魔物討伐
言われるがままについていくと、魔方陣のようなものが床に描かれている部屋に連れて行かれた。
空気は冷たく、部屋の奥には青白い水晶がいくつも並び、静かに光を放っている。
そのままビノラが、壁に設置されたボタンのようなものを無言で押す。
すると魔方陣が淡い青色に光り始め、部屋の空気が急にピリついた。
「え!? ちょ! どういう状況!?」
一人の女子生徒が、目を見開いてそう叫ぶ。
床の魔方陣はさらに強く光り始め、その光が視界全体を包んだ。
まるで意識がふっと浮いたような感覚。
瞬間、全身が一気に押し流されるような違和感とともに、僕らの身体は光に包まれた。
目を開けると、そこは深い緑に囲まれた森だった。
遠くで鳥のような鳴き声が響き、空気はひんやりと湿っていた。
「どこ…ここ……」
一人の生徒が、声を震わせながらつぶやく。
「ここは魔物が出る森だ。そして今使ったのは、転移魔方陣だ」
ビノラが、あくまで当然のようにそう説明する。
「それでは早速、魔物討伐を始める」
「五人一組でペアを組み──」
「いや、やっぱりやめた」
「好きにしろ」
「それではさよなら。また一週間経ったらここに戻ってくる。それまで頑張って生き残れ」
「は?! ちょっと待って!」
女子生徒の悲鳴のような叫びが森に響いたが、ビノラはすでに転移魔方陣に乗っており、そのまま消えてしまった。
「はぁ!? これからどうしろって言うの!?」
パニック気味に叫ぶ女子生徒の声が、森に虚しく響く。
「ここは全員で協力して生き残るしかないよ」
一人の真面目そうな男子生徒が、落ち着いた声でそう言った。
その男子生徒は間髪入れずそのまま話し始めた。
「僕の名前はセリウス。これからよろしく」
「それじゃあまず、作戦会議だ!」
「なに急に! 作戦会議って言っても、モンスターに襲われたらどうするのよ!!」
少し尖った印象の女子が、苛立ったようにそう返す。
「そうだね、その時は……とりあえず僕が対処するよ」
「魔物を一匹倒せるくらいには魔法が扱えるからね」
「は? 喧嘩売ってるわけ!?」
女子は眉をひそめて、すごむように言う。
「ご、ごめん! そういうつもりはなかったんだ!」
「やっぱりあんたさっきから喧嘩売って────」
「あ、あの……」
小さな声が会話を遮る。
「ん?」
生意気女子が、不愉快そうに声の主を見る。
「まずは落ち着いて、全員自己紹介しませんか?」
その声は、いかにも人と話すのが苦手そうな、小柄でおどおどした女子から発せられた。
「は?」
「黙れよ、インキャ!!」
ピシャリと罵倒の言葉が飛んだ瞬間、
「おい!!」
低く響く男の声が、森の空気を揺らすように割り込んだ。
屈強な体格の男子生徒が、静かに前へ出る。
制服の袖からのぞく筋肉が、常識外れの体格を物語っていた。
いや…こいつ、本当に同級生なのか!?
「な、なによ……」
女子は一瞬たじろぎながらも、睨み返す。
「俺の名前はカルテリコス。カルコスと呼んでくれ」
「お前は!」
「私はヒュブリスよ!」
「そうか、良い名前だ!」
彼は豪快に笑い、拳を軽く握った。
「この流れで全員自己紹介をしよう!」
「はい、次お前!」
おお! うまくまとめあげたな。
そのまま順番に生徒たちが自己紹介をしていく。
そして、ついに僕の番になった。
「え〜と、僕の名前はみのるです。魔法が得意とかそういうのは、特にありません」
「……」
滑った……というか、無反応。
「私の名前はイロイダ・ベネッチィアです!」
「私もみのるさんと一緒で、特に得意なことはありません! これからよろしくお願いします!」
「「おぉー?」」
は? なんか僕の時と反応違くね?
まぁいいや。
ていうかこいつら、これから本当にどうやって生き残るんだろう……?




