悪口選手権一位!
僕は少し笑って、わざとらしく聞いたみた。
「もしかして、照れちゃってるのかな?」
「は、はあ!? そ、そんなわけないでしょ?!」
ヒュブリスは顔を真っ赤にして、指でくるくるいじっていた髪をふんっと払いのけた。
「それはどうかな?」
僕は少しニヤリとしてそう発した。
「も、もう、なんなのよ全く…///」
「ねえ」
「ん?」
僕が笑顔で振り返るとそこには鬼が居た。
「なんでヒュブリスちゃんとイチャついてるのかな?」
イロイダは足踏みをして明らかにイラついた様子でそう言う。
「え、あ、いや、別に…」
「あんただってさっき、みのるとイチャついてたでしょ!」
僕が返答に困っていると、ヒュブリスが言い返してくれた。
なんか、立場が逆になっている気がするが気にしないでおこう。
「そ、そうだそうだ」
「あらそう、イチャついてたことを認めるのね?」
「だ、誰がこいつなん────」
「それはない」
僕は急に真顔になり、そう言い切った。
「誰が好き好んで、あんな強欲で、自己中心的で、他人の気持ちを一ミリも考えずにしゃべるポンコツ爆弾みたいな女と、イチャイチャしたいと思うのさ。まずあれでしょ? ちょっと機嫌が悪いとすぐ“ふんっ”とか言って腕組んでそっぽ向くくせに、こっちが本当に無視するとチラチラ見てくるし、めんどくさいことに関しては『別にあんたがやれば?』って他人に押しつけるくせに、結果が悪いと『あんたのせいよ!』って全責任を押しつけてくる、責任転嫁界の覇王。そしてツンデレって肩書きに甘えてる自覚あるだろ、絶対。“ちょっと素直になれないだけの可愛い女の子です”みたいな顔してるけど、いやいや違う、そもそも素直になる努力をしてないし、周囲の寛容さに全振りしてるその姿勢、ナチュラルに他人の好意を燃料にして走るダンプカーなのよ。あとさ、言葉選びのセンスが絶望的に悪い。人を煽る時だけやたらボキャブラリー豊富になるのに、謝るときは『べ、別に悪くないけど?』って何だよその詭弁。謝ってないじゃん。逆ギレじゃん。そしてその態度、明らかに自分で“ウザ絡みキャラ”として成立してると思ってるでしょ? してないから! みんな我慢してるだけだから! で、たまに見せる優しさが唐突すぎて、こっちが『え? 何? 今日死ぬん?』って構えることになるし、そのくせ『別に助けたかったわけじゃないんだからね!』とかテンプレ台詞かましちゃって、“あ、こいつ本気で自分のこと漫画のヒロインだと思ってるな”って痛感するんだよな…。あと人の話聞いてない。三回同じこと言ってるのに『え? そうだったの?』ってなる。いや、聞いてろ! なんで耳だけ別次元に置いてきたんだよ。しかもあいつ、自分の機嫌が良い時だけやたら距離近いのに、こっちが少しでも調子乗ると秒速で突き放してくるだろ? あの手のひら返しの速さ、もはや風速38メートル級。どこに住んでんの? 台風の目? って感じ。それでいて他の女と仲良くしてると『別に…どうでもいいけど』とか言ってんのに、口元だけはキュってなってて明らかに不機嫌モード突入してんの、バレバレなんだよね。挙句の果てに、僕がちょっと返事を曖昧にしただけで『はあ!? 』とか言って切れてきて、もうこの世の理不尽を濃縮還元した存在だと思ってる。ヒュブリスって名前、たぶんギリシャ語で“神への傲慢”って意味だったと思うけど、マジで体現しすぎててむしろ清々しいよ。強欲で、気分屋で、自己陶酔型で、情緒不安定で、他人への共感能力が偏差値2ぐらいで、根はちょっとだけ優しいとかいう面倒な属性まで持ってるし、もはや“攻略キャラ”じゃなくて“ラスボス”なんだよね。それに─────」
「ちょ、ちょっと」
「ん?」
なぜかイロイダが焦ってるぞ?
ヒュブリスは、僕の一方的な言葉の連撃を受けて、しばらくその場に立ち尽くしているようだ。
口を開こうとして、何かを言い返そうとして――けれど、声は出ないようだ。
「そう。そっか……」
ぽつりと、それだけを残して彼女は静かに背を向ける。
あ、あれ? も、もしかしてやらかした?
ふらふらとした足取りで、周囲の誰にも目を合わせず、彼女は一人、影の方へと歩いていく。
「なんで…なんで…、そこまで言わなくたっていいじゃない…」
あ、あ、やばい、やばい。
周りの視線が…。
僕は人生で悪口を言われて傷ついたことが全くなかった。
なにも心に響かなかったのだ。だからわからなかった。
ヒュブリスは笑って「なんか途中、憶測入ってない?」ってツッコんでくれると思った。
どうしよう。




