過保護
「なら、いつも通りゴブリン探してセリウスが倒すの?」
「それが一番安全だと思うよ」
確かに、それが一番安全だ。
でもゴブリンばっか狙うのも大変だし、そもそも見つからない。
多分こいつ、少し焦ってるな。
「セリウス、気楽にね」
そう言うと、セリウスは一瞬だけ驚いたように目を見開いた。
木の間からの光がその瞳に反射して、一瞬きらりと光る。
そのまま、歪んだ顔を直して、優しく笑う。
「意外と鋭いんだね…」
少し困ったような表情。
笑顔に混じる影が、ほんのわずかに見える。
「別に一人で背負い込まなくていいんだよ」
「頼れる仲間も少なからずいるんだし。カルコスとか僕とかね」
決まったぜ、この“いい奴感”を出すための技術。
「うん、そうだね! 気楽にいこう!」
セリウスはそう言って、いつもの笑顔を作る。
けれど、その口元はほんの少しだけ引きつって見えた。
それにしても、最近はセリウスと話すことが多いな。
今だって、たくさん歩いた後に、並んで木にもたれかかって休憩してるし。
そのおかげで、なんとなくセリウスという人間がわかってきた。
まず、とても真面目。
そしてかなり優秀。
何より、とにかく過保護。
僕たちみたいな、最近会ったばかりの奴らですら、驚くほど気にかける。
戦闘は大体セリウスがやっているし、一人一人をしっかり観察して、疲れてそうな人がいたら休憩を入れる。
獲れた食料も、大体自分以外の人たちに分け与える。
自分は言われない限り、ほとんど食べない。
はっきり言うと――“優しい異常者”だ。
ゴブリンの捌き方を知っていたから、今はゴブリンばっか食べて、それ以外の生物は食べない。
あとは果実とか。
「そろそろ休憩終わろうか」
「もう終わるのー?」
ヒュブリスが、ふてくされた顔でいつも通り文句を言う。
「ほら、早く行くよ」
セリウスは強く言えないので、僕が代わりに注意する。
「はあ…わかったわよ。まったく、もっと休憩させなさいよ」
よくない言い方をすれば、ヒュブリスは多分文句を言うことを楽しんでる。
正確には、文句を言うことでストレスを発散してる。
それは、普通のことだ。
むしろ他が異常。
森でのサバイバル。
魔法は使えるとはいえ、まだ未熟。
しかも、普通の森じゃない。
森の夜ってのは、みんなが思っているよりずっと怖い。
あの嫌な静けさ。
本当に生き残れるのかという不安。
いくらセリウスが気を使って、みんなが苦しまないように努力しても、誰一人逃げ出さず、発狂もしないのは異常だ。
「ねえ、なんでいつも隣にくるのさ?」
僕たちはいつも二列で歩いている。
隣の人は別に決められていない。
でも、僕が一番後ろに行くと、必ずヒュブリスもついてくる。
「なによ…/// 別にただ後ろが好きなだけ」
つい、顔が緩んでしまう。
久々のツンデレ。癒される。
最近はあんまり喋ってなかったからね。
やっぱり僕が話し続けられるのはアニメの話だけ。
でも、この世界の人にはアニメは伝わらないから会話が続かない。
愛のあるツンデレは、やっぱり最高だ。




