22話「6課」
天運の檻・22話になります!
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謎の集団による襲撃を受けた翌日。
とある場所で目を覚ました歩は元執行隊員にして戦衛団の一員である絙に助けられていた。
歩は絙の案内のもと、洞窟の中へと進む。
「これは――」
そこには大勢の戦衛団が武器の調整や作業をしていた。
「ここは戦衛団の本拠地だ。
ここなら国衛局にも知られていない。」
絙は歩を席へと案内し、飲み物を渡す。
歩は明の旧友である絙が自分たちに敵意がないことは理解していた。
だが――
「…どうして俺らを…」
「昨晩、俺らも煌環苑に向かおうとしていてな。
そこで君ら二人を見つけたんだ。」
「(二人…?)そうだ…!…良奨は!!」
「大丈夫だ、肩を負傷していたが命に別状はない。
今、ちょうど奥の部屋で休んでいる。」
絙は良奨が休む部屋を指さす。
安堵した歩は落ち着いた表情で絙から受け取った飲み物を飲む。
「迷惑はかけません。
数時間をしたら俺らは出て行きます。」
「あぁ、そうだ。
その話なんだが…」
歩の発言を聞いて絙は昨日の報道を歩に見せる。
そこには国衛局員の死亡事件が大々的に報道され執行隊の全面的な凍結、そして現在本部へと帰還していない執行隊員の捜索を開始している内容のものだった。
その内容を見て驚愕のあまり言葉を失う歩。
「今じゃ君らは国衛局のお尋ね者。
このまま本部へ向かっても拘束されるのがオチだ。」
絙の発言で絶望する歩。
なぜ、自分たちが追われる身になるのか。
襲撃してきたのは執行隊ではないはず。
報道の内容が事実と大きく異なっているものであることに歩は困惑する。
「…なんで執行隊が……」
―そこは何となく予想がつく。―
奥から聞こえてくる声。
声の主は暗菜だった。
「…暗菜さん…?」
暗菜は襲撃のあった夜、歩と蒼に2課の救援に向かうように連絡をしていた。
あの後、暗菜は付近にいる執行隊員の救援に向かったが、どの地点でも殺害された後もしくは捕らわれた後だった。
「襲撃してきた集団は、私たちと同じ服装だった。
仮に襲撃を市民に目撃されても執行隊同士の揉め事かあるいは執行隊が国衛局員を襲っているように見えるだろうね。」
「あぁ。あの報道を市民が見ても疑わないわけだ。」
「けど実際に襲撃を受けたのは執行隊。
そんなことは国衛局が調査したらすぐに気が付く。」
「じゃなんで……」
石川県豊生市。
襲撃から逃げ延びた多糯章を含めた2課の執行隊員と蒼は山奥の森で身を潜めていた。
彼らも歩と同時刻に襲撃者の正体について考えを口にしていた。
そこで多糯章が深刻そうな面持ちで考えを述べる。
「おそらく襲撃した集団も国衛局に所属する者たちだろう。」
霞が怯えながら口にする。
「国衛局に!?
じゃ…私たちの知らない組織が存在するってことですか!?」
戦衛団の基地。
歩は暗菜が口にした国衛局に属する謎の組織の存在について疑問を口にする。
「何のために…そんな組織を…?」
「おそらく私たち執行隊の対抗組織みたいな位置づけなんじゃないかな。
”無人”の執行じゃなく、”執行隊”を執行するための存在として。」
「!!!」
山奥にある森。
加えて多糯章はもう一つ気になることを口にする。
「あの集団の中に知った顔がいた。」
多糯章は自身を最初に襲撃した宮嶋と名乗る女性隊員を知っていた。
「宮嶋 神奈子。
凄腕の殺し屋にして危険等級Aの術式発現者だ。」
それを聞いた周囲の隊員が頭を悩ませる。
「そんな人がなんで執行隊に…」
そんな中で蒼が多糯章になぜそこまで宮嶋のことを知っているのか尋ねる。
すると多糯章は口にする。
「彼女を捕らえたのはこの俺だからだ。」
周囲が凍り付く。
「てことは…」
「あぁ、捕らえた術式発現者が今度は俺らを殺すため秘密裏に国衛局の下についている。」
蒼は何かを察した様子で表情が変わりはじめる。
「!!…多糯章さん…」
「あぁ、わかっている。
危険は承知だが、5課に聞く必要がある。」
執行隊5課。
監視課として国衛局が捕らえた術式発現者を監視する役割を担う。
宮嶋もかつてはそこに収容されていたはず。
