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第31話 石は何色? ピンク色!

 ~前回(第30話)までの約100字まとめ~


異世界トリップした私が不思議なうさぎティコティスからもらったチョーカーは、持ち主に副作用がでる場合が! 私にはどんな副作用がでるの? でないの? チョーカーの通信機能を使ってティコティスがフローチャートで診断中。

『 ――《チョーカーについている石は、現在オレンジとピンクの中間のような色ですか?》…… 』


 うっ……。ついに、ついに、私にあてはまる質問がきてしまった!


「……い、『イエス』……」


 ティコティスからの質問を肯定した瞬間。

 体がものすごく熱くなった。

 まるで、ショウガ入りの紅茶を飲んだあとみたいに、体がポカポカしている。


 お風呂に長く入りすぎちゃったときのように体がフラーっとしてきた。

 今日の私は、ちょうどいいころあいの入浴時間だったのに。いまごろになって、のぼせちゃうの?


 ――ううん、きっと湯あがりだからじゃない。


 お風呂とは、関係なく、私の体に変化が起こっているんだ、きっと。

 ……だって、私の首元の、チョーカーの魔石がくっついているあたりを中心にして、体全体が燃えるみたいに熱くなっちゃってるから。


 水、飲みたいな……。

 そう思ったとき、グラリ……と私の上半身がバランスをくずした。 


(――えっ……!)


 いまの私はイスに腰かけてるのにもかかわらず、前方へ倒れるような姿勢になってしまった。

 ちゃんとイスに座りなおそうと、背すじをのばそうとした瞬間。


 めまいがひどくなり、くずれるように上半身が前へ倒れそうになる。

 手でテーブルのはしを持ち、それをささえにして倒れるのを阻止しようと思ったのも、つかのま――。

 テーブルの端をつかむよりまえに、私は背もたれのないイスから、転げ落ちていた。


「……ひゃっ!」


 床に体を打ちつけてしまう。

 ガッターン……と、大きな音を部屋中に響かせてしまったのは、私が倒れるときにイスも同時に倒してしまったからだ。


 夜中の騒音は、昼間以上にまわりの迷惑になってしまう。

 館のみんなには明日の朝、あやまろう。

 いまはまず、床に転がったイスを元通りにしようと、自分の脚は床にペタンとつけたまま、腕の力で上半身だけ体を起こした。


『……おーい! 唯花? だ、大丈夫!?』


 チョーカーからティコティスの声がした。

 これ以上彼を心配させたくなくて、私は わざと明るく言った。


「平気、平気。ちょとめまいがしてイスから転げ落ちちゃったけど、べつにケガはしてないはず。少し待っててもらえると、うれしいかも」


 私は、あわてて今度こそ、倒れたイスを起すために手を動かそうとした。

 ――でも、手どころか、体に力が入ってくれない。

 つい数秒まえまでなら、腕の力だけで体を起こせたのに、いまは全身からどんどん力が抜けていく感じ。


『……唯花? 唯花っ!?』


 ティコティスが私をくりかえし呼ぶ声が聞こえる。


「……っ――」


 だけど、いまの私には、上手く声をだすことさえ、むずかしくなっていた。

 それでも、どうにか声をふりしぼってティコティスに返事をしようとした。そのとき――。

 バンッ! と大きな音をたてて、部屋の扉が開け放たれた。


(だ、誰?)


「――ユイカ」


 あ、この声は――。


「ロ、ロエル……?」


 いまの私は呼吸まで苦しくなっちゃってるけど、どうにか、声はでるようになったみたい。

 この部屋の扉がある方向へ視線を向ける。


 室内の明かりはまだ消していないから、扉を開けて入ってきたのがロエルであることはすぐに確認できた。

 彼は血相を変えて、とびこんできたって雰囲気。


 落ちついた雰囲気のあるロエルが、いまは肩を上下させている。

 さっきまで着ていた紺色の上着ではなく、身につけているのはシンプルな白いシャツだから、よけい肩が上下していることがめだった。


 私はふと、ロエルの部屋は、この部屋のちかくだと聞かされていたことを思いだす。

 ――それで、私がいまイスを倒しちゃったときの、大きな物音が彼の部屋まで聞こえてきたんだ……。

 ガッターンって、すごい音だったもの。

 何かあったと思い、心配したのかもしれない。


 ただでさえ今日の私は、チョーカーについている魔石による副作用があらわれるか、あらわれないかの瀬戸際。

(それがどんな作用なのかは、いま調べている最中で、いったいどんな症状がでるのか、わからないけれど)


