洗脳
今のところ作戦はかなり順調だ。
「さよなら」
「……」
ヒロインちゃんがそう言うと、ペルソナは容赦なく魔法を撃った。
ビィンと空気が振動し、鋭い音を立てて放たれたそれは、真っ直ぐに彼女を襲う。
ほんと冷徹だなぁ!
「さようなら…私…」
そろそろ僕の出番のようだ!
結構緊張するな〜、ちゃんと演技できるかな?
「ヤ、ヤメロォー!!(棒)」
「うわっ!!」
「諦めちゃだめだ!!」
僕が叫ぶと、誰もが驚いた顔でこちらを見る。
「あなたは隣の席の!」
「なんであなたが…」
「あなたは僕を助けてくれた! だから次は僕が君を助けるヨ!」
やべ、ちょっと声裏返った。
声が震える。けれど、目だけは真っ直ぐにヒロインちゃんを見ていた。
「なんで! あなたも死ぬわよ!!」
「それも悪くない!」
「なんで…どうして…私なんかの為に……」
ヒロインちゃんの目に涙が浮かぶ。
「無愛想で、特技もなくて、平凡で、価値がなくて、私が死んだって、誰も悲しまない! そんな私をなんで助けるの!!」
その叫びは、胸の奥から絞り出すような声だった。
「君は僕を助けてくれた! それに僕は君が死んだら悲しいよ…」
お! 上手く言えた! まあ、本当にちょっとは感謝してあげてるんだからね! ふん!
「……」
静かに、彼女は嗚咽を噛み殺すようにして俯いた。
「ありがとう…」
「そうね! まだ諦めるには早いわね!」
僕がそう言うと、ヒロインちゃんはそう言って、服の袖で涙を拭う。
「うん!!」
はい〜! 勝利!
やっぱアホだな! アニメキャラは!!
こういうすぐに洗脳できそうなところがいいんだよね。
「意見がまとまったようだね。それじゃあそろそろ追撃してもいいかな?」
ペルソナが口角を上げながら、悠然と構える。
「頼めばやめてくれるわけ?」
「そうだね、言い方が悪かった! 殺すよ!!」
そう言って、ペルソナはまたヒロインちゃんに向かって炎魔法を撃った。
直線的に伸びる火炎ビーム。その外側を、紅蓮の炎が渦を巻くように回っている。見る者に本能的な恐怖を与えるほどの威圧感だった。
ヒロインちゃんがその攻撃を、普通にもろに受けそうになっていたので、僕が押し倒して助けた。
「くっ!!」
「危ねー!!」
熱が肌を焼くように感じられた。
「大丈夫?」
「う、うん」
全く、ちゃんとしてほしいよ。
よし、ここで僕のセリフだ。
「おい! ペルソナ!! 交渉しよう!」
「交渉?」
「ああ。お前の望む物を何でも渡すから見逃してくれ!!」
「それは君たちの命さ!! と言いたいところだけど、そんな意地悪なことは言わないであげるよ」
うわ! 一瞬ペルソナが僕を裏切ったかと思ったよ!
あいつ演技うますぎだろ!
「本当に何でも渡せるのかい?」
「ああ!」
「なら、私は君が欲しいね!」
「エ?! ボク!?」
「ああ。勇敢に女の子を守る。実にかっこいいと思ってね」
「そ、それはダメ! それならせめて私にして!!」
「なんでも渡すのではないのか?」
「そうだよ。僕は大丈夫だから」
「でも!」
「ペルソナ! 命は保証してくれるんだろ?」
「もちろんだ! なんならちょっと借りたらすぐ返すさ!」
「だってさ?」
「でも、やっぱり私達を殺そうとした人を信じるなんて無理だよ!」
「でも交渉に乗らなければ、僕達はどちらも死ぬんだよ?」
「だけど!」
「わかった! なら僕を信じてよ!」
「え?…」
「やっぱり僕なんか信じられない?」
「そんなことはない!!」
「なら、決まりだね」
「その言い方はずるいわよ……」
うん、何かわからんけどめっちゃいい感じ!!
これは勝ったわ。
僕はペルソナに同行した。
「ナイスー!!」
僕はペルソナとハイタッチした。
「最初の方はどうなるかと思ったけど、なかなか君も演技がうまいね?」
「まあね!」
ふふん! ペルソナに褒められるなんていつぶりかな?
「いや、君が変なことを頼んでくるからびっくりしたよ」
「これも僕の策略の一つさ!」
「君がいいならいいのさ」
そう。うすうす大体の人が感づいていると思うが、この作戦は――
ヒロインちゃんをペルソナに襲わせ、それを僕が助ける。
そして僕は、優しくて勇敢な人だとヒロインちゃんは勘違いする。
そうして僕に惚れるということだ。
我ながら完璧な策略だ。
まぁ、僕をクズだと言う人は多いだろう。
だが、これはしょうがないことなのだ!!
なぜなら、僕はこんな性格だから本当にモテない!!
だから、これはしょうがないのだ!
まぁ、その結果成功したんだ。
結果オーライだ!




