ポルメの過去
リリーメルは、ルルーから力なく下りて地面にへたり込んだ。
恐怖から解放された安堵と同時に、恐怖の余韻が体に染みついて離れない。
「姫様、おけがは?」
フェーンが馬から下りてリリーメルに駆け寄る。
「フェーン、フェーン、ああフェーン。怖かった。怖かったの」
リリーメルは泣き叫びながらフェーンにしがみついた。フェーンは戸惑いながらリリーメルを受け止め、助けを求めるようにアディを見る。
だが、アディは目を逸らしてフェーンの視線を拒絶した。
「ピーデ、なぜここに?」
「帝都から出ていくお前たちをたまたま見かけてな、気になったから付けていた。カネの匂いもするしな」
「ほう、『たまたま』か。そりゃまた偶然だな傭兵」
「うるせえよ、詐欺師さん」
――たまたま見かけていたのか。何という偶然。私たちは幸運だ。
フェーンは、自分たちの強運に感謝した。
「ポルメも意外……失礼、なかなかやるのだな」
「こう見えても俺は騎士身分だぞ」
「文官化した没落騎士じゃねえのか。そういう連中が宮内伯の被官になりがちだって聞いたことがあるぜ」
「俺の家はれっきとした騎士なんだよ。俺は嫡男としてガキのころから武芸はたたきこまれてた」
「そんな騎士様が何で詐欺師なんぞになってんだ」
「ガキの頃は良かったんだが、俺は身長が伸びなかった。こんな小男じゃ軍役は務まらない。一五、六歳頃、親に見切りを付けられて廃嫡された。家は弟が継いだよ」
「騎士ってのもつれぇんだな。お気の毒様だ」
ピーデに同情されて、ポルメはふんと鼻を鳴らした。
「俺も不様な過去を晒したんだ。いい加減、お前も姫さんに執着する理由を明かしたらどうなんだよ、傭兵」
「詐欺師さんは勝手にべらべらゲロッただけだろ。俺のことなんざどうでもいいんだよ」
リリーメルは、まだフェーンの腕の中でぶるぶると震えている。ピーデには原因に心当たりがあったが、口を閉ざした。
――言いたければ本人が言うだろう。俺の出る幕じゃねえ。
「馬車は俺とポルメで追う。脇道に入ったら、どっちかが知らせに来る。お前らは落ち着いたら追ってこい」
そう言うと、ピーデは馬に飛び乗ってポルメを促した。ポルメは三人が気になるそぶりを一瞬見せたが、ピーデと共に馬車を追った。
フェーンは、いまだにどう対処すればよいのか分からない。
抱き締めればいいのか、背中をさすればよいのか、このまま硬直していればいいのか。
本来、主家の姫の体に触れるなど、あってはならないことなのだ。リリーメルに抱きつかれている状態だけでも、伯爵から死を宣告される恐れがある。
アディは、相変わらず助け船を出す気がないらしく、ピーデたちが走り去った方向を見ている。フェーンが何度声をかけても、こちらを見ようとしなかった。
進退窮まったフェーンは、心の中で助けを呼んだ。だが、父は役に立たないだろう。
「母上、このようなとき、私はどう振る舞えばよいのでしょうか!」
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