第13話 問題ない。……えっ、本当に問題ない?
「ロエルが仕事の助手にならないかって言ったのは、あくまで私に魔石の副作用があらわれなかった場合の話だよね」
ラウレアーノ先生に魔石の持ち主にあらわれる副作用に関して聞きにいった帰り道の、馬車の中で。
自分の不安をおそるおそる口にした私に、ロエルは言った。
「その点は特に問題ないだろう。魔石つきのチョーカーの持ち主であるきみに副作用があらわれたといっても、その対処方法は昨夜、聖兎がオレたちに教えてくれたのだから」
……『対処方法は昨夜、聖兎がオレたちに教えてくれた』
ロエルが発したその言葉のせいで。
私は急に、馬車の中は今、ロエルと私、ふたりきりなのだということを強く意識してしまう。
顔が途端に熱くなる。胸の鼓動も速くなる。
(……た、たしかに――この国の人たちが聖兎と呼ぶ、人の言葉を話す不思議なうさぎさん、ティコティスは、魔石の副作用があらわれてしまった私にその対処方法を話してくれたけど……)
ティコティスが言ったのは、とんでもない対処方法だ。
(それもこれも、魔石は単なる石ではなく自分の意思を持っている存在だから……らしいんだけど)
ティコティスが教えてくれた、その方法とは――。
魔石が私の恋人であると勝手に認定してしまった人=ロエルに、私は毎日100回、100日間キスしてもらうこと。
そうしたら、チョーカーは私の首から はずれてくれる……という。
100回×100日=10000回 1万回もキス!
気が遠くなりそうな回数だ。
しかもキスとキスの あいまには、ロエルが私に愛の言葉をささやくことも必須!!
ロエルは、異世界からやってきた私(はるばる現代日本からやってきた私は、この国の人からみたら異世界人だものね)を人助けでキスしたのはわかってる。
ちょっと違うけど、きっと彼にしてみたら溺れている人間に人工呼吸をするような、人命救助活動の一環なんだろう。たぶん。
そんなわけで、私とロエルは昨晩さっそくキスしてしまった。何度も何度も。
(昨日の夜のことを思いだすと、たまらなく恥ずかしくなってきちゃうよ……。ロエルの唇の感触や、愛の言葉をささやかれたときの、耳に響く甘い低音も、まだはっきりおぼえてるから)
ロエルと目をあわせることもままならなくなり、私は彼から視線をそらしてしまう。
だから今のロエルがどんな表情をうかべているかはわからないけれど。
彼は、おだやかな口調で私に告げた。
「もちろん、どんな仕事の助手なのか、説明を聞いてから、きみ自身の判断で助手になるかならないか決めてくれ。異なる世界からやってきたきみには、なじみのない仕事なのかもしれないしね」
……あれ? ロエルはさっき――。
私がロエルに対して「私の持っているお金はこの国では使えないと思うんだ」って言ったら「きみはオレの仕事の助手になる話をことわっていないだろう。オレから助手の話を持ちかけたんだ。仕事の正統な報酬の前払いだと思えばいいのではないか?」って答えてなかったっけ。
あの言葉は、仕事の報酬を前払いするから、町で買い物すればいいって意味かと思ってたけど。
なのに今、ロエルは私に「きみ自身の判断で助手になるかならないか決めてくれ」って言った。
私を仕事の助手にする前提で話しているのかと思えば、私の意思で仕事を引き受けるか受けないか判断するように言ったり。
……これって、どういうこと?
真意を知るためにも、ロエルの仕事の話を彼から説明してもらおう。そうしよう!