国衛局が秘密裏に設立した組織に宮嶋がいたということは直近で宮嶋と同様、術式発現者が収容所から抜き出されている可能性があると多糯章は考えていた。
「とはいえ、問題はどうやって内部にアクセスするか。」
戦衛団の基地。
暗菜の話を聞いた歩はこれからどうすればいいのか尋ねる。
「その組織が動き出したってことは私たちが国衛局にとって禁忌に踏み入ろうとしているということ。それが何なのかを調べる必要があるね。」
「調べるって言ったってどうやって……
俺らじゃ人員が少なすぎる…内部に協力者がいるでもしないと……」
「うん、だからすでに手は打ってある。」
執行隊本部。
そこでは各課の執行隊員が国衛局員の指示により装備品を押収され検査を受けていた。
検査を終え、各自自分の部屋へと戻る。
その中には5課の代表である死空もいた。
すると死空の背後から声が聞こえる。
「死空さん。」
「!?」
振り向くとそこには――
「誰かと思えば君か。悪木くん。」
死空の前に姿を現したのは悪木だ。
「少し話があります。」
悪木は部屋の扉を閉め死空と二人きりの状態を作る。
戦衛団の基地。
暗菜は襲撃を受けた後、すぐに自分の上司である悪木に襲撃のことを伝えていた。
悪木は外部にいる暗菜に情報を回せるようあえて本部を離れず、内部での情報収集に務めることにしたのだ。
「でも国衛局に悪木さんの行動がバレるのも時間の問題。
だから戦衛団を頼った。」
絙はモニターに国内の戦衛団メンバーの位置情報を映し出した。
「暗菜の連絡を受けてから、全国に俺の仲間を派遣させた。
現在、襲撃者の痕跡を追跡中だ。」
襲撃を受けてから数時間。
内部と外部それぞれに情報網を張り巡らせた暗菜の手際の良さに驚愕する歩。
「す、すげぇ…」
「あ、あと蒼くんとも連絡取れてるから。」
山奥の森。
蒼は多糯章に暗菜との連絡を受けたことを伝える。
「5課との接触ですが、すでに暗菜さんが悪木さんに事情を伝え、行動に移しているみたいです。」
「黒崎さんか。さすが藤白露くんの世代だ……」
暗菜と戦衛団との連携を確立させた多糯章は、2課の隊員たちに今後の作戦を説明した。
残された執行隊がすべきことは大きく分けて二つ。
1. 梨江の捜索
2. 謎の集団の特定&捜索
梨江の捜索には傑を含めた数名の隊員に任せ、多糯章は集団の捜索を担う。
情報を整理した多糯章たちは、今の自分たちができることを実行に移す。
戦衛団の基地。
絙を含めた戦衛団と共に装備を整えながら歩に口にする暗菜。
「ここからは時間との勝負。
生き残っている2課と連携して私たちが狩られる前に敵の正体と目的の把握、その背後に潜む存在まで突き止めるよ。」
こうして残された執行隊たちは行動を開始する。
その頃。
とある場所で報道された内容を静かに聞く宮嶋。
周囲には同じく執行隊を襲撃した者たちが装備の点検を行っていた。
すると宮嶋の背後に立つ一人の影。
「上もバカだねぇ、執行隊を失墜させて自分たちは高みの見物気取るなんてなぁ。」
「…何の用だ、九十九。」
宮嶋の背後に立つ九十九。
九十九は短刀を宙に投げながら口にする。
「言わなくてもわかってんだろ?」
宮嶋は九十九の考えを理解した表情で口にする。
「待機しろ。
梨江の捜索は上の判断待ちだ。」
「上だぁ?おいおいバカ言うなよ、アイツらはわかっちゃいねぇんだよ。
梨江の発言1つで自分たちの正体が明るみになることをよ。」
「だとしてもだ。
お前がこうして外の空気を吸えるのは誰のおかげだ?」
「誰でもないね、俺はお前と違う。
助けられても恩義は感じねぇ、俺の人生は俺だけのもんだ。」
九十九は短刀を懐にしまい、宮嶋に背を向ける。
その場を離れようとする九十九に宮嶋が殺気を放つ。
「…独断行動は命令違反だ。」
「やれるモンならな。
けど、俺を殺すってのはそれこそ命令違反だろ?」
宮嶋の殺気を異に返すことなく扉を開けその場を離れる九十九。
その頃。
盲目の少年の家で負傷した身体を癒す梨江。
服を脱ぎ、損傷した核を鏡越しから見つめる梨江。
「…あと数日は掛かりそうだな。」
すると部屋の扉をノックする音が聞こえてくる。
梨江は服を着ると扉を開ける。
扉を開けると盲目の少年が梨江に朝食を手に持っていた。
「おはよ!お姉さん!
