第36話 愛の言葉もいるのです!?
~前回(第35話)までの約150字まとめ~
異世界トリップした私は不思議なうさぎティコティスからチョーカーをもらう。
このチョーカーの持ち主には副作用がでる場合もあると判明。
私に出始めている副作用、その対処法をティコティスが説明するのを、トリップ先の館の主、ロエルとふたりで聞いている。
ティコティスは、私がロエルにキスしてもらえばいいって言うけど……。
『あ、1日につき100回キスといっても、無言じゃダメだよっ』
……はいっ? ど、どういうこと?
ポカンとする私と、ティコティスに質問をするロエル。
「無言じゃダメとは、どういう意味だ」
『キスは、愛の言葉をささやきながらしないと、魔石はそのキスをキスとはカウントしてくれないからね』
愛の言葉を、ささやきながらのキス……!
そんなの、ハードルあがりすぎちゃってるよっ!?
私はとなりに当のロエルがいるにもかかわらず、あまりの衝撃と動揺でティコティスに問いかける。
「……じゃ、じゃあ、今日私がロエルと交わしたキスは、魔石的にはノーカウントなの?」
チョーカー越しにティコティスが答える。
『あれ? きみたちはもうキスをしてたの? な~んだ、そうとは知らず、ぼく、この対処方法を話すの、めちゃくちゃ緊張しちゃったよ。ホッ……』
(ホッとしないでよ、ティコティス~!)
と、心で さけんでから、ふと気づく。
そういえば、私とロエルが中庭でキスしたのは、ティコティスが自分の世界に帰ってしまったあとのこと。
私たちがキスしているところをみたのは、黒装束の5人組であって、あのときティコティスは、すでに中庭から姿を消していた。
ティコティスは、私とロエルが黒ずくめの5人に中庭から出ていってもらうために、キスしたことを知らない。
だから私がチョーカーの副作用の対処方法として、ロエルと毎日100回、しかも100日間もキスするって言いづらかったのかぁ。
……って、いくら私とロエルはすでにキスしているからって、あれはあくまでも黒ずくめ5人衆に帰っていただくのが目的。
婚約者同士のお芝居の一環としてであって、キスしたいからしたわけじゃない。
でも。
魔石が私の恋人だと認識してしまったロエルにキスしてもらわないと、私は……。チョーカーに はめ込まれた副作用が発症したまま。
何日も眠れなくなっちゃううえに、起きているときは熱っぽくて全身がフラフラ。それも困る。
この世界は今日きたばかりのまだまだ知らない土地。
そんな場所で、体調をくずしっぱなしという事態は、なんとしても避けたい。
……あ、私、八方ふさがりだ。
『というわけで、ロエルは唯花のくちびる、もしくはそれ以外の場所に愛の言葉をささやきながら、毎日100回キスしてあげてね。100回以上しても まったくかまわないけど、翌日分には加算されないからね。 《愛の言葉→キス》 でも 《キス→愛の言葉》 でも、順番はどっちでもいいよ』
(……くちびる、もしくはそれ以外の場所にキスって……!)
ティコティスってば、可愛いうさぎさんなのにサラッと すごい発言してない?
まあ、おでことか、ほっぺのことを言いたかったのかもしれない。
すくなくともティコティスは、おでことか、ほっぺのことを指したんだろう。
きっと、そのはず。
それにしても毎日100回のキス (愛のささやきつき) なんて私には、やっぱりハードルが高い。
私はおずおずとティコティスに質問する。
「……えっと、私がロエルに1日100回キスしてもらう以外に、何か方法はないの?」
『タイプCの対処法で、愛をささやかれキスされる以外の方法か。それはね――』
そのとき突然、ティコティスの声にかぶさるように。
ごくわずかな音で、チョーカーからベルのような音がした。
チョーカーに内蔵されたアラームの音というよりは、ティコティスの周囲でベルがなっている雰囲気。
ベルの音は、音楽の演奏というより、学校や職場で開始や終了をつたえるための合図のように感じた。
ティコティスはベルの音を聞き、あわてふためいた声をだす。
「あわわっ、ごめん、唯花にロエル! もっときみたちに伝えておきたいことがあったんだけど。もう、ぼくの休憩時間が終わっちゃうんだっ」
きゅ、休憩時間が終わっちゃう!?
ティコティスは学生? それとも社会人ならぬ社会兎?
『それじゃ唯花、ロエル! ぼく、時間をみつけて また通信するからね』
せっぱつまった声のティコティスにロエルが問う。
「最後にもう一度聞く。ユイカに100日間キスしたら、本当に魔石のついたチョーカーはユイカの首からはずれるんだな」
『うん、だから頼んだよ、ロエル』
ティコティスの高音とは対称的な、ロエルの低音が室内に響く。
「ああ、まかせてくれ」
……えっ! まかせてくれって――ロエル。
それって、その……――。
『ふたりとも、仲よくねーっ!』
ここで通信は、ぷつりと切れた。
「……ティコティス!? ティコティス――っ!!」
私が何度呼びかけても、もうティコティスの声は聞こえなかった。