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第33話 魔石が私に求めているのは、恋人との……

 ~前回(第32話)までの約160字まとめ~


異世界トリップした私は不思議なうさぎティコティスからチョーカーをもらう。

このチョーカーの持ち主には副作用がでる場合もあることが判明。

私に出始めている副作用についてティコティスが説明するのを、トリップ先の館の主、ロエルとふたりで聞いている最中なんだけど……。

チョーカーに はめ込まれた魔石とやらは、私に何か求めているみたい。

『実はね、オレンジ色だった魔石がピンク色になりつつあるということは――。魔石は、自分の持ち主である唯花に、この国で恋人ができることを求めているんだっ』


 ティコティスの話す内容が、おもいがけなくて、私の声は裏返ってしまう。


「私に恋人!? な、なんで、そんなことに……」


――魔石は、私にこの国で恋人ができることを求めている。

 

 それが本当なら魔石は、ずいぶん世話焼き――って、いうか、はっきりいって、おせっかいだよ。

 ……そりゃ、私は今日公園の池のそばのベンチで彼氏にフラれたばかり。

 でも、だからこそ、正直、誰かと恋人同士の関係になるのは、とうぶん結構です、って心境なんだけど。


 チョーカーから、ティコティスの困ったような声が響く。


『「なんで、そんなことに」って言われても、うーん。……魔石は、唯花に一番向く、言語を学ぶ方法は――恋人から言葉を教わったり、愛をささやかれて、ときめいたり……。そういった、イチャイチャしながら楽しく他言語をおぼえていく方法が、最短で最適だと判断したんだ。あくまで魔石の判断だよ』


 ま、魔石の判断……。


「私に、タイプCの症状が出始めると、どうなっちゃうの? ものすごい勢いでラブレターをしたためたと思ったら、それをムシャムシャ食べちゃうとか?」


『……もしそれだと、タイプAの症状と少し似てるね。タイプCが引き起こす行動は、どちらかというと、タイプBと似てるかもしれない』


 タイプBと……似てる? あれ、それ以前に――。


「そもそも、ティコティス。チョーカーについてる魔石が翻訳機の役割をちゃんと果たしてくれているから、私にとっての『外国語を話す人』が恋人になったとしても……すでに、おたがいに言葉は通じるんだよね。なのになぜ、ピンク色になった魔石は、持ち主に恋人をつくることを求めるの?」


 あの人と会話をしたいという動機で、外国語をおぼえたいという気持ちは、私にだって理解できる。


 だけど、すぐれた同時翻訳機能を持つ魔石のチョーカーを身につけていれば、言葉を交わすことは可能なのでは……。


 おなじ疑問を、となりにいるロエルも持ったようだ。

 私とロエルはふたりでティコティスに、そこのところの説明を求めた。


『……やっぱりきみたちも、すでに言語は通じている状態なのにナゼって思うよね。……でも、だからこそ、それがチョーカーの副作用と言われている状態らしいんだ。持ち主からみたら、本来の目的じゃない作用が働いてしまっているってことだからね』


 私はティコティスに再度確認するように質問した。ゴチャつきそうな頭を整理するためにも、自分の口で言葉にしたかった。


「それって、『あの人と話すために言葉を習得したい』って感情がチョーカーの持ち主にとっては一番の他言語習得への道――だとしても、言語でなら、すでに他者と通じあえる状態なのに、チョーカーの魔石が、判断ミスしてるってこと? 魔石自身がちゃんと同時通訳をしているのに?」


『そうなんだ。もともと、うさぎ用のアイテムとして製品化されたものだから、人間が持ち主になると、魔石に宿った意思を持つ魔力は、うさぎ相手のときよりも疲れやすいらしいんだ。それで、「疲れているからって翻訳ミスをしてはいけない。コトノハの魔石である自分が通訳せずに誰が通訳するのだ」って意識が強まって――結果、翻訳機能以外の面で判断ミスを起こしてしまう……って、報告データには、まとめられている』


