いや、渋滞しすぎ
そして自己紹介は何も言わない者もいたが、一通り終わり、本格的に作戦会議が始まった。
「一週間生き残るなら、食料の確保が重要だね」
「ああ、まずは食料が基本だな」
カルコスがそれに同調するように頷く。
「でも、そんなことをしてる間に魔物に襲われたらどうする?」
一人の男子生徒が不安そうに声を上げる。
どこか遠くで鳥の鳴き声が聞こえ、空気が一瞬ひんやりした気がした。
「そう、問題はそこだ」
セリウスの視線が鋭くなった。
「あんたがなんとかしてくれるんじゃなかったの!」
ヒュブリスは納得がいかない様子で、セリウスに対して強めに言う。
その顔には焦りと怒りが入り混じっていた。
「そうは言ったんだけど、魔物にも強さがある。ドラゴン系統の魔物とかが出てきてしまうと、おしまいだ」
「でもそれじゃだめだ。来たらおしまいではなく、来ても大丈夫なようにしなければならない」
「だから、腕に自信がある人は言って欲しい!」
「…」
誰一人として手を挙げず、森の空気が張り詰める。
湿った風が一陣吹き、落ち葉が地面を滑った。
「ふふ! ふふふふふ!!」
突然、一人の生徒の笑い声が空気を裂いた。
高い声が森に反響する。
「いや〜、君たち、誰一人手をあげないなんて臆病だね!」
「僕の俺の私の私くしの同級生にふさわしくない!!」
えぐ〜!! くせ強!?
キャラが渋滞してるよ!
「ふふ!」
「この程度にビビるなんて相当弱いと見た!!」
そう言って、僕たちを馬鹿にしたように高笑いする。
「静かにしてくれませんか?」
その時、さっきから気になっていた小柄な男子生徒が、冷静な声で口を開いた。
風が止み、虫の鳴き声すら遠くに消えた気がした。
「ん?」
「君も、作戦会議とかしてる人達も、全員静かにしてもらえますか。……殺害しますよ?」
声を荒らげることなく、まるで当たり前のようにそう口に出す。
やっぱり僕の予想通りやばい奴だな。
さっきから一人でニタニタ笑ってたから、かなりやばい奴だとは思ってたけど、さらに急に無表情になってこんなこと言い出すんだから、普通じゃないよな。
これは偏見しかないけど、しかも前髪で目が隠れてる。
「中々、骨がありそうだね!」
「ちょっと待ってくれないかな?」
そこに、さっきまで戸惑っていたセリウスが、冷静さを取り戻し、口を開く。
その声には、はっきりとした意思が込められていた。
「まず、そこの小柄な君。うるさかったなら申し訳ない、謝罪する。でもこの会議は、みんなが生き残るためにやってる会議なんだ」
「君だって一人でこんなところに一週間もいたら、死んでしまうかもしれない」
「だから、できることなら協力してほしい。そして、協力ができないと言うならば、申し訳ないけどこの場から去ってもらいたい」
「思っていたより、はっきり言うのですね。まあ、そういうことであれば、私が去りましょう」
「……あ、そういえば」
「私の名前はピスティオです。それでは」
ピスティオは何事もなかったように立ち上がり、森の奥へと姿を消していく。
「ふー…」
空気が少しだけ軽くなる。
「そして次にあなた。あなたもピスティオさんと同じで、協力してくれるなら協力してほしい。でもそれが叶わないのであれば、申し訳ないけどこの場から去ってほしい」
「う〜ん、本当だったら今すぐにでもこの場から去ってあげたいところだけど、さっきピスティオくんが去るという選択をしたからな〜」
「このまま去ってしまうと、ピスティオくんとパターンが被ってしまって面白くないなぁ」
正直その気持ちは結構わかる。
「だから」
「少し暴れていこうかな」
その瞬間、木々の隙間から吹き込む風の音が、まるで戦いの始まりを告げる鐘のように聞こえた。




