第八十四話 お届け物のようです──マイペースがいました
書籍化!!
学食に着けば、相変わらずの盛況具合。テリアを案内していた時間だけいつもより到着が遅れ、混雑具合もそれだけ増していた。
ただ、そんな中でもラトスの姿は割とすぐに見つけることができた。というのも、ラトスを含む俺たちが使う席というのは定位置になっているからだ。
ラトスと初めて会ったときに、奴が水浸しにした付近。正確に言えば、その時に俺とアルフィが座っていた席周りが、俺たちが普段使っている場所だ。明確に誰かが言い出したわけでも無いのだが、何故か定着していた。
ラトスはその位置で一足先に昼食をとっていた。
「ラトス、お待たせ」
俺が声を掛けると、ラトスは手を動かすのを止めてこちらを向いた。
「やぁ。どうしたんだ? いつもより随分と遅かった……」
最後まで言い終える前にラトスの眉を潜めた。その視線は俺の直ぐ後ろにいるテリアに注がれている。
「……どうして彼がここに?」
「担任の指示だよ。編入初日だから、学食に行くがてらに案内しろってよ。あと、本人もラトスに用事があるんだとさ」
俺が返答すると、テリアがラトスの前へと歩み出た。
「こうして面と向かって顔を合わせるのは初めてだったかな。テリア・ウォルアクトだ。以後よろしくお願いするよ」
テリアは俺の時と同じように、柔らかい笑みを浮かべながら手を出しだした。
「……ラトス・ガノアルク」
さすがに『それ』を払いのけるほどラトスも狭量ではなかったようだ。警戒するような目を向けながらではあるが、差し出された手を握り返した。
「これから同輩になるんだ。ラトスと呼んでも良いかな?」
「好きに呼べば良いよ」
「だったら俺も好きに呼んでくれて構わない」
随分と温度差のある握手だことで。ラトスが眉間に小さく皺を寄せているが、テリアはスマイルを保ったままだ。
いつまでもにらめっこ(睨んでいるの片方だけだが)に付き合っているのも時間の無駄なので、とりあえず昼食を取りに行く。各々の昼食を受け取った俺たちは、ラトスの元に戻り近くの席に腰を下ろした。
ラトスはしばらくテリアの方を見ていたが、やがては溜息をついてから再び昼食を口にし始めた。俺たちも少し遅れて食べ始める。
一足先に昼食を食べ終わったラトスが口を開いた。
「それで、ノーブルクラスに割り込みで編入してきたウォルアクトさんが僕に何の用で?」
初っぱなから喧嘩腰だよこいつ。入れ替え戦で割り込みされたことを相当根に持ってるな。
入れ替え戦で見させてもらったトムの実力を省みるに、相手がテリアで無くラトスであっても結果は変わらなかったと思う。ラトスもそれが分かっているから、尚更腹立たしいに違いない。
対してテリアは──少し困った顔をする程度。
まるで人見知りで警戒する子供とそれにやんわりと対応する大人の図。どちらが子供で大人かは問うまでも無い。
話の外野である俺たちは昼食の手を止めて様子を伺う。ついでに、いつでも防壁を投影できるようにテーブルの下で構えておく。何気にラトスのやつって沸点が低いからな。以前に食堂でやらかしているので二度目はないと思いたいが、念のためだ。
「我がウォルアクト家は昔からガノアルク家と懇意の仲。ジーニアスに編入したら一度は挨拶しないと失礼に思ってね」
「…………それだけ?」
「それだけ──と言いたいところだが実は別件がある。あるいはこちらが本題かも知れないな」
テリアは制服の内ポケットから封入りの手紙を取り出し、ラトスに差し出した。
「君宛の手紙を預かってきた」
「僕に……手紙?」
意外な別件に疑問を抱きながら、ラトスは手紙を受け取る。
表紙には何も書かれておらず、裏返してみると封蝋が成されていた。
その封蝋を確認した途端、ラトスの表情が驚きに見開かれた。
それから少しすると険しい表情に戻る。
「……この手紙は誰から?」
「あの人から直々に頼まれた。顔を合わせたら是非渡しておいて欲しいとね」
「そう……なんだ」
封蝋以外には何も記されてはいなかったが、どうやらラトスにはその手紙の差出人に心当たりがあるようだ。
しばらくは無言で手紙を見つめていたラトスだったが。
「……ごめん、僕は先に失礼させてもらうよ」
何か思い詰めたような顔のまま、席を立ち上がった。
「あ、ラトス。ちょっと良いかな」
足早に去ろうとするラトスに対して、テリアが待ったをかける。ラトスは振り向きざま、最初よりも明らかに険のある視線をテリアに向けた。
「今度、是非二人で話をしたい。お家の事についてとか、いろいろと」
「………………」
ラトスは了承も何も無く、そのまま黙って去って行ってしまった。
その後ろ姿が見えなくなってから、カディナがポツリと呟いた。
「あの封蝋──」
「心当たりがあるのか?」
アルフィの問いかけにカディナは自信なさげに。
「……確かガノアルク家の家紋だと。チラ見程度だったので確信はありませんけど」
一斉に、手紙の運び人へと俺たちの視線が集まった。
「ノーコメントとさせて頂く」
苦笑を交えながら肩を竦めるテリア。
「……失礼しました。そもそも、他人の手紙を盗み見するなどマナー違反でした」
「それを言うなら、こんな場所で預かりものを出した俺が悪い」
カディナの謝罪にテリアは気を悪くした風もなかった。
ここは貴族が多く通うジーニアス魔法学校だ。当然、他家の家紋を知る者も多いハズ。テリアとしては勘ぐられることを承知の上でラトスに手紙を渡したのかもしれない。
それにしても、実家からの手紙か。家族からの便りを受け取ったにしてはラトスの様子が妙だったな。嫌悪──は言い過ぎだがテリア以上に警戒心を抱いていたようにも見える。
明日、それとなく聞いてみるか? いや、友人だからといってさすがにそこまで口出しするのもどうだろうか。
らしくなく悩んでいる俺だったが。
「ごちそうさま。あれ、みんなどうしたの?」
「…………お前って子は本当にもう」
テリアが手紙を出してから手を止めた俺たちの中、我関せずに黙々と昼食を食べ終えたミュリエル。あまりのマイペースっぷりに、俺は肩を落とすのであった。
書・籍・化!!
当作品を気に入ってくれた方、よろしければブックマーク登録をお願いします。
また、小説下部にある評価点もいただけると嬉しいです。
目に見えた形での応援があるのとないのとでは作者のモチベーションが段違いですので。