貴族の役目
宿場町を出てすぐ、街道はある村に入った。宿場町に農産物を供給している農村である。
畑の方から、言い争う声が聞こえてきた。
それだけではない。
農民たちが、農具や武具を手に、闘争している。血を流して倒れている者もいる。
「あ、あれは……」
農民が争う様を初めて見たリリーメルは、言葉を失って立ち止まった。
ピーデは、彼女を無視してそのまま通り過ぎようとする。
「フェーン、ピーデ、彼らを止めてください。民が殺し合うなんて!」
「姫様、それは……」「……」
ピーデは立ち止まってリリーメルとフェーンをひと睨みすると、再び歩き出した。
「ピーデ!」
「何の権限で? 嬢ちゃん、あんたこの村の領主か?」
「なっ……!」
「他人の領民に口出しするなんざ、御法度だろ。あんた何様だ?」
「ピーデ! 姫様に何ということを!」
アディの激高は、ピーデの冷笑に軽々とはじき返される。
「ふん。少なくとも、この村に関しちゃあんたの嬢ちゃんは無力だぜ」
そのとき、農民の一人が一行に近づいてきた。
「おいアンタ、傭兵だな? カネは払う。加勢してくれ」
「ほう、いくら出す?」
「話は後だ。早く来てくれ!」
「カネの話が先だ」
止めるどころか参戦しそうな勢いのピーデ。
言葉を失うリリーメルとアディに変わって、フェーンが前に出た。
「待て、ピーデ! 村に手を出す権限はないんじゃなかったのか」
「嬢ちゃんはな。俺は傭兵だ。村人に雇われるのは何の問題もねえ。カネさえ払うなら何でもやる。アイツら皆殺しにしろってんなら、やってやる。それが傭兵だ。村に雇われて、境界で揉めてる隣の村を襲うことだってある」
「なっ……」
「コイツらも、村ん中の水利権とかで揉めてるんだろうぜ。傭兵でカタぁ付けるなんてよくある話だ」
「農民の争いに傭兵が介入するのか」
「傭兵のほとんどは、こういう仕事だぜ?」
「……」
「そもそもな、この村の領主様、お貴族様は、何やってんだ? 揉め事を収めるのがお貴族様の役目だろ」
「た、確かにそうだが……」
「領主様などと言って威張ってるがな、上級貴族の宮廷に入り浸って領地は家臣に任せっきり。家臣は他の貴族や村から賄賂を受け取って贔屓する。村同士で揉めても見て見ぬ振り。だから傭兵でって話になる」
誰も反論できない。
「税を取る代わりに領民を守るのが貴族じゃねえのか。領地の治安を守るのが貴族じゃねえのか。税だけ取りやがって」
「父上は……父上は領民をちゃんと守っています!」
「嬢ちゃんとこはそうかもな。だが、そうじゃねえところもあるんだよ。自分が見える範囲だけで語るんじゃねえ」
いつの間にか、村の争いは収まってた。皆、ひどく傷ついてうずくまっている。村の中に、何らかの軋轢があったのかもしれない。武器を取って争っているうちに、憎悪が際限なく高まってしまったのだろう。手打ちのきっかけがつかめなかったのだろうか。
相討ち、共倒れ状態だった。
「この村はもう駄目だな」
ピーデは、リリーメルたちと村に冷笑を浴びせると歩き始めた。
リリーメルたちは、何も反論できなかった。




