私が気付いたこと
数日後、私はいつもの事務仕事の合間に休憩を取っていた。
うん、紅茶が美味しいわ。
「ここ、いいかな?」
「どうぞ」
私は来たか、と思った。
目の前に座ったのはブルー皇子。いえ、ブルー次期国王。
周囲で休憩していた人たちがおののいて席を立ってしまう。
自然と人払いが出来てしまっていた。
ブルー次期国王の手にはコーヒーの入ったカップがあった。
「コーヒー、お好きなんですね」
「まあね。夜遅くまで仕事をしている時に飲むようになって、それからは習慣みたいになったな」
「寝る前にコーヒーを飲むと、睡眠の質が悪くなると聞いたことがありますよ」
「お気遣いに感謝する。それにしても仕事熱心だな」
ブルー次期国王がにやりと笑って私を見た。
「誰かに才女と言っていただきましたし。いいお給料をもらっているのですから、給料分はしっかり働くつもりです」
「なるほど、そういう真面目なところも好きだな」
「な」
ペースを狂わされる。
何しろ青い瞳は美しく、まるで心の奥を見透かされるようである。
悪皇子は本来の姿ではないと知ってしまったことで、ニヒルな笑みも魅力的に見えてしまって困っている。
「プロポーズを受ける気は、まだないのかな?」
やっぱりその話よね。
ちなみに家に帰って私が返事を保留したことを伝えたら、父は卒倒して、侍女のリットルにはこんこんとお説教された。
護衛騎士のミッチオだけは「お嬢様らしいや」とがははと笑ったが、リットルに猛烈に叱られて小さくなっていた。
「受ける受け内の前に、確認したことがあります」
「ほう。なんだね?」
人も周囲にいないし、いいわよね。
「ブルー様は…」
「ブルーでいい」
「そうはいきません。ブルー様は…」
「命令だ。次期国王の命令」
なんなのよ、もう。
「ブルーは私にあなたの悪行の本当の意味をあの場で明らかにさせようとしていたわよね?」
「へえ、なぜ、そう思うんだい?」
リットルのお説教から解放されて、やっとベッドに入った時に考えたのだ。
昂っていてなかなか寝付けない私は、今回の件を思い返していた。
そして気付いたのだ。
「私が勤務している時に、わざと稟議書を回しましたね?」
「そんなことはない。稟議書は必要な時に出している。他の事務担当者も私からの稟議書に判を押したことがあるはずだ」
私はブルーの言葉に頷いた。
「確かにそうです。皇子の中でも稟議書の数はブルーさ、ブルーとデルフィン皇子のものが抜群に多いですし」
「だろう?」
「でも違います」
「何が?」
私は紅茶を飲んで唇を湿らせた。
「ブルーの悪行と呼ばれることに関する稟議書は全部私に来ていました」
「偶然じゃないのか?」
「違います」
「へえ、なぜそう言える」
粘るわね。
もしかして私との会話を楽しんでない?
唇に面白そうな笑みが浮かんでいるけれど。
「領地への補助金の申請の件です。領地の麦畑を焼き払ったあれです」
「だから偶然だろう?」
「違います。ブルーはあの日の2日前に帰還なされています。帰還されてすぐにいくつかの稟議書を書かれました。それは私が勤務する前の日にすでに提出されていました」
「ああ」
とうとうブルー様がしまったという顔をした。
「ブルー様の手際ならば、あの稟議書は前日に出されていて当然です」
「様がついてるよ」
知らないわよ、もう。
習慣なんだから仕方ないじゃない。
「それにデルフィン皇子もです」
「ん?」
「彼にヒントを出させましたね?」
「ヒント?」
「バーレ芋です」
ブルー様が肩を竦めた。
それはつまり正解と言うことだ。
「以前、この休憩所に顔を出すようになったのは、私の安全を確保する意味もあったとおっしゃっていましたね」
「言ってたねえ」
「でもあれは私が真実に少しでも近づけるように画策していたのでしょう?ちゃんと稟議書に目を留めているかを確認するために。だからこそ、ここぞと言う時にデルフィン皇子が私の前に現れていたのでしょう?」
「ま、ほとんど正解だよ。さすが聡明な才女だ」
「その才女って誰が言ってるんですか」
「え?知らないのか?本当に言われているんだぞ」
「知りません」
どこの誰から聞いたのやら。
「ほとんど、ってどういうことですか?他にも何かあるのですか?」
「ある」
ブルー様がそう言って私を見つめた。
何?
他に何がある?
私の気付いていない真実がまだ何かあるのか。
「それはな」
周囲を改めて見回してブルー様が顔を近づけて来る。
よほど機密性の高い話なのか。
私も仕方なく顔を近づけた。
そしてブルー様は私の耳元で小さな声で言った。
「好きな人を一目見たいからだ」




