第八十六話 制御の授業です──臨時のようです
すでにお気付きのこととは思いますが、書籍化にあたって作品のタイトルが変わりました!
テリアが編入してきてからしばしの時が経過したが、さほど違和感なく彼はノーブルクラスに馴染んでいた。
魔法使いとしての実力は、編入試験で見せたとおりノーブルクラスに相応しいうえに、人当たりの良さも相まってまるで最初からノーブルクラスの一員だったかのように溶け込んでいた。
そんな中で迎えた本日の実技授業担当はウェリアスだ。
「今日は魔力制御の訓練を中心に行っていこうと思います」
見た目はナヨッとした風だが、アレでも水属性魔法だけで四属性持ちのアルフィを圧倒した猛者らしい。
「皆さんもご存じの通り、魔力制御は魔法使いにとって必須技術です。当たり前ですね、魔力が制御できなければ魔法陣の投影も魔法の発動もまま成りませんから」
ウェリアスは差し出した手の平を上に向ける。
彼の手に小規模な魔法陣が投影されると、魔法で生み出された全く同じサイズの水球が無数に出現し、空中を縦横無尽に動き出していた。
常日頃から魔力に触れている生徒たちは、教師のしている事に目を見張る。
無秩序に動いているのではない。全ての水球が一定の法則で動いており、互いに干渉しないように絶妙な感覚ですれ違っている。
同じサイズの水球を大量に生み出すのにも、それを維持し続けるのも、そしてそれらが干渉し合わないように操っていること。どれ一つとっても卓越した魔力の制御力が窺えた。
魔力制御に自信のある俺も、あれだけの数を同時に操るのは無理だ。とてもじゃないが技量が足りない。
(さすが、国内トップクラスの学校で教師を務めるだけある)
俺はこの学校に入学する為の試験で、一人の教師と模擬戦を行っている。相手はヒュリアという女性教師で、確かラトスが所属している組の担当だ。
結果として俺は彼女に勝利し、文字通り腕尽くで合格をもぎ取った訳なのだが。
(入学試験の時は、明らかに手を抜かれてたよな)
手を抜いていたというよりは、油断や慢心か。
──実のところ、俺はあの時点でこの学校のハイレベルさに驚かされていた。
何せ、ヒュリアは二十を超える炎矢を同時に投影し、全てを瞬く間に炎槍に『書き換えた』のだ。尋常ではない魔力制御の技術に舌を巻くしか無かった。
あれだけの炎槍を同時に六角形防壁で防ぎきる自信は、さすがには無かった。
俺が咄嗟に接近戦を選んだこと。
ヒュリアの中で接近戦が無かったこと。
この二つが幸いしたのがあの結果だ。どちらか一つでも欠けていれば、あるいは初っぱなからヒュリアが本気を出していたら実技試験の満点合格はなかったかも知れない。
少し話がずれたな、話を今現在の授業に戻す。
ウェリアスは操っていた水球を全て消し去り、改めて生徒たちに目を向ける。
「魔力制御の技量如何で、同じ魔法であっても使い手次第でその『質』に大きな差が生まれます」
それは純粋な威力であったり、投影の速度であったり、消費する魔力であったりと、『質』の差は魔法使い同士の戦闘において無視できない要素だ。
「ですが、一口に魔力制御とは言いますが、その奥深さに果てはありません。極めようとするのなら、あるいは千の魔法を習得するよりも困難でしょう」
千里の道も一歩から、というやつか。
「今回の授業では、僕が今しがたお見せた『遊び』を君たちに真似てもらいます」
ウェリアスの口にした授業内容に生徒全員が『マジで?』という顔になる。今のを『遊び』と称してしまうウェリアスに俺も目が点になった。
はっきり言って……超絶難易度の技術だぞあれ。
生徒たちの様子に、ウェリアスは悪戯っぽくくすりと笑った。
「安心してください。いきなりあの数をこなしてくれとは言いません。もっと少ない量で単純な動作から初めましょう。それから徐々に数を増やしていけば良いです」
だったらなんとかなるか。
他の生徒と一緒に胸を撫で下ろしていると──。
「では……リース君」
ウェリアスから名指しで呼ばれ、俺は「ん?」と顔を上げた。
「君の魔力制御はおそらくこのクラスの中でも随一です。だから今回は僕と一緒に他の生徒を指導する側に回ってください」
──臨時教師リースの誕生である。
出された課題は『十個の球体を魔力で形成し、半分ずつ使ってそれぞれで円を描く』というモノだ。
ウェリアスは片手で行っていたが生徒は両手を使って良いとのことで、俺は試しに両手の上にそれぞれ五つの魔力で形成した球体を生み出し、それらを円状に動かした。
「うん、素晴らしいね。コレなら教師役として申し分ないよ」
俺の『お手本』に満足げに頷く。
「では、リース君を参考にして各自始めてください」
号令と共に、生徒たちは互いの邪魔にならないように離れて出された課題に挑戦し始めた。
『全てを均一にする』というのが最初の関門。注ぎ込む魔力の〝ムラ〟を無くし、常に一定量になるよう調整しなければならない。
さらに均一に作った球体を『動かす』という点。しかも五個一セットで、別々の角度で円を描かなければならない。おそらく、球体を二十個維持しつつ同じ方向に回転させるよりも難易度が高い。
「これは中々に……難しいですね」
カディナは魔力で作った球を投影すると、ゆっくりと旋回させていく。眉間には小さく皺が寄っており、苦戦しているのが窺えたが、球の大きさや挙動は安定していた。
アルフィは、カディナに比べて球の旋回速度が速い。ただ、彼女に比べると球の大きさが時折不均一になったりしている。同時投影を常日頃行っているアルフィでも、意識的に魔力制御を行うと調子が狂うのだろう。
ミュリエルはアルフィの逆だ。球の均一化に関しては上手いが旋回速度が遅い。普段から眠たげな目も、今は一心に手元の旋回する魔力球に向けられている。
他の奴らだと大概の者は球体の円が一周するのにかなりの時間を要したり、球体の大きさが途中で不均一になったり、時折維持しきれずに球体が弾けてしまう者もいる。
それでも、形だけはできはじめている。魔力球の動きや大きさが乱れ始めるのは、旋回運動を加え初めてからだ。
一般クラス生徒のレベルだと、まず均一化した魔力球を十個投影する時点で挫折する。それから旋回運動をさせようにも、魔力球を維持するので掛かり切りになってしまう。
「さすがはノーブルクラスってところか」
俺は自身が所属するクラスの優秀さに改めて感じ入った。
ナカノムラです!
すでに活動報告ではお伝えしましたが、こちらでも書籍化についてのご報告を。
まず前書きにもありましたようにタイトルが変わりました。
その名も『大賢者の愛弟子』です!
出版社はTOブックスさんで発売日は五月十日の予定です。
そして皆さんお待ちかね、絵師さんについてです。
『大賢者の愛弟子』を担当してくださるのは、なんと『植田亮』さんです。
「めっちゃベテランじゃねぇか!! 本当に良いんですか!?」と話が決まった時にはものすごく驚きました。
あと超嬉しかった。
すでにナカノムラの手元にはキャラや表紙のラフが届き始めており、今から完成版が待ち遠しい限りです。
編集さんからの許可が下り次第、こちらもご報告する次第なのでお待ち下さい。
では以上、ナカノムラでした。
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