 魔石の責任感の強さが災いして、使用者に副作用がでる――場合もあるってことらしい。


(すぐれた同時翻訳の影には、そんな苦労が……)


 魔石は、呪いやイタズラで本来の用途とはちがった症状を引き起こしているわけではないと知り、複雑な気分になった。


 私が身振り手振りやパントマイムで、異世界でも意思疎通できるほどの、ゆたかな表現力があれば、魔石も疲れずにすんだかもしれない。

 今日の私、魔石のついたチョーカーをつけてからも、本当によくしゃべったから、私も責任を感じてしまう。

 きっと魔石はもう、くたくたなんだ。


 考えこむ私の横で、今度はロエルがティコティスに質問する。


「タイプCの副作用は、チョーカーの持ち主に恋人ができることを、魔石がのぞむ。そしてタイプBに似た症状がでるというのは、具体的に、どんな症状がでるんだ?」


 あ。タイプBは、何日も起きっぱなしで、自発的に猛烈な勢いでさまざまな勉強を続けた……と思ったら、今度はその反動で何日も眠り続けてしまう。

 そのくりかえし。ただ、起きているときの勉強の集中力はすごい。

 でも睡眠はちゃんととらないと、のちのち大変なことになっちゃう。だったよね、たしか。


 それって、まさか、まさか――。

 恋人を求め、寝る間もしんで朝・昼・晩と町を徘徊。


 運命の出会いや恋人のできるチャンスをいまかいまかと虎視眈々と待ちかまえるようになったり。

 ――かと思えば連日徹夜の恋人さがしの疲れから、今度は何日も眠りこける。


 ……うわぁ、異世界まできて、この人なにやってるの!? って感じ。


 数日分の睡眠時間をけずってまで、恋人さがしなんて。恋愛に対して積極的すぎる。

 そのアグレッシブさを他のことにも向けたほうが建設的なような。

 とくに私のような、べつに異性からモテるというわけじゃないタイプなら、なおのこと。


 まあ、そもそも異性にモテるタイプなら、本人が恋人をほしがれば、相手はすぐにできるよね。だから、モテる人なら、恋人さがしに奔走ほんそうする必要もなさそう。

 できたばかりの恋人と眠る時間も惜しんで、いちゃらぶしている可能性はあるかもしれないけど。


 ティコティスは、ロエルからの質問、「タイプCの副作用は、チョーカーの持ち主に恋人ができることを、魔石がのぞむこと。そしてタイプBに似た症状がでるというのは、具体的に、どんな症状がでるのか」に、答えづらそうだった。

 『うんと……あの、その……』と言葉をにごす。


 チョーカーの通信機能を使って、私とロエルのふたりと会話中のティコティス。いまのティコティスは、言いよどむことが多い。

 それほど、話しづらい、でも話さなきゃいけないって内容が、この後にひかえているのかも。

 答えが気になった私は、恐る恐るティコティスにたずねる。


「……タイプCの副作用って、この世界で恋人ができるまで、タイプBみたいに何日も眠れなくなるの? それで寝る間も惜しんで恋人さがしでもしちゃうの?」


 ティコティスは、ひどくあわてた口調で返事をする。


『……そ、そういうことじゃないんだっ! 最後まで話さないうちに、だまちゃったりして、ふたりともごめんね』


 ティコティスの、『そういうことじゃない』という言葉に、私はホッとする。

 いっぽう『寝る間も惜しんで恋人さがしでもしちゃうの?』なんて、あからさまな質問を、ロエルのまえでしたことが、いまさら恥ずかしくなる。


(となりにいるロエルと、目があわせられないよ……)


 不自然に思われない程度に、私は彼から視線をはずした。

 私もロエルもだまったままの室内に、ティコティスの声が響く。


『……実はね』


 実はね――? 今度の『実はね』は、一体なんなの、ティコティス。


『魔石は、持ち主がチョーカーをつけた瞬間から、石の色がピンクに変わりつつある時点までで、一番多く言葉を交わした異性を、持ち主の意中の相手であり恋人なのだと――。そう、判断してしまうんだ』


 な、なにそれ……。

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