今日はね、たくさんリンゴ取れたから食べて!」
「…あぁ。」
少年はテーブルに食べ物を置くと近くの椅子に座り鼻歌を歌い始める。
「食べないの?」
少年が不思議そうに口にする。
梨江は少し間を置いた後、食べ物を口にする。
「どおー?おいしー?」
「…あぁ。」
少年は梨江の返事を聞くと嬉しそうに足をばたつかせながら再び鼻歌を歌い始めた。
梨江は少年の躊躇のない勢いと距離感に無表情ながらも困惑する。
だが、冷静に梨江は今後について考えていた。
「(今はとりあえず傷を再生に専念しなければ。そのためにも……)」
梨江は少年を見つめる。
無人は新鮮な人間の血を欲する。
傷の再生を速めるには食物より人間を喰らうのが最も効率がいい。
だが、ここで少年を喰らえば痕跡が残る。
梨江は身体の調子が戻るまではこの家で静かに過ごし、いずれここを出る際に少年を喰らうことを決める。
その時だった。
「よし!お姉さんもご飯食べ終わったみたいだし!」
「!?」
すると少年は梨江を部屋から無理やり引っ張り出す。
そして家の裏庭へと案内される。
「お姉さんも手伝ってね!」
「なん…だと……?」
少年は梨江に道具を渡し、強制的に庭の作業を手伝わされることになる。
執行隊本部。
死空と二人きりになった悪木は暗菜から聞いた襲撃のことを死空に伝える。
報道や本部で聞かされた内容と異なった事実を聞き頭を抱える死空。
「なんてことだ…
それじゃ今回の件は国衛局自体が関わっているってことかい?」
「襲撃は本部以外にいた執行隊員全員に及んでいた。
内部に敵がいるのは間違いないかと。」
さらに悪木は死空に襲撃者の中に宮嶋と名乗る術式発現者がいたことを伝える。
それを聞いた死空の表情が徐々に深刻なものへと変わっていく。
「そんなバカな…彼女は数年前に実刑が下されたはずだ。
………まさか、彼女を登録から消すため実刑を装ったのか…?」
「そんなことができるのは国衛局の上層部くらいですね。」
二人は今回の襲撃を影から操っている者が国衛局の上層部の誰かであると確信する。
「時間はあまり残されていない。
死空さんは5課で秘密裏に登録を削除された術式発現者を見つけてください。」
「きみは?どうするつもりだい?」
「内部の情報をさらに知る必要があります。
俺は引き続き情報の収集を……」
「いや、危険が大きすぎる。
ただでさえ今の私たちは監視されている状態だ。
そんな時に動くのは…」
「一人、国衛局員に信頼できる人物が。
そこを頼ってみます。」
そう言い残し悪木は部屋を出る。
死空は悪木の身を案じながらも自身も行動に移すのだった。
その頃、少年と庭作業を終えた梨江は静かに少年の動きを観察していた。
見えていない中で僅かな音や気配で物を取り、障害物を難なく避けていく。
かなり慣れた動きだった。
数年程度じゃ到底身に付くはずもないその動きに梨江は無表情ながらも驚いていた。
「(まさか…この少年、流源を使っているのか…?)」
日本国民であれば流源はみな平等に存在している。
それは子供も年老いた者であってもだ。
梨江は少年が微弱だが身体から流源を放ち、周囲の構造物を知覚しているのだと理解する。
だが、それにより新たな疑問が生まれる。
「(どうやって流源を使いこなせるようになった…)」
流源は日本国民に宿るが生まれながら使いこなせる者はそういない。
高等部からは流源の操作が授業内容に組み込まれているが、それでも高等部を卒業した国衛局員や執行隊員ですら日々、流源の操作を訓練するほどだ。
だが、この少年は高等部にすら入学できない年齢。
じゃ一体だれがこの操作を教えた?
考える梨江にとある写真が目に止まる。
そこには少年の横に並ぶ二人の男女が映っていた。
「少年。…親はいないのか?」
梨江が少年に問いかける。
周囲に学校などない田舎町、そんな環境でこの少年に流源の扱い方を教えた人物は親しかいないと梨江は推察した。
だが、その考えは少年の返答ですぐに覆った。
「少年じゃなくって、颯大だよ!