 実際、いまやたら体が熱くてフラフラなのは、もう副作用の影響が出始めているのかもしれない。

 チョーカーの魔石も、最初にみたときの、まごうことなきオレンジ色から、ピンク色に近いオレンジ色へと変化しているし。

 私は床に座りこんだまま、ロエルに向かって言う。


「ちょっとイスから転げ落ちちゃったの……。大きな音がしたから、ロエルのこと、起こしちゃったみたいだね。ごめんなさ――……って、えっ? ロ、ロエルっ……!」


 ロエルは、私の言葉に返事をするよりもはやく、風を切るようなスピードで私のそばへ駆けよってくる。

 あっというまに、ベッドの横にあるテーブルとイスのそばまで、たどりつく。

 私はロエルのすばやい動作を目で追いながら――。

 ベッド横のテーブルとイスが、ロエルといっしょに自分の視界に入ったので、ふと思いだす。


 このテーブルとイスと、いえば――。

 いまさっきは、激しいめまいのせいで、私はくずれるようにイスから転げてしまった。

 だけど。

 そうなるまえに、私はイスに腰かけた状態でテーブルに置かれた鏡をのぞいた。

 その鏡のおかげで、私の首についている、魔石のはめ込まれたチョーカーの色が変化していることに気づいたんだっけ……。


 数分まえのことを、朦朧もうろうとした頭で思いだしたとき。

 いつのまにか、私の正面にやってきていたロエルは、ひざまづくようにかがみこんでいた。

 彼は、私のひたいにスッと手をやる。


(……あ、ロエルに、おでこをさわられるのは、今日2度目だ)


 ぼんやりと、この部屋とは別の部屋で、ロエルが私の額に手をやったことを思いだす。

 あのときの私は、「くしゃみをしただけなのに、ロエルは心配性だなぁ」なんて、思ったけど……。


 いまの私は、ロエルの手がひんやり冷たくて、気持ちいいと感じる。

 ……それは、私の体温があがってきているから?

 今日、ロエルが私の額に初めてふれたときは――。

 彼の手のひらをとてもあたたかいと思ったのに。


 ロエルも、さきほどまでの私の額の熱とのちがいを感じたみたいだ。

 ひとりごとのように「……熱いな」と、つぶやく。


『唯花……? 気分は大丈夫なのっ? となりにロエルがいるのかい?』


 ティコティスが、チョーカーの通信機能を使って、質問してくる。


「……うん、ロエルにも心配させちゃったみたいだけど、彼はいま私のちかくにきてくれたよ……」


 息は荒かったものの、私はどうにか返事をすることができた。

 ロエルが私に向かって、不思議そうに聞いてくる。


「この声は、今日、館の中庭にいた聖兎なのか?」


「そうなの、このチョーカーを通せば、自分の世界に帰ったティコティスと、会話ができるんだって。ティコティスの世界のお医者さんもチョーカーの副作用を研究していて……。その先生の研究結果をもとに、ティコティスにいまの私の状態を調べてもらっていたの」


「ティコティス――。それは聖兎の名か?」


「……ええ、あなたたちが聖兎と呼んでいる、うさぎさんの名前よ」


『そうだよ、ロエル。ぼくはティコティス。今日のきみは、ぼくのおしりしか見てなかったかもしれないけど、中庭できみが唯花を婚約者だと言ったこと。ぼくにはちゃんと聞こえていたよ』


 あ、だからティコティスは、「ロエルが言ってることは、本当だよ~! 唯花はロエルの花嫁さんになる子なんだよっ……――」って言って、黒装束の団体に囲まれて困っていた私と、私を救おうとしていたロエルに、助け船をだしてくれたんだ。


(ティコティスの『今日のきみは、ぼくのおしりしか見てなかった』ってセリフだけ抜きだすと、いったい何の会話だって気もするけど。だいたいロエルがあらわれたとき、ティコティスのおしりは不思議な光に飲み込まれかけていて、すりガラス越しのようにぼんやりとしかみえなかったはず)


 ……私、心の中でツッコミを入れられるくらいには、熱っぽさも息苦しさも、おさまってきてるかも。

 なんとか、このまま回復してほしい。

 そう思いながら、ロエルに私の現状を説明した。


 いくぶんかおさまってくれたとはいえ、苦しい息のなか話すことになる。

 どうしても呼吸が荒くなってしまう。

 ロエルは私を心配しているようだったが、私は なんとか、いまの状況を彼に伝えることができた。


 ティコティスに私の症状を話している最中だから、あとしばらくしたら、私がいまどんな状態なのか、お医者さんに直接診てもらわなくても、ある程度ならわかると。

 ロエルへの説明を無事終えた私はティコティスに問う。


「ティコティス、次の質問は?」


『……質問は、さっきでおしまいなんだ』


「え? おしまい……えっと、じゃあ――結果は、いったい……」

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