死
なんて言ったりはしない。もちろん、抗う。
確かに、変な死に方はしたくないっていうのは本音。でも、それは前の世界での話。
あの世界は、本当に退屈だった。
魔力もないし、モンスターもいない。
僕がどれだけ鍛えようと、すべては「普通」で終わってしまう。そんなの、つまらないに決まってる。
死んだって、どうでもよかった。
でも今は違う。まるで全部が変わった。
僕は、全力で生きる。
どれだけ格好悪くても、どれだけ恥をかいても、ここで死ぬなんて絶対に嫌だ。
「さよならーーっ!」
叫びながら、僕はゴブリンとゴブリンの間を突っ切った。
風を切る音、草を踏みしめる感触、背中に焼けつくような視線。
一瞬、ゴブリンの鉤爪が横腹をかすめた。
「ッ……ぐ!」
皮膚が裂けた感覚と同時に、熱い痛みが走る。でも、止まらない。
振り返らずに走り抜ける。
どうやら、ゴブリンたちは意外にも追ってこなかった。……いや、もう食料は十分あったんだろうね。
クラスメートのことを考えると、ちょっとだけ複雑だ。
……まあ、正直僕は、そんなに感情が動かない。
驚いたのは確かだけど、「死んでかわいそう」なんて感覚は特になかった。
だって、今は僕のことで精一杯だから。
問題は、この傷だ。触るとまだ血がにじむ。
深くはないけど、放っておけば死ぬかもしれない。
「まずいなぁ…」
心の中で何度もつぶやいた。
とりあえず、歩こう。歩きながら考えるしかない。
「これから、どうすればいいんだろうね」
誰にでもない声をかけながら、僕は草原を抜け、森の縁へ向かって歩いた。
日差しはまだ高く、風は少しだけぬるい。
足の裏に小石が当たって痛い。さっきまでの浮かれた気分なんて、もう影も形もない。
僕は、孤独が苦手だ。わかってたことだけど、今、それが痛いほどわかる。
それでも、一人で歩くしかない。
ーー二時間ほど歩いただろうか。
森が見えてきた。
木々の間から漏れる風の音と、鳥の声。草原とはまったく違う空気の匂いが漂ってきた。
「あ」
思わず声が出た。
そして、ひとつの考えが閃いた。
「これだー!!」
その瞬間、僕の中に希望が差し込んできた。