久々の旅情
「ひ、姫さんたち、こんなところで何を?」
「それを私が先に聞いたのですが」
ポルメは周りを見渡すと、リリーメルの言葉を無視して先に進んだ。行きがかり上、三人もそれに続く。
「前の馬車。あれ、フェルカーデのものだ」
「えっ!?」
「フェルカーデの野郎、どこかに行くつもりだ」
「それで後を付けていたのですか」
フェルカーデの馬車は、東門から帝都を出ていった。
「どこに行くつもりでしょう」
「宮内伯……しかも呪術院の宮内伯が帝都を出るなんてただ事じゃない。行き先を探る価値はありそうですよ」
馬車は東に進んだ。
まだまだ進んだ。
どんどん進んだ。
「どこまで行くつもりでしょうか」
「こりゃ……大ごとになったな。宿場町に入るようですぜ」
「ってことは……さらに遠くへ?」
この時点で、引き返せないほどに帝都を離れていたことに気付いた。今から帝都に向かっても、途中で夜になってしまう。
このまま宿場町で一泊するしかない。
「姫さんたちは明朝帝都に戻った方がいい」
「何言ってるんですか。ここまで来たら、とことん行くしかないでしょう」
リリーメルの目に、活力が戻っていた。
「私たちにも尾行くらいできます。できることをやりましょう!」
「フン」と、鼻から勢いよく息を吹き出す。
「というわけで、私たちも宿に入りますよ!」
「以前の姫様に戻ったな……」
「戻ってみると、これがよかったのかどうか……」
「何をごちゃごちゃ言っているのです。さあ行きますよ!」
リリーメルは、フェルカーデが入った宿にずずいと進んだ。
「ちょ、ちょい待ち、姫さん。フェルカーデと同じ宿に泊まる気か!?」
「何か問題でも?」
「いや、だって、問題……ないのか」
「そうですよ。ポルメは面が割れてるからダメですよ。宿場町の外れの宿になさい。それがいい。外れならフェルカーデ宮内伯が出ていくのを監視できるでしょう。さあ行きなさい」
「まあ……分かったよ」
リリーメルにまくし立てられて、詐欺師の話術も生かせぬままポルメは追い立てられた。何度も振り返りながら、宿場町の端の方へと去って行く。
少し寂しそうだ。
「さ、私たちも行きましょう」
リリーメルは、鼻を中心にして顔を左右に振った。相変わらず子供用の安いおもちゃのような動きで、頑張って顎をしゃくっているのである。この動作をするとき、彼女はなぜか寄り目になる。
フェーンとアディは笑うわけにもいかず、悶死寸前に追い込まれた。
「まったく、姫様は余計なことばかり覚えるな。ブフッ」
「姫様のお顔を見て笑うのは無礼ですよフェーン! ッフフ……」
フェルカーデの家臣たちは隣の宿に入った。フェルカーデが入った宿はこの宿場町の中で最も格式が高そうだ。
「家臣も高い宿に泊めてやればよいのに。フェルカーデ宮内伯はケチだということが分かりましたね」
ポルメを端の宿に追いやったリリーメルは、鼻から勢いよく息を吹き出しながら新情報に満足した。
彼女は部屋に荷物を置くと、他の客室の扉に耳を押し当てて中の様子を探った。
どうみてもコソ泥である。
――母上様がご覧になったら、さぞやお嘆きになるだろう。
アディは、リリーメルの不様な後ろ姿を眺めて嘆息した。
「何も聞こえない」
「この宿に入ったのは宮内伯一人かもしれませんしね……」
「えっ」
「一人なら、喋らないでしょう」
フェーンが、残念そうに首を振った。
「姫様はお一人で喋っていることがありますが」
「えっ、そうだっけ?」
「『あー、どこかに素敵な殿方がいないかな』とか、身も蓋も慎みも節度も恥じらいもないことをあれこれと。そればかりか、私の口からはとても言えないような……」
「ちょっ、やめてアディ!」
つるりとした白い肌をリンゴのように赤くして、リリーメルはアディの口を塞いだ。
フェーンは、身も蓋も慎みも節度も恥じらいもない独り言の内容が気になってそわそわしたが、質問しない程度には大人になっていた。
「と、ともかく。これじゃ同じ宿に入った意味がないじゃない」
「ないみたいですね」
「ないようですね」
「……」
リリーメルは頬に人さし指を添えて首をかしげた。
「じゃあ、眠くなるまで三人でお話でもする?」
「いや、明日に備えて眠って体力を回復させるべきかと存じます」
「……つまらない男ね。じゃ、フェーンおやすみなさい。アディ行きましょう」
「行きましょう」
リリーメルとアディは、二人部屋に消えていった。
「私は、何か間違ったことを言ったか?」
一人取り残されたフェーンは、首をかしげた。
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