突然の申し出
再度、王位指名の儀を行った結果、エイデン家、ビイデル家、シーノック家は、ブルー皇子を推挙した。
この時点で王位指定は決まったが、一応ディングル家の代表カンジャインにも問われた。
そして彼は棄権という選択をした。
「さてと、ということは俺は即位はまだでも王としての権利を執行できる。そうだな、デルフィン」
「そうだね。仮の王って感じだね」
「ではデルフィン。お前を俺の宰相に指名する」
「いきなりですか?」
「不服か?」
「いえ、謹んでお受けします」
あらあら。
急展開だわ。
てっきり即位してからだと思っていたのに。
「近衛騎士団長」
「はっ」
「第2側室の一派を拘束せよ。第2側室の部屋も捜索を命じる。それとディングル家の捜索を第1騎士団に命じろ」
「御意」
あらあらあら。
第2側室の方々がうなだれて連行されて行ってしまった。
「デルフィン、信用できる者を至急登用し、奴らの調査を命じろ。特にミネエ王国との繋がりについてはしっかりと調べさせよ」
「了解です。この前話したメンバーでいいよね?」
「任せる」
「分かった」
デルフィン皇子は頷くと列席している貴族の中から3名を選ぶと彼らに何かを命じていた。
もう決めていたのね。この王位指名の儀の後の動きを。
「カンジャイン。お前にも調査が行われる。それまで自宅で謹慎だ」
「分かった」
絞り出すようにカンジャインが言った。
「さてと」
ブルー皇子が、いえ、ブルー次期王が私の前に立った。
「アノ」
「は、はい」
何か叱られるのかしら、私も。失礼な物言いに心当たりがないわけでもないわ。
「俺の悪行の裏側を見事に暴いて見せた手際、見事だった」
「あ、はあ、まあ、ありがとうございます」
なんだか拍子抜けだわ。褒められるなんて。
まあ、そこについては思うところはあるけれど。
そしてブルー様は私の前に跪いた。
え?
は?
何?
「アノ、俺の妻になれ」
え?
は?
なんて?
「はい?」
私が思わずそう言うと、ブルー様はちっと舌打ちしたのだった。
その表情は「悪皇子」のそれなんですけれどー?
◇
「あのさあ、皇子からの求婚をその場で受けないなんてこと、あるか?」
ブルー様があきれたように言った。
横でデルフィン様がとうとう我慢しきれずにくすくすと笑った。
私達は指名の儀を終えて、別室でお茶休憩をしていた。
ブルー様がついて来いと言うのでついて来たけれど、ぶっちゃけ頭の中がごちゃごちゃなのだ。
「いえ、お言葉ですが、私に求婚する意味が分かりません」
「え?なんで?」
「なんで?」
「うん、なんで?」
「り、理由がありませんっ」
ブルー様が遠い目をした。
くやしいけれど、こういう顔は様になる。
「一目惚れ、かなあ」
「はい?」
「一目惚れ?知ってるだろ?さっきキーファスの話をしていた時に使ってたじゃないか」
「し、知ってます、一目惚れは。ブルー様が私に一目惚れしたということに驚いているんですっ」
一体どういうことなのか順を追って説明して欲しい。
「若い頃にうちのパーティーに来たことがあるだろう?」
「あります。質問攻めにあいました」
「あの時だよ」
「え?」
「あの時に、アノが聡明な人間だと分かった。そして個性的で面白い人物だってこともね」
「なんですかそれ」
「他の女は俺の質問に、当たり障りのない答えばかりだった。あるいは俺に気に入られようとするあざとい答えもあったなあ」
「それは、仕方のないことでは?一応表向きはパーティーでもお嫁さんを探す会であることは明らかでしたし」
そういう場では相手に気に入られようとするものだ。
「そうだろうな。でもアノは違ったよ」
え?そうだったかしら?
そもそも気に入られようなんて思っていなかったから、よく考えずにポンポン答えていた記憶しかないわ。
「もし仮に俺と結婚したとして、俺が浮気したらどうする?という質問の答えを覚えているか?」
「そんな質問ありましたっけ?」
全然覚えていない。
しかしブルー様はニヤニヤとして離れて座るデルフィン様と視線を交わした。
二人で話題にしたってことなのね。
「尻を蹴飛ばして実家に帰るって言ったんだよ」
「え?嘘?」
自分の顔が赤くなるのを感じた。
「今頃、赤くなってるなんてな。いやあ、新鮮だったなあ、あれ」
「し、失礼しました。皇子を蹴るなどと」
「いやあ、素晴らしいと思ったね。俺は一目惚れしていたよ。アノは気付いていないかもしれないけれど、女達への質問時間はアノが一番長いんだ」
「そうだったのですね」
知らなかった。
でも思い返せば会の後の女性達との会話で、なんか同情されたことがあった気がする。
あれは私だけ時間が長いこともあったからなのか。
「ところが、アノは婚姻が決まってしまった。いやあ、あの時はショックだったなあ」
ブルー様がしみじみと言った。
「でも、結果的に、きむ、えーっと、失意の未亡人になってしまった。気の毒にと思うのと同時に、俺はチャンスが出来たと喜んでしまった。いやあ、さすがにあの時は神に謝ったよ、俺も」
「なんですかそれは。不謹慎過ぎます」
「うん、分かっている。だから自重した。でも王位に就くことになったらすぐに結婚を申し込むと決めていた」
なんだか頭が痛くなってきそう。
「あれは?キーファスの時のこと」
ここでデルフィン様が口を挟んだ。
「ああ、あの時な。せっかくの段取りを台無しにしようとした女が出て来た時な」
ブルー様が悪戯っぽく笑い、また私の耳は熱くなった。
「仕方ないじゃないですか。ぱっと見は誰がどう見たって悪行ですよ」
「そう仕組んだんだ。当然だ」
「だから私が勘違いしたのは仕方ないことです」
「でも、あそこで出て来るか、普通。相手は王族だぞ」
「だって許せなかったんですもの」
「そこでまた惚れ直したんだよねえ、ブルーは」
「ま、まあな」
狼狽した?
ブルー様が狼狽したわ。
「あそこで出て来る女。王族相手に物言える芯のある人間。素晴らしいと思ったよ」
照れてる?
ブルー様が照れてる?
なんかいけないものを見ている気がするけれど、しっかり見ておかないともったいない気がした。




