不機嫌な主、第二王子
始めの方は内容がわかりにくいかも知れませんが、どうかお付き合い下さい。
タン、タンとドラムがリズムを作り、
シャン、シャンとそのリズムに合わせて鈴が鳴る。
集まっている人々は誰もが幸せそうで、声を揃えて叫ぶ。
「「「第二王子様、お誕生日おめでとう!!」」」
誰かが投げた花びらが、ひらひらと舞っていた。
今日はウルーズ王国の第二王子の誕生祭。
王宮前の広場には国民が集まってお祝いの歌を歌ったり踊ったりしている。
今日、そして明日の2日間はみんな楽しく過ごすのだろう。
…だというのに。
「なんでそんな不機嫌なんですか…"第二王子"」
窓に向けていた目をイスに座っている人物に移す。
銀色の髪と瞳、今は不満げに結ばれた唇。笑えば絶世の美少年、と噂される第二王子がそこにいた。
「…セリーヌ」
「はい、なんでしょう?」
「僕が不機嫌な理由がわからないとか言わないよね?」
質問したのは私なのに質問で返されてしまった。
…というか本当に理由がわからない。第二王子の言い方からして、私が何かしたのは違いない。…でも怒られるようなことはしていない。むしろ何もしていないのだ。
「…失礼ですが第二王子」
「なんだよ」
「私が本日、第二王子にお会いしてからまだ20分しか経っていないのですが」
「…で?」
「…どこに不機嫌になる要素があるのでしょうか?」
誠意を込めて聞いたつもりだが、今の会話さえ気に食わなかったらしい第二王子は眉をつり上げた。
本当にわからない。20分前に挨拶をして、私はずっと窓際に立って広場を眺めたりしていただけだ。
…まさかだけど、"存在が気に入らない"とか言われたらどうしよう。
そんなことを悶々と考えていた私の前へと第二王子が近づいてくる。
癖で屈んで頭を下げようとする私を手で制すると、急に肩を掴んできた。
「…なんでセリーヌはワンピースじゃないの!?」
「は?」
私は第二王子の目線を追って…自身のズボンを見て、あまりにもアホらしい理由に、頭を抱えたのだった。
「そんなことだったのですか…」
「そんなことってなんだよ、重大だろ」
あれから10分。なんで?とひたすら聞く第二王子を宥めて、私も頭の中を整理するまでに少し時間がかかってしまった。…それでも懲りてないみたいだけど。
「で、なんでセリーヌはワンピースじゃないんだい?」
優雅に足を組み、紅茶をすする姿は絵画のように美しい。…さっきのアホらしい様子を知らなければ、だけど。
思わずバカなんですか、と言いそうになるのを堪えて返事をする。
「…お言葉ですが第二王子…私は貴方の"専属騎士"なんですよ?ワンピースなんて動きにくいもの、着るわけないじゃないですか!」
当然だろう、騎士である私はいざとなれば剣を使う。…ワンピースなんて邪魔なだけ。
なんで女の私が騎士なのかは後日話すことにしよう。
「しかし、セリーヌも女性なんだから…」
確かにウルーズ王国の伝統として、祭事には女性はワンピースを着なければならない(理由は忘れたけど)
。しかし私は例外だろう。
「諦めてください。なんなら、メイドを5人ほどお呼びしましょうか?」
ほんの冗談のつもりだったが、第二王子は今まで以上に不機嫌な様子でこちらを見た。
「…セリーヌ。僕が女性のワンピース姿を見たいだけだと、本気でそう言っているのか?」
「申し訳ありません、過ぎたことを。…お許しを」
私の謝罪にも不機嫌そうに第二王子はふん、と鼻を鳴らして顔を背けた。
…私と第二王子は元々、幼なじみだった。
だから知っているのだ、彼が誰よりも誠実で真面目なことを。
きっと私を気にかけてくれただけなのに、私は心にもないことを言ってしまった。
…護るべき相手に不敬なことを言うとは、私も騎士としてまだまだ未熟だと改めて実感する。
「…第二王子はいつ頃、広場へ行きますか?」
気まずさを隠しきれないまま、ぎこちなくそう聞く。
祝われる本人である第二王子は広場へ行き、祝ってくれている国民に顔を見せることになっている…の
だが…
「セリーヌがワンピース着てくれたら行く」
…訂正しよう。第二王子は誰よりもお子さまで、わがままな私の幼なじみ·シャルルのままだった。
平和ボケするほど、ウルーズ王国の王宮は穏やかな日々が続くのであった。