものを見てみたいの」
俺は、すぐには言葉が出せなかった。
「それまでには、」
とミラベルが言ったあとに、慶が「俺を生き返らせてくれよな」と言う。
そして、ミラベルは「私たち、大人になりましょう」と言った。
大人か。
俺は、まだ大人になったことがないもんな。
人生二回目にして、ようやく大人か。
「でも、大人になったら体も思うように動かないし、すぐ疲れたりするんだよ」
まあ、毎日走り回っていれば、そんな大人にはならないだろうけど、あまり気が進まなかったので、俺はミラベルの方を向いて、そう言った。
「じゃあ、私がおんぶしてあげる」
そんな、情けないよ。俺の方がもう大きいんだし。
「ほら、今のうちにさ、見ておこうよ。もう、戻ってこないかもよ」
彼女は、瞳を輝かせながら、まだ見ぬ世界を、その先をも見つめている。
「いつもさ、虫ばっかで、私飽きてきたの。その、お肉とかもっと食べてみたいし、森の向こうにはいろんな食べ物があるんだって」
いつの時代も、女の子は食べるのが好きなんだな。
「お前だけだろ。俺だって、あのバッタ食べてるのを見るのですら嫌だもん。気持ち悪い、ホントに」
慶も、人知れず彼女の意見に賛同しているみたいだ。
「その、それは、夢なの?」
彼女は俺の方を向いて、首をかしげる。
「夢って、寝る時に見るあの夢?」
「いや、その、将来こんな風になりたい、とか、そういうの」
「そういうのも、夢っていうの?」
確かに、今思うとなんで夜寝ている時に見るものと、将来なりたいことに同じ「夢」という言葉を使うのだろうか。
まあ、「夢を見る」の「見る」という行為が、どちらも「頭で思い描いたものを見る」という点で類似しているからなのだろうけども。
「じゃあ、夢じゃないよ」
予想外の答えに、クル、と顔の向きを変える。
彼女の横顔が、陽の光に照らされ、髪の一本一本に光が反射し、それが風になびかれ、まあなんやかんやあって、
そして、結果的に俺の心を動かした。
「約束だもん!」
約束か、
「あのさ、俺の約束も覚えてるよな」
ギクリ、と心のどこかで音がした。
「ああ、・・・そうだな」
ホント、いつも見られてるみたいで怖いよ。
まあ、そのくらい俺達ずっと一緒だったけどな。
「じゃあさ、今のうちに計画しておかない?」
と、無計画なことを彼女は俺に言ってきた。
「早いんじゃないの?」
まあ、こういうとき、モテる男は「俺もやるよ」とか言うんだろう。
風が吹けば、きっと森中がざわめき出し、草原の草も一斉に体を揺らすだろうけど、それは、風がそのくらい強く吹いてるってことなんだから。
また見てください