お父さんとお母さんはもう何年も帰ってこなくて…」
「なに…?」
颯大の話では以前は目が見えていたとのこと。
だが次第に視界がぼやけるようになり、ついには視力を失ってしまった。
その後、両親は出かけると言い残し家を出てついぞ帰ってくることは無かった。
それから数日、数か月が経過し、突如周囲のものを知覚できるようになり今の状態にあると。
颯大は訓練ではなく自ら独学で流源を使いこなしていたのだ。
梨江は颯大の話を聞き、彼の明るい笑顔の奥に両親の帰りをいつまでも待ち続ける孤独が垣間見えていた。
颯大は椅子に座って俯く。
「でも、もうお父さんとお母さんが帰らなくなってからもう1年くらい経ってるからもう帰って――」
「いや、帰ってくるさ。」
梨江が颯大の発言に被せるように口にする。
そんな彼女は棚に置かれた颯大の両親が書き留めていた日記を手にしていた。
周囲を知覚できていても文字までは読み取ることができない颯大にとっては無いも同然のものだが、そこには両親が家を出た日に向かった町の名前が記されていた。
「(佐々見町。隣町か。)」
梨江は日記を懐にしまう。
そして颯大に勘付かれぬよう口にした。
「今日はもう遅い。続きは明日だ。」
颯大が寝るのを確認すると梨江は透明化の異術を発動し、気配を断ちながら家を出る。
梨江の捜索を始めた傑を含めた4人の執行隊員。
そこには傑の弟である勇翔の姿もあった。
勇翔は傑の背中を見つめながら不安そうな表情を見せる。
すると傑が歩みを止める。
「ここだ。」
小さな町に到着した傑たち。
傑に同行した他の執行隊員が傑になぜこの町に向かったのか尋ねる。
数時間前。
梨江の捜索を開始した傑たちは煌環苑跡から少し離れた道端で血痕を発見していた。
―これは…―
―煌環苑から続いているな。おそらく梨江の血だ。―
―で、でも血痕が薄れていってる…―
―異術で痕跡を消した?―
―いや、ちがう。
血痕の薄れはおそらくは核の再生途中からくるものだ。 となれば……―
傑は2課の隊員でありながら索敵に適した術式は所持していない。
そんな彼がなぜ2課に配属されているのか?
それは並外れた洞察力が故の情報収集力の高さだった。
人を喰らえば無人の傷は大幅に回復する。
そう考えた傑は付近にある佐々見町に到着していた。
傑たちはすぐに住人に自分たちの正体が気づかれないよう服装を変え、町を調査する。
一通りの少ない真夜中、傑たちの横を通り過ぎる帽子を被った女性。
その女性のに僅かな息切れに違和感を感じる傑だが、すぐに意識を切り替え調査を続ける。
とある民家に到着すると帽子を被った女性が民家の窓から部屋の中を覗く。
中では書斎らしき場所で机に向かって真剣な表情を見せる男性がいた。
「あの男か。」
日記を手にそう口にする梨江だ。
梨江は佐々見町で颯大の両親をついに見つけたのだ。
異術を使用し、気配を断ちながら家へと侵入する梨江。
日記には颯大の両親は元国衛局の研究員だったことが記載されていた。
国衛局では流源の研究に没頭し、いずれは訓練せずとも流源の操作を行える新薬の開発に取り組んでいたそうだ。
そのためか部屋には研究資料、薬品、実験器具といった外観は普通の家でも家庭の温かみを一切感じなかった。
書斎で颯大の父親であろう男のもとに颯大の母親らしき女性がやってくる。
二人の会話を聞く梨江。
「新しい被験体は見つかったか?」
「いいえ、まだよ。
何せ適応率が低すぎる。」
「…チッ…やはり我々の遺伝子を持つ者に限られるか。」
「そう考えると颯大の個体値は惜しかったわね。」
「あぁ。新薬の副作用で視神経さえ焼かれなければ、効果が現れなくとも使い道がまだあったんだがな。」
―貴様らが、颯大の親か。―
部屋から聞こえてくるはずのない声。
透明化を解き、部屋の暗闇に立つ梨江。
その声に颯大の母親が振り向く。
「ッ…!?」
「……誰だ?………うぐっ!?」
颯大の父親が反応する間もなく胸倉を掴む梨江。
帽子を脱ぎ、颯大の父親に自身の姿を見せる。
そして梨江はこれまで静かに燃やしていた怒りを解き放つ。
「貴様らッ!!
どうすればッ!どうすれば自分の子にそんな真似ができるッ!!!
あの子は!!颯大は今も!貴様らの帰りを……!!!」
なぜ、あんな優しい少年に対しこんなことが言えようか。
自分たちのエゴによって視力を失い、家を出た両親を懸命に待ち続ける颯大を思い返し、激しい怒りと同時に涙が溢れる梨江。
しかしそんな梨江に対し颯大の父親からは衝撃的な発言が帰ってくる。
「いったい何を怒る理由がある?
