残念だ
みのるたちが去った後。
「ふふふ、いい勝負になるといいね」
スデリコは得意げに笑う。
「ヴゥゥゥ…」
タラクスが低く唸った。
地面がわずかに揺れる。
スデリコは一歩踏み出すと、落ち葉や小枝が足元で粉々になった。
その目には冷静さと、戦いを楽しむ光が宿っている。
タラクスが大きく前脚を振り下ろす。
「グォォォッ!」
地面に衝撃が走り、森の木々も小さく揺れた。
スデリコは横に交わした。
前脚の一撃は、スデリコの体をかすめることさえできなかった。
すぐに反撃。
スデリコは片手を前に突き出すと、気の刃がタラクスの胸の中央、厚く硬い鱗の合間に直撃した。
「ガキンッ!」
鋭い音が森に響き、衝撃でタラクスが一瞬体を揺らす。
鱗が割れたわけではないが、表面に深い傷が走り、光が裂けるように反射した。
タラクスは低く唸りながら後ずさる。
背中の鱗が光を反射し、鋭い唸り声をあげた。
「ギャオオ!」
森の空気は張り詰め、落ち葉が舞い上がる。
風が戦いの熱気を運ぶ。
スデリコは冷静だ。
タラクスの攻撃は強力だが、横に交わしながら次の隙を狙う。
再びタラクスが咆哮する。
空気が裂けるような音に、森全体が静まり返った。
スデリコは体をひねり、次の一撃を狙う。
タラクスの胸の傷を踏まえ、今度は左側の脇腹に手を伸ばす。
「ガキンッ!」
硬い鱗の間に再び深い傷が走る。
森に緊張が充満する。
次の瞬間、さらに大きな動きが起こりそうだ…。
スデリコは大きく息を吸った。
体に魔力が集まり、周りの空気がわずかに震える。
森の葉も、そよそよ揺れた。
「伝承に伝わる生物がこの程度とは、残念だよ」
一気に前に踏み込み、拳に全力の魔力を込める。
タラクスの胸に向かって放たれた拳は、まるで岩を打ち砕く力だった。
「ドゴォッ!」
地面が揺れ、落ち葉や小枝が舞い上がる。
タラクスの体が宙に跳び、重力に引かれるように地面に叩きつけられた。
それと同時に、周りの木も風圧で吹き飛ぶ。
咆哮も止まり、森は静かになった。
スデリコはゆっくりと拳を下ろし、倒れたタラクスを見下ろす。
胸の硬い鱗の間に深い傷が入って、光がチラリと反射している。
「残念だ」
呆れたように肩をすくめ、スデリコは真顔になる。
そして、風のように姿を消した。
消えた後も、空気が少し揺れて残像のように漂っている。
森には静けさが戻った。
落ち葉がゆっくりと舞い落ち、わずかな風が吹き抜ける。
倒れたタラクスの胸が、微かに光っていた。
深く傷ついたはずなのに、かすかな脈が動いている。
まだ完全には終わっていない――ほんの少しだけ、次の展開を予感させる。
森の中に、戦いの余韻と緊張が残ったまま、風が静かに揺れていた。




