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第12話 100日って長い? 短い?

 ロエルに蜂蜜のキャンディをひとつあげるだけで、やたらドキドキしてしまったのは、私の異世界トリップ2日目の午前中のこと。

 このあと私は、ロエルの館の馬車で彼といっしょにラウレアーノ先生のところに行って、魔石の副作用について聞いたんだけど……。


 残念ながら、ラウレアーノ先生が教えてくれた魔石に関する情報は、私に魔石のついたチョーカーをくれたティコティスから すでに聞いたものばかりだった。

 ティコティス……人の言葉を話す不思議なうさぎさん。


 昨日のティコティスの話によれば……。

 うさぎ以外の者が身につけるとチョーカーの持ち主に副作用があらわれる(可能性があるというだけで、何の副作用もあらわれない場合もある)と判明した今、ティコティスの国では、解決方法を専門家が研究中だという。

 私もある行為を毎日すれば、100日後にチョーカーがはずれるのだとティコティスから教えてもらった。


 そもそも。今、私の首にピタリと はりつき、とれなくなってしまったチョーカーは、元々はティコティスが自分の首につけていたもの。

 それをティコティスは、善意で私にくれた。


 言語の違う異世界で、私が会話に困らないように。

 だけど、異世界の人とも会話が可能な、高性能の翻訳機能を持つ、魔石のついたチョーカーは、元来うさぎのためにつくられたうさぎ用のチョーカー。


 うさぎがつけるぶんには、魔石の副作用もあらわれず、チョーカーのとりはずしも伸縮自在で簡単。

 でもうさぎ以外がつけると、副作用の危険があったり、チョーカーが首から はずれなくなったりと、いろいろやっかいな代物(しろもの)

 翻訳機能は、優秀なんだけどね。


 ラウレアーノ先生がすぐにチョーカーがはずれる方法を知らないとなると……。

 最短でも100日間は、私の首から魔石つきのチョーカーは離れてくれなさそう。


 ティコティスは、他にも解決方法を知っているっぽかったけど――。わたしは今、ティコティスと連絡がとりあえない。

 今度いつティコティスと会えるのか、まったく不明。また会えれば、いいんだけどな。



 ――結局。チョーカーの副作用の件は、ラウレアーノ先生を訪ねても進展することはなかった。

 先生の館の帰りぎわ。

 私の落胆が顔にでてしまったのだろうか。


 馬車の座席で私の隣に座っているロエルが、気づけば私の顔をじっとみつめていた。

 ふたつの澄んだ青い瞳。彼の真剣なまなざしにドキリとする。

 ロエルは私と目があうと、私を勇気づけるように言った。


「100日後には、きみは魔石のついたチョーカーから解放されるんだ。気にやむことはない」


「……ロエル」


「昨日も話したが、町によって買い物をしていかないか。きみがここで100日間、生活していくうえで、とりあえず必要になるものをそろえたほうがいいだろう」


 ――町で買い物。


「……えっと……それは――」


「何か不都合でもあるのか?」


 口ごもる私に、やさしく問いかけるロエル。

 ――不都合というか……。

 この世界の町が、どんな様子をしているのかは、非常に興味がある。

 私はこの世界に来てから、まだロエルの館とラウレアーノ先生の館しか見ていない。両方とも17世紀から18世紀くらいのヨーロッパにありそうなお屋敷にみえた。歴史にも建築にも、あまりくわしくはないから、あくまでそういう印象を受けた……に、すぎないんだけど。


 そして、ふたつの館を馬車で移動した際、窓から見えたのは木々や草花。

 もしかしたら、さっきの移動中の馬車の窓からだって遠くのほうに人の家やそこで暮らす人々は見えていたのかもしれないけど、だとしても私は目撃していない。


(だから、この世界の町を見学してみたいって気持ちがあるっていうのは本当。でも――)


 町で必要なものを買い物するとなると……、会社の帰りの私といっしょに異世界トリップしたバッグの中に入ったお財布の、その中に入った現金は、この世界で貨幣として流通しているものとは異なるはず。

 海外旅行なら、両替って手があるんだろうけど、なんたってここは異世界。

 お金を何も持たずにトリップしてしまったのと、同じ状況なんじゃないだろうか。


「ロエル、私が持っているお金はこの国では使えないと思うんだ」


「きみはオレの仕事の助手になる話をことわっていないだろう。オレから助手の話を持ちかけたんだ。仕事の正統な報酬の前払いだと思えばいいのではないか?」


 『いいのではないか?』 ……って、ロエルのくちぶりからすると、やっぱり町での買い物の代金はロエルが支払おうとしているのよね。

 この世界は魔術が発達している。だから現代日本の現金が、この国のレートにあわせて両替できる便利な魔法があるって訳でもなさそうだし。


 それと! そういえば……私は昨日、ロエルに仕事の助手にスカウトされていたんだった!! あまりにあわただしくいろいろなことが起きたから、つい忘れてた。というか――。


「ロエルが仕事の助手にならないかって言ったのは、あくまで私に魔石の副作用があらわれなかった場合の話だよね」

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