私たちの人生をかけた研究を台無しにしたんだぞ?
それなのに廃棄せず、家まで残したんだ。颯大には感謝されたいくらいだよ!」
「廃棄…だと…」
梨江の感情にさらに怒りが込み上がる。
だが、梨江の脳裏に両親の帰りを待つ颯大の表情を蘇る。
父親から手を離す梨江。
床に倒れる颯大の父親を母親が抱える。
そして母親が梨江に向かって口にした。
「あなた…颯大のことを……
ということはまだあの子は生きているの?」
梨江は二人を睨みつけながらもその問いに答えた。
「あぁ。」
それを聞いた両親が互いに顔を見合わせる。
そして――
「あなた!なら回収できるわ!」
その発言に梨江の瞳が揺れる。
そして思わず声を漏らした。
—…は……?―
その場の空気は梨江を取り残し、両親の会話だけが流れ始める。
「まだ生きているとは…まさか!…流源の操作が…!?」
「きっとそうよ!私たちの研究は実ったのよ!
仮に不完全だとしても失明後の経過観察として使えるわ!」
「ははっ!すごいぞ!!
なら、今後は脳と視神経の状態も考慮しないとだな。
さいあく、眼球だけでも新鮮な状態で回収できればまだ改良の余地がある!!」
「もっと多くのサンプルが必要ね……あなた眼球だけじゃダメよ。
颯大の生殖器も回収する必要があるわ。」
梨江の呼吸が荒くなる。
自身の耳に入ってくる言葉が梨江の思考を徐々に破壊していく。
「流源を誰でも使えるようになれば、新たな時代が来るぞ!」
「颯大も役に立てて喜ぶはずよ。
僕の身体を研究のために使ってくれてありがとうってね。」
「あぁ、あの子は元々、私たちの研究のために産んだのだからな。」
そしてついに梨江の思考が止まる。
内で抑えていた何かが崩壊する。
梨江の存在を無視できるほど、自分たちのことに夢中になりだす颯大の両親を見て、今の梨江には目の前の人間が人の皮を被った怪物にしか見えていなかった。
すると颯大の父親が梨江の方を向き、嬉しそうに口にする。
「ありがとう!君のおかげで私たちの大義は成し遂げられそうだ!
いきなり家に侵入したことも、もちろん許すとしよう。」
「あなたの名前を聞かせてくれる?」
梨江の表情は変わることは無い。
だがその瞳には何かを決意したかのような力強いものだった。
そして無表情ながら口にした。
「…対無人執行部隊、6課に属する者だ。」
「6課?聞いたことないな。
執行隊はたしか5課までじゃ――」
「貴様らは……人の親になる資格などない。」
そう口した途端、部屋の明かりが消える。
その瞬間は町中の誰にも悟られることはなかった。
翌朝。
家で梨江を探す颯大。
「気配がない…お姉さん、どこだろ……」
すると家の扉が開く。
そこには梨江の姿が。
颯大はすぐに梨江だと気が付くと彼女のもとに近づく。
「あれ?出かけてたの?」
「…あぁ。」
颯大には梨江の表情はわからない。
だが、流源による感知でどこか彼女が悲しそうにしているのを察する。
「お姉さん、どうかしたの??」
「…何でもないさ。」
「…??…じゃ、じゃさ!今日は庭作業はやらなくていいよ!」
なぜ梨江が悲しそうにしているのかわからない颯大は気を使いだす。
それを見た梨江の表情が僅かに緩みだす。
「きみは…本当に優しいな。」
「え??……って…う、うわっ!?」
すると梨江が優しく颯大を抱きしめる。
そして颯大の耳元で優しく話しかける。
「颯大は、寂しいか?
親が帰ってこなくて。」
それを聞いた颯大の表情が年頃の少年のような幼いものに変わり始める。
「…うん。」
「私が君のもとにいれば…少しでもその寂しさを取り除く手助けになれるかな?」
颯大が目を見開いて表情を変える。
「…一緒にいてくれるの??」
「私じゃ…颯大の親にはなれないが、君の人生が寂しさより楽しさで満たされるよう私が守ると誓おう。」
颯大の白く濁った瞳から涙が溢れる。
そしてまるで母親に甘える子供のように梨江の胸に顔を埋める。
そんな颯大を優しく抱きしめる梨江もまた涙を流していた。
「ありがとう。お姉さん。」
「梨江だ。それが私の名前だ、颯